【3902】集中力がない原因はADHDか統合失調症か
Q: 現在、ADHDであるとしてコンサータを服用している大学4年生の20代男です。
端的に言えば、私の悩みは集中力がないことなのですが。
それが果たして統合失調症に由来するものなのか、あるいはADHDであるものなのかがわかりません。
そこで林先生には現状の自分が心療内科で適切な治療を受けられているのか、また今後の将来
設計においてコンサータの服用を継続していいのかをお聞きしたいです。
もちろん本来は第一に担当医に相談すべきであることは重々承知しています、しかし自分の思
考と行動は支離滅裂でとりとめがなく、担当医に相談できるほどはっきりと言葉にできるもの
ではなく困っています。
また親は自分がADHDであることも、統合失調症であることも否認していて、信頼できる友人もいないため。
完全に無関係で、私が匿名で相談でき、かつ精神疾患の見識の富む林先生に私のお話を聞いて 欲しいのです。
以下はADHDだと自分が診断されるまでの経緯と、自分はかつて（あるいは現在も）統合失調
症の前駆期にあるのではないかと考える根拠です。
1）私立の中高一貫校で、特に問題なく学校生活を送る。
中学2年生の英語の先生曰く、「息子さんは授業中にいつも上の空である」。
全ての科目において成績は下の下であったが、本好きの影響で現代文の点数だけは良かった。
2）高校2年生の時に、国立の高いレベルの大学を志望する。
親は自分が高い目標を設定し、勉学に励むことを歓迎し、惜しむことなく予備校の授業料など
を払ってくれた。
しかし、自分自身で高いレベルの大学で勉強したいという目標を設定したにも関わらず、全く
勉学に身が入ることはなく。 大学受験にはあえなく失敗する。
3）自身の希望するところではない、低いレベルの大学に入学し、それを周囲は殊更に責めることは決してなかったが。 自分は理想と現実の乖離に苦しみ、ふさぎこむようになる。
この頃から、自分はおそらく一般社会に溶込み、まともに生きていくことは困難ではないの
かと考え、小説家や漫画家になりたいという別の道を模索するようになる。
4）漫画や小説を書いてみようとするが、全く集中することができず、再び思い悩むようにな る。たまたまインターネットの記事でADHDに関する記述を見かけ、そして心療内科を受診し た。
小学校時代の話、中学高校時代の話、大学での話、現在困っている話を聞いてもらい。おそらく不注意優勢のADHDであろうと診断される。
それからカウンセラーから2時間くらいの診察を受けて、今は結果待ちで。ですので、正確に診断されているわけではないかもしれません。
診察を受けた後、私が薬物での治療を強く希望すると担当医は、診察の結果を待たず にコンサータを処方してくれて、今は一ヶ月ほどお薬を使っています。
※この時点では、まだ自分が統合失調症の兆候があるとは思ってもいませんでした。
5）コンサータにより、集中力に関して劇的な改善が見られました。
それらを以下に具体的に記述します。
3時間以上、机に向かっていても苦痛ではない。
自分はスーパーでアルバイトをしているのですが、業務をしていると腹の奥底からイライラが
湧いてきて、アルバイト終了後はいつも親に理不尽にいらつき怒鳴りつけていたのですが、コ
ンサータを飲むとアルバイト終了後であっても両親に対して理不尽にいらつき怒鳴りつけることが一切なくなり、笑顔あるいは平常心で接することができるようになり。
また同時に、アルバイト終了後に疲れ果てるまで自慰行為に耽る、5時間ほど飲まず食わずでゲームにのめり込むなどの悪癖もおさまりました。
（こういった悪癖は、思い返せば高校時代からあった）
これらによりアルバイトと創作活動の両立が叶う。
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以上がADHDと診察されるまでの経緯と、そしてコンサータの処方によって確かにADHDや、二次障害についてすら回復の実感を得られているという記述になります。
そして、ここからが、自分が統合失調症の疑いがあるのではないのかという記述になります。
前述の通り、私は大学受験に失敗して、望まない低いレベルの大学に入学することでふさぎ込 むようになりました。
そして、そこで統合失調症の前駆期として典型的ないくつかの症状が現れていたように思うのです。
・満員電車が怖くて、一限の授業に出ることができない。
・駅や大学の食堂などの大勢の見知らぬ人がいる場所にいると、視線が自分に集まってるよう
な気がして汗が出てものすごく疲れる。
・例えば誰かの笑い声が聞こえると、自分が笑われてるような気がして、その場から逃げ出したくなる。
・教室へ入るということは、その場に友達がいるか、極端に人数が少ない場合を除いて、強い抵抗がある。
そして同時に、妄想というか、荒唐無稽な思考にも囚われています。
・自閉症の子供を百人ほど洗脳し、組織的に最新型のドローンを開発することで、国会議事堂
を占拠し、日本を転覆させることが可能だ。
・数千桁のランダムな自然数がふと頭に思いつき、それを2桁ずつ丸で囲み、それらの組み合わせは全て『家族』であり、『兄弟』であると確信する。
・直腸のその先に前立腺が存在するのは、特に男性の同性愛者を貶めるための神様の悪戯であ
る。
・人間のパーソナリティは量子的であると考える。
・両親が死んだ時点で、自分は死ぬべきだ。
これらの発想の大部分は、創作活動に付随して思いついたもので、当然こんなものは小説には
使えませんし、ここ以外で人に話したこともありません。
現時点の冷静な私が、客観的な視点で見ると、これらは脈絡がなく、意味不明な発想ですが。
これらを実際に思い付いていた当時は、例えば数千桁の自然数の話などは、思いついた時はフ ィールド賞を確実に取れるほどの世紀の発見だと確信して、一人で鳥肌を立てていました。本 当に意味がわかりません。
しかし、本当に意味がわからないとたった今僕は書きましたが、一方でこの支離滅裂な発想を
ユニークで意味のあることだと考える自分もいるのです。
以上が統合失調症の疑いを抱いた根拠となる記述です。
これらを踏まえた上で、改めて林先生への質問をまとめさせてください。
私の集中力がない原因はADHDなのですか、統合失調症なのですか？あるいはその両方でしょうか？
コンサータの効果が劇的すぎて、手放したくありません。この考えは危険ですか？
林:
私の集中力がない原因はADHDなのですか、統合失調症なのですか？あるいはその両方でしょうか？
集中力の低下でお悩みのことはお察しいたしますが、質問者の現在の問題は、それよりもむしろ、メール内に「妄想というか、荒唐無稽な思考」 として列記されている症状だと思います。そして結論を先に言いますと、その原因はコンサータであることも考えられますので、主治医にこの「妄想というか、荒唐無稽な思考」の内容を伝えて、適切な対応をしていただくことが先決です。
質問者はご自分が統合失調症ではないかと疑っておられる、その一つの理由は、大学受験に失敗したころに 「統合失調症の前駆期として典型的ないくつかの症状が現れていたように思う」ことです。そして質問者が挙げておられる症状は、確かに統合失調症の前駆期の症状として矛盾はありません。しかし、これだけですと単に過敏になっていただけとも解釈できますので、これらの症状が見られたことから言えるのは「統合失調症前駆期の可能性あり」にとどまります。このような症状があった場合、統合失調症の発症に移行するケースとそうでないケースがあります。
この【3902】では、さらに、「妄想というか、荒唐無稽な思考」が現れています。そこに列記されているものは、確かに、「妄想というか、荒唐無稽な思考」にあたる内容で、こうした症状が見られた時点で統合失調症発症の疑い濃厚ということになります。その意味で質問者のご心配は妥当であると言えます。
但しこの【3902】のケースでは、コンサータを服用しているという要因を考慮しなければなりません。コンサータは一般名はメチルフェニデートで、薬理学的には覚せい剤に近いものです。そして、同じメチルフェニデートであるリタリンを服用している人には、副作用として統合失調症と区別がつかない精神病症状が出現することがよく知られており、また、リタリンは依存性も大きな問題になっています。コンサータは身体への吸収速度等の違いがあることから、リタリンよりは安全とされていますが、頻度はともかくとして、リタリンと同様の副作用があり得ると考えて十分な注意をすることが必要です。
この観点からすると、この【3902】のケースに見られた「妄想というか、荒唐無稽な思考」は、コンサータの副作用である可能性を考える必要があります。このとき重要なポイントは、コンサータ服用と、症状出現の時間的前後関係ですが、
「統合失調症の前駆症状」と解釈できる症状が出たのは
大学受験に失敗したとき
「妄想というか、荒唐無稽な思考」が出たのは
それと同時
コンサータの服用開始は
一ヶ月前
ですので、すると症状が出たのはコンサータ服用より前ということになりますので、一見するとコンサータとは無関係と判断できるように見えます。
しかし他方で、コンサータを処方される前の時点では、
※この時点では、まだ自分が統合失調症の兆候があるとは思ってもいませんでした。
と記載されていますので、実のところ症状とコンサータ服用の時間的前後関係がどうであったかは不明です。
また、たとえコンサータ服用前からある程度の症状があったとしても、それがコンサータによって促進・悪化されたという可能性は否定できません。もしそうだとすると、今後コンサータを飲み続けることによって、激しい精神病状態に陥るおそれもあります。
コンサータの効果が劇的すぎて、手放したくありません。この考えは危険ですか？
危険です。このメールの内容を、時間的関係も含めてできるだけ正確かつ詳しく、主治医の先生にお伝えください。
(2019.10.5.)
