【3889】統合失調症の典型的な症状が一度だけ出たのですが、一生服薬が必要でしょうか

Q: 30代女性です。
20代の後半に関係妄想が半年ほど続いたことがあります。
職場の対人関係で、異常なストレスが長期間続いたことが原因で、関係妄想が始まりました。最初は職場の中だけだったのが、職場の周囲、家の近所で私のことが噂されているように感じ、最後はテレビやインターネット上でまで私のことが広く知られているように信じていました。
妄想とは別の理由でちょうど退職することが決まっており、仕事を辞めてからも妄想は続き、ひどくなりました。家族や友人との人間関係が壊れるほど、家や外出先でもわめき散らして必死に妄想(当時の私にとっては真実)を訴えました。
その後、糸が切れたように妄想がおさまり、知人に進められて心療内科を受診して、病名は伏せられたままエビリファイ6mlを処方されました。2ヶ月ほど服薬し、誰にも見られない自習室でやっと心から安心する時間を過ごすうち、自分が異常な状態で、世間は全く私に関心がなかったと心から納得しました。
1年ほど服薬期間が続き、陰性症状にあたる症状はありましたが、その間に正社員で再就職して2年ほどになります(その前に5年以上正社員で働いていました)。服薬は通院が難しいこと、抵抗感が消えなかったことから就業後半年ほどで飲まなくなり、断薬して1年半です。今の仕事は知的レベルの高い仕事ですが、対人関係が円滑で、全く問題なく過ごせています。薬をやめてから妄想がでたことは1度もありません。

統合失調症は一生服薬が必要と言われます。しかし、私は自分が統合失調症の典型的な症状がでていたことは納得しましたが、自分が統合失調症だとはどうしても思えないのです…。20代のころは精神的に不安的な部分が強く、対人関係に難しい部分があったし、軽いパニック障害はあったと思います。今は、努力しながら年齢を重ねたことで、かなり改善されています。
私は統合失調症患者として、一生服薬が必要と思われますか?

 

林: 約半年にわたって精神病症状があり、しかもその症状はかなり激しいものであったと認められますので、診断名は統合失調症ということになるでしょう。

私は自分が統合失調症の典型的な症状がでていたことは納得しましたが、自分が統合失調症だとはどうしても思えないのです…。

統合失調症の典型的な症状が一定期間以上続けば、それは統合失調症とするのが現代の標準的な診断です。したがって、「統合失調症の典型的な症状がでていた」のであれば、「自分が統合失調症だとはどうしても思えない」というのは矛盾で、それは質問者自身として自分は統合失調症であったと思いたくないという願望を述べているにすぎないということになります。

20代のころは精神的に不安的な部分が強く、対人関係に難しい部分があったし、軽いパニック障害はあったと思います。

仮にそうであったとしても、統合失調症という診断を否定する根拠にはなりません。また、「軽いパニック障害」であったかどうかはこのメールからは不明です。

ただし、この【3889】の質問は、質問者が(1)統合失調症か否か (2) 一生服薬が必要か否か の2段階から成っており、むしろ主眼は(2)のほうであると見ることができます。

統合失調症の大部分のケースでは、一生服薬が必要であると考えるほうが適切です。ただし、必要がないケースもあります。その一つは、一過性に統合失調症の症状が出現し、その後は服薬をやめても症状の出現が一切ないケースです。
そういうケースが存在することは確かですが、実際に個々のケースについて、「一過性に統合失調症の症状が出現し、その後は服薬をやめても症状の出現が一切ない」にあたるかどうかを判定することはきわめて困難です。なぜなら、服薬をやめてみないと、そのようなケースにあたるかどうかの判定は不可能だからです。そして、「服薬をやめてみる」というのは、統合失調症ではかなり危険な試みで、服薬をやめてみたら再発した場合、取り返しのつかない事態に直結することもありますし、また、そこまではいかない程度の再発でも、再発したから服薬を再開しようとしても、本人に病識がなく服薬再開ができないということもしばしばあるからです。

実際には、「服薬をやめてみないと、そのようなケースにあたるかどうかの判定は不可能」とは限らず、それまでの症状からみて、「服薬をやめたら再発することは確実」と判断できるケースもあります。しかし逆に、「服薬をやめても再発しないことは確実」と判断できるケースはまずありません。
ただし、「服薬をやめても再発しないことがある程度まで期待できる」と判断できるケースはあります。それはこの【3889】のように、症状がそれほど長くない一定期間に限られ、その症状は文字通り完全に消え、その後の本人には思考障害を含め一切症状がないというケースです。(厳密にはこの【3889】のケースがその通りかどうかはメールの記載からは断言できませんが、ここではその通りであったと仮定して話を進めます)

そうしますと、この【3889】では、徐々に薬を減らしていき、最終的には薬をやめることを目指す、という方針は十分に考えられます。ただしそれは、定期的に医師の診察を受けつつ、慎重に行うことが必要です。
実際にはこの【3889】のケースは、

服薬は通院が難しいこと、抵抗感が消えなかったことから就業後半年ほどで飲まなくなり、断薬して1年半です。

という経過で、そのようにして服薬をなしくずしにやめてしまうのは非常に危険ではありましたが(そのようにして再発する統合失調症のケースは膨大に存在します)、結果的には今のところは再発していないということになります。すると「服薬をやめても再発しないケース」にあたる可能性はありますが、まだまだ慎重に経過を見ることが必要だと思います。たとえば、

薬をやめてから妄想がでたことは1度もありません。

妄想があってもそれが妄想であると自覚できないことが統合失調症では典型的ですので、このようなご本人の報告からは、本当に妄想がでたことが1度もないかどうかはわかりません。「自分は薬をやめたが何の症状もない、何の問題もない」と本人は確信していても、実際は再発していて客観的には症状が出ているということは統合失調症では非常によくあるものです。

(2019.10.5.)

05. 10月 2019 by Hayashi
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