【3685】うつ病で複数回休職からの復職、つまづきっぱなしです
Q: いつも興味深く拝見させていただいております。50代の女性、会社員です。
現在までの病歴を簡単に記載いたします。
・10年ほど前、度々の徹夜など業務量過多と経営上の会社内の混乱などもあり、うつ病との診断。
最初は疲れや頭痛などで欠勤や遅刻が増え、次第に倦怠感がひどくなり、会社の最寄駅まで来ているのに会社までの10分ほどが歩けない、通勤の往復でずっと涙が止まらない、不眠や早朝覚醒などが次第にひどくなり精神科を受診。4か月ほどの休職中、トレドミン、パキシル、マイスリー→マイスリーで悪夢などが続きハルシオンの変更→さらにデパス追加、副作用の便秘がひどく大黄甘草湯追加→トレドミンをノリトレンに変更 といったことを2-3週間おきに変更していただきました。
このノリトレンが効果があり、半年以上頭の中に靄がかかったような状態が、ある時期にさぁっと思考が明瞭になってきました。その後は、パキシル20mg・ノリトレン50mg・デパス0.5mg・ハルシオン0.125mg(不眠が酷い時のみ)・大黄甘草湯。
4か月ほどの休職から復職しました。ただ、当時は会社の制度が未整備で面談や軽減勤務などがなにもない状態で復職してしまったため、寛解とは言い難い状態だったのではと今となれば考えます。
・6年ほど前に2回目の休職
人事異動により上司とのコミュニケーションがうまくいかず、従来の業務が他の人に移る一方で自分は仕事のなくなり、机やロッカーの掃除などを半年ほど続けるだけの状況、上司の叱責は他のメンバーにもわかるようにされる(メールでのやり取りで大量にCCが入っているなど)といった状態で、出社への恐怖心がつのり体調にも影響が出てきました。服薬は続けていましたが遅刻などが目立つようになり、再度休職。
主治医との相談で、これまで効果が高かったと思われるノリトレンを100mgに増加、不眠や早朝覚醒ではハルシオンを0.25mgに増加、その他は以前と同様にデパス0.5mg・大黄甘草湯。
今回の休職では会社の制度が変わり外部のカウンセリングを受けることができ、身体症状は軽減してきたもののカウンセラーの方の判断などもあり1年半の休職となりました。
実際には十分に回復ではなかったかもしれませんが、最後の2か月ほどで気持ちの面が上向き、復職となりました。
・3年ほど前に3回目の休職
復職してから半年ほど時折休みなどありつつもなんとか通勤していましたが、(これといった大きなきっかけはなかったのですが)頭痛や倦怠感などが次第に強くなり、復職1年後ほどに一週間を体調不良で休んでしまいました。それ以前にも昼間の強い眠気や取れない倦怠感などがずっと続いており、会社の人事の判断で結局3回目の休職が2年間となってしまいました。
服薬は新しくレメロン15mgを1か月ほど試していたところで、多数の抗鬱剤を出せなくなったとのことで効果がわからないままレメロンは断念することになってしまい、ノリトレン・パキシル・デパス・ハルシオンのままでした。
・現在3回目の休職から復職して約半年
休職期間満了ぎりぎりでなんとか復職の許可が出て半年ほどになります。薬は不眠の症状が弱まってきたことからハルシオンを0.125mgに、状態が落ち着いたことからノリトレンを50mgにしています。
さて、経過のご説明が長くなってしまいましたがご相談事項はここからとなります。
表題にあります通り、3回目にもなってしまった復職後につまづきが多くうつ症状がこのまま治らないのだろうかと非常に不安が大きくなっています。
復職後の状況としては
・復職後1か月で2度休んでしまった
・その後2、3か月目は休まずに通えた
・4か月目に1度遅刻、1度半休
・5か月目に1度休み、2度遅刻
・6か月目(先月です)に1度半休、1度遅刻、2日休み
※「遅刻」としましたがフレックス制度があるので勤怠上は遅刻にはなりません。「当日の朝、急の連絡で」という状況です。
という状況です。
理由としては頭痛や腹痛や風邪っぽいなどその時々で異なります。
人事担当者には「自分の立場がわかっているのか?」「口では皆心配していると言うが、本心ではどう思っているかわからないのか?」とそのたびに叱責されました。
(実は先月の2回目の休みではこの叱責から不眠になってしまい、恐怖心で朝起きられなかったような状況でした)
複数回の休職からの復職で、人事の方が励ましや心配よりも叱責になるのは致し方ないのでしょう。ただそれをとてもしんどく受け止めてしまう自分がいて、休んだり遅れたりしてしまう度にとても自己嫌悪に陥ります。
また、叱責で感じる恐怖心で、何度か夜中に涙が止まらず頭の中が混乱して眠れないということがありました。
主治医の先生は「症状は揺り戻しもありるし、薬を大きく変える症状ではないと思う」とのことで、前述の薬は欠かさず服用しています。
ですが、最初の発症からすでに10年以上、どん底の症状(布団からまったく起き上がれないなど)は脱したものの、病気の症状としてこれ以上良くなることは無理なのでしょうか?
それとも休職の間に甘え癖などついてしまったもので自身を律するしかないでしょうか?
出世や昇進、花形の職種などは望んでおらず、せめて周囲に叱責や軽蔑されない状態に戻りたいというのがいまの望みです。
主治医に他の薬の処方などを相談してみるべきでしょうか?
他のご相談の重篤な症状に比べれば些細な悩みで大変申し訳ありません。書いていていささか恥ずかしくなってきてしまいましたが……ここまでお読みいただきありがとうございます。
通院、服薬、休職、復職…その後をどのように生きていけばよいか悩むばかりの毎日です。林先生のご経験などから、他の方がどのように乗り越えていらしたのか何か教えていただければ幸いです。
林: 10年間にわたり満足すべき回復が得られず、お悩みのこととお察し申し上げます。
けれどもこのケースは、まだまだ今以上に十分な改善が望めると思います。そのための具体的な方法を三つに分けてご説明します。
(1) まず薬物療法です。これまでの処方についての具体的な記載に乏しく(薬の名前は書かれていますが、処方量と、その量を飲んでいた期間の記載がありませんので、具体的な記載は乏しいと言わざるを得ません)、判定不能な部分も多々あるのですが、おそらく確実な事実は、次の3点と思われます。
・ノリトレンがよく効いたという体験をお持ちである。
・そのノリトレンのこれまでの最大量は100mg
・症状が落ち着くとノリトレンは減らしている。今は50mg
これらが事実だとして、しかも10年にわたり再発を繰り返しているという病歴と合わせれば、医学的な答えは明白です。この【3685】のケースが再発を繰り返しているのは、ノリトレンによる治療が不十分なためです。せっかくよく合うノリトレンという薬に出会ったのに、大変残念なことです。
具体的な方策として、第一に取るべきことは、「よくなったからといって、薬を減らさない」ということです。これはうつ病治療において非常によく誤解されている点で、この【3685】のようなケースでは、よくなかったからといって抗うつ薬を減らすのは誤りです。それは再発の危険性を高めるだけです。いま「この【3685】のようなケースでは」と言ったことには意味があり、現代において「うつ病」と呼ばれているものは種々雑多な病態を含んでいますので、「よくなったら減らす」ほうがよいケースもたくさんあります。それどころか、そもそも薬など不要なケースもたくさんあります。けれどもこの【3685】のケースは違います。このケースはまず間違いなく内因性のうつ病であり、かつ、すでに病相を繰り返していますから、薬物療法は必須で、かつ、症状がよくなったからといって減らしてはいけません。イメージとしては高血圧の治療にたとえられるかもしれません。高血圧では、必ず薬を続けなければいけないケースがたくさんあります。そうしたケースでは、血圧が下がったからといって薬を減らせば、また血圧が上がるのは当然です。この【3685】は、せっかく血圧が下がったのに薬をやめてまた血圧を上げ、病気による苦しみを長引かせているのと同じです。
そして第二は、薬の量が不十分です。うつ病には薬が効きます。しかしそれは、十分な量の薬を十分に飲んだ場合に効くということです。この【3685】のケースの症状と経過で、ノリトレンの最大量が100mgというのはあまりに少なすぎます。再び高血圧にたとえれば、もっと薬を強くすれば血圧が安定するのに、あえて少ない量を飲み続けることによって、高血圧の状態を維持しているようなものです。
【3685】の質問者にシンプルに提案しましょう:
ノリトレンを150mgにして、今後はずっと飲み続けてください。
他の薬については、この回答の冒頭に記した通り、具体的な記載に乏しいので判断できません。けれども、記載されている薬がすべてだとすると、抗うつ薬と抗不安薬と睡眠薬以外は処方されたことがないようですので、これも長引いているうつ病の薬物療法としては不適切です。抗うつ薬だけでは効果が不十分な場合は、気分安定薬(リーマス、デパケンなど)、抗精神病薬(ジプレキサなど)の追加、または置換などを行うのが定法で、一部は日本の健康保険でもうつ病に対する治療として認められています。
したがって、このケースでまず行うべきことはノリトレンの増量と継続で、それだけで相当な確率で著しい改善が見込めますが、もしそれでは不十分な場合は、上記のような抗うつ薬以外の薬の追加・置換が次の手ということになります。
(2) 薬物療法だけでは不十分な場合、電気けいれん療法という選択肢があります。
精神科Q&Aの他のケース(【1341】夫の重いうつ病が電気けいれん療法で劇的に回復しました、【2898】うつ病を発症して20年になるのにまだ治りません。仕事も退職しました。、など)もご参照ください。また最近では、維持電気けいれん療法という手法も少しずつ広まりつつあります。うつ病の再発防止のために、定期的に電気けいれん療法を行うというものです。
もっとも、繰り返しますが、この【3685】のケースはこれまでの薬物療法がまだまだ甘く不十分であり、電気けいれん療法を考える前に試みるべき薬物療法がまだまだたくさんあると言えます。
(3) 職場での対応が改善されることで、再発の可能性は著しく下がります。
上司の叱責は他のメンバーにもわかるようにされる(メールでのやり取りで大量にCCが入っているなど)
人事担当者には「自分の立場がわかっているのか?」「口では皆心配していると言うが、本心ではどう思っているかわからないのか?」とそのたびに叱責されました。
これらはうつ病の方に対して明らかに不適切な対応で、わざと再発させるようにしているに等しいです(まるで「うつ病に対してしてはいけない対応の見本」のようです)。これらの対応をはじめとして、おそらくこの【3685】のケースの職場は数多くの不適切な対応をしており、それがうつ病の経過を悪化させているのだと思われます。これはひとことで言えば「うつ病に理解のない職場」ということになりますが、他方、疾病利得のみを求める擬態うつ病が「うつ病」として日本の職場に跋扈している状況からすれば、真のうつ病(【3685】は真のうつ病です)に対してもまた、理解のない対応になることがあるのは必然とも言えます。しかしそんなことをいくら言っても今の【3685】のケースにとって何もなりませんので、ここは「職場での対応が改善されることで、再発の可能性は著しく下がります」と指摘するにとどめたいと思います。そして本来これは(2)の電気けいれん療法の前、さらには(1)の薬物療法の前に記すべき重要な項目なのですが、おそらく現実には【3685】のケースの職場の改善は少なくとも短期的には望めませんので、(3)に位置づけました。
職場の対応は再発防止のためにとても重要ではありますが、この【3685】のケースは、(1)に示した薬物療法だけで十分に改善が期待でき、また、再発防止も期待できると思います。うつ病は治ります。但しそれは適切な治療を受けた場合です。残念ながらこの【3685】のケースは、治療が不適切であったために長引き、再発を繰り返していると思います。(もちろん職場の不適切な対応もそれに拍車をかけています)
(2018.6.5.)