【3657】義母が躁状態ではないかと思われます
Q: 私は５０代女性です。 親族間でトラブルが続き３年前から心療内科に通院治療中、不安障害、自律神経失調症（期外収縮他）の説明を受けています。 今日ご相談したいのは私の体調不良の原因ともなりました義母（８４歳）のことです。私の主治医は私の話を聞いたうえで義母について「著しい性格の偏りがある」と言いましたが私は義母は躁状態なのではないかと思うのです。以下にいくつかのエピソードを書いてみます。なるべく簡略になるようにしますので言葉遣いなど失礼お許しください。
◆ とにかくしゃべる。大声で早口、しゃべり出すと周囲の者が口をはさむすきもない。話している間に興奮してきて唾が飛び入れ歯が外れる。１０年ほど前に声がかすれるようになり耳鼻咽喉科で「しゃべりすぎ」と言われた。近所に住んでいるので夕飯のおかずなどを持って行くと私を玄関に立たせたまま３時間しゃべり続けたことがあり「すみませんが帰ります」の一言を言う隙もないほど話が途切れない。
◆ 長時間話している間に次々に話題が変わる。私の「今日買い物中にAさんに会った、お義母さんによろしくと言ってました」をきっかけにAさんの身の上話→Aさんの妹の話→友人の話としゃべり続け「しーちゃんが」「さっちゃんの婿さんが」と私が全く知らない人の話を延々としゃべり続ける
◆ 話している間に誰かと喧嘩をしたことなど過去の不愉快な出来事を思い出すとその場その時にその喧嘩相手に向かって言っているように目を吊り上げ大声で「あんた！誰に向かってそんなことを言ってるの！」などとリアルに再現するので私が怒鳴られているような不快な気持になる。また、たいしておかしくもない話題で黄門様のようにひとりで大声で笑う。
◆ 話の始めと終わりで全く話題が変わっており、いったい何の話がしたかったのか理解できないことが多い。同じ話を別の日にまた話す、何度も繰り返す。
◆ 「私は死なないような気がする」と頻繁に口にする。亡くなった義父が入院中義父の清拭やおむつ交換などの世話を看護師に一切させず「入院中にもお父さんの世話を全部自分でやった」「周りの人が皆私をほめる」としきりに自慢する。
◆ 知人の前で私たち夫婦に「お金が余ってるから新車でも買ってやろうか」と大声で言ったり、私たちが家を買うときにも「土地代を出してやる、ローンを半分払ってやる」などと自信たっぷりに言うが実際それらを実行することはなくそれ相応の財力もない。しかし近所の人には私たちの住宅購入費を１０００万円出したとの嘘を平気で言いまわる。
◆ 近所に住んでいるので些細なことで私たちの家に怒鳴り込んでくる。旅行の予定が夫の勤務の都合で延期になると「なぜあんたたちの都合で延期にしなければならないのか！」と私に向かって怒鳴る。誕生日などでいったん受け取った贈り物を「こんなものはいらない！なぜこんなものを持ってきたのか」と玄関先に投げつけて帰る。怒り出すとこちらの話も聞かず手がつけられない。
◆ 食料品などを大量に買い込んで食べきれなくなり傷みかけた野菜などを私の家に持ってくる。それも裏の垣根から声をかけ「この野菜もう腐りかけているけど捨てるのはもったいないからあげる」と垣根の隙間から庭に投げ込んでいく。後日それを食べたかと聞くので「捨てた」と言うと激昂されると思い「食べた」と言うと「あんな汚いものを食べたのか」と馬鹿にしたように笑う。近所に「うちの嫁は私が捨てるような汚いものでも平気で食べる、地面に投げたものでも拾って食べる」と言いまわる。
◆ 結婚の挨拶と結婚式当日の２度しか会ったことのない私の母のことでほとんど義母の憶測に過ぎない悪口を言い続け、私の母が亡くなったことを伝えに行ったところ「今まで散々悪口を言わせてもらったが死んだ人の悪口は言われないのでもうやめる」と言った。
◆ 対人関係でトラブルが多い。自分の姉妹とも大喧嘩を繰り返す。喧嘩中の義母の妹が末期がんで入院中に面会に行き「こんなとこで何してるの？私に逆らうから罰が当たったんじゃないの？」「私は見舞いに来たんじゃない、あんたの無様な姿を見に来ただけだ」とお見舞金を入れた封筒を顔に投げつけて帰って来てやった、妹は涙をぽろぽろ流してした、という話を得意満面で私に話す。その妹が亡くなった時葬儀に出ないと言って周囲を困らせた。
◆ 数年前から膝が悪く、近所の看護師をしている人が「手術をしたらどう？」と言ったとたん突然激昂し「私の足のことで他人が余計な口を出すな」と道端で１時間にわたってその人と口論になった。
◆ 和歌山ヒ素カレー事件の犯人と私が同年齢というだけで、私を見ているとあの犯人とダブって見えてきて私の顔を見るだけで鳥肌が立つ、私が食べ物に毒を入れるんじゃないかと恐ろしくてたまらない、などの発言、数年前に私の夫が入院中に「働けないなら家を売って生活保護を受けろ」「使いものにならない人間はいらない」、私が心療内科にかかるようになってからは「病人は気持ち悪いので家に出入りしないでほしい」「精神病院にかかるような人間は何をするかわからない、殺されでもしたらこわい」など他人の気持ちを考えないような無神経な発言が多い。
◆ 私が出産で入院中に勝手に家に入り部屋のカーペットを自分が買ってきたものに敷き替え、家具の配置も替えてしまっていた。その他の家具の配置などについてもあれこれ口を出す。言う通りにしないとキレる。
◆ 本人は暴言などについての自覚がない。
◆ 躁とは無関係だと思いますが、義母はほとんど読み書きができません。年金や健康保険のような見慣れた郵便物だけはわかるようですがそれ以外の郵便物や宅配の不在票のようなもの、町内会からの居住者確認表（氏名生年月日を記入するだけのもの）などは全部捨ててあり、家に１冊の本もなく新聞もとっていない。カレンダーに通院日を「内科」「整形」と書いておくとどちらかわからなくなる。銀行郵便局の手続きがひとりでできない。 以上いくつかのエピソードを書いてみましたが、これらのことは義母が高齢になってからではなく私たちが結婚した２５年前、義母が５０代後半のころからずっと続いています。毎日一緒に暮らしているわけではありませんが、今日は少しおとなしいとか不機嫌だと思う日はあっても明らかなうつ状態は見たことはありません。私たちが結婚したころには神経科にかかっていて（なぜかかっていたのかは不明）、寝る前にピンク色の楕円形の小さい睡眠導入剤のようなものを飲んでいました。その後高齢のために通院が大変になり近所の内科に転院しましたが現在も何かの薬は飲んでいると思います。
大変長くなって申し訳ありませんが、お尋ねしたいのは、
(1) これらのことから林先生は義母は躁状態であると思われますか？躁でないとしたら他に何か考えられるものはありますか？
(2) うつの見られない躁だけの状態が２５年間以上にわたって続くということはありうるのでしょうか？
(3) 義母は上記のとおり大変気性が激しく、通院を勧められる状況ではありませんがもしも躁であった場合、やはり精神科で診察を受けさせたほうがいいのでしょうか？
以上どうぞよろしくお願いします。
林: 躁状態であるという質問者の見解は正しいと思います。しかし病名は躁うつ病(双極性障害)ではないでしょう。考えられるのは統合失調症です。あるいは脳器質性精神病かもしれません。脳器質性精神病としては、たとえば梅毒による脳障害が考えられます。
躁状態という言葉は、文字通り状態、つまり原因である病気が何であるかとは関係なく、症状そのものの状態を示す場合と、躁うつ病(双極性障害)の躁状態に限定して使われる場合があります。後者の立場を取るならこの【3657】は躁状態ではないということになるでしょう。私が「躁状態であるという質問者の見解は正しいと思います」といったのは、前者の立場を取っての回答です。
質問者が最後に示された3項目への回答は次の通りになります。
(1) これらのことから林先生は義母は躁状態であると思われますか？躁でないとしたら他に何か考えられるものはありますか？
この質問は「躁」という言葉を、状態として用いられているのか、病名として用いられているのかが曖昧ですが、どちらかというと病名として用いられていると解されます。答えは、繰り返しになりますが、躁状態ではあるが、躁うつ病の躁状態ではないということになります。
(2) うつの見られない躁だけの状態が２５年間以上にわたって続くということはありうるのでしょうか？
躁うつ病の躁状態の場合はあり得ません。したがって躁うつ病ではなく別の病気です。持続期間以外にも、単なる躁状態だけでなく、思考の異常がこの【3657】には認められ、そのことも躁うつ病とは異なるという判断の根拠の一つになります。
(3) 義母は上記のとおり大変気性が激しく、通院を勧められる状況ではありませんがもしも躁であった場合、やはり精神科で診察を受けさせたほうがいいのでしょうか？
「もし躁であった場合」というのは、全体の文脈からみて、躁うつ病の躁状態であった場合と解されますが、ここまで異常な精神状態であれば、予想される病名にかかわらず、精神科の受診が必要であると言えます。
(2018.4.5.)
