【3580】断薬して逮捕されました
Q: 20代の男性で統合失調症と主治医から診断を受けた者です。
15歳のとき統合失調症が発症して、
16歳から通院し始め、薬は最初リスパダールを飲んでいて、
17歳にエビリファイに切り替わり、
18歳の夏頃に断薬しました。
断薬してからの一年様々な妄想があり、その妄想は、
・芸能関係者に狙われている。
・自分の家や車は盗聴されている
・似ている顔の人を見かけると以前会ったあの人であると結びつけてしまう。
・意味のわからない奇怪な行動をしてしまう。
・過去の未来の前世の記憶のようなものを感じる。
と言ったものです。(他多数)
断薬していたころは本当に好き勝手に生きており、
「楽しい」
という感覚が幾分ありました。また断薬していた頃はよく覚えてないのですが、薬を飲んでいる今は楽しいといった感覚と性欲が全くなく不感症に陥ってしまいました。
断薬した真っ最中の夏頃、ガソリンスタンドで1000円分給油を行おうとした際、店員さんが満タンのボタンを押し、給油してくれました。
1000円で満タンにサービスしてくれたのかと思いましたが、違いました。
給油が終わり、数分後、僕はいろんな妄想が頭をよぎり、僕の中の頭の声が (聞こえた訳ではない)
・給油人にやらせたらだめだよ。
・1000円で満タンに給油してくれなかったから怒る演技を有名人が見ている
・さぁこいつがキレる瞬間をとくとご覧あれ
など、自分の妄想の勢いのままにガソリンスタンドで凄まじい怒号とともに、ドアガラスを破壊し、そのあと駆けつけた警察官を手のひらでこづいて公務執行妨害で逮捕されした。
その後留置場のなかでも妄想は止まらず、プロ野球選手の有名なOBの方が盗撮しているから、アピールのためにプロ野球選手のモノマネをしまくったり、留置場の中では笑ったり、泣いたり情緒不安定になっていました。
その後医療保護入院で3カ月入院を経て、退院し、今は断薬することなくエビリファイを4錠飲んで生活しています。
そこで質問です
質問1、僕は統合失調症でしょうか?妄想は薬を飲んでから治まりましたが、幻聴はそれっぽい人の笑い声(幻聴なのかの判断ができない)を聞いたくらいで、幻覚はありません。確かに薬を飲んでた頃は妄想がなくて飲まなかった頃はたくさん妄想がありました。
質問2 不感症でここ6年悩んでいます。 性欲がないのは薬の副作用でしょうか? 病気のせいでしょうか?
質問3 楽しい感覚が断薬時にあったのは、エビリファイを飲んでなかったためドーパミンが作用して楽しい感覚があったのでしょうか?
統合失調症はドーパミンが出すぎるというのを聞いたことがあります。それを抑えるためにエビリファイを飲んでいるという理屈はわかりますが、生活の中で「楽しい」と思えるものが何一つありません。脳が快感や快楽を感じません。薬を飲みながら「楽しい」「気持ちいい」と思ったことが一度もありません。
質問4 何やっても楽しくない面白くない感情がわかないのは薬の副作用のせいでしょうか?病気のせいでしょうか?
林:
質問1、僕は統合失調症でしょうか?
はい、統合失調症に間違いありません。
質問2 不感症でここ6年悩んでいます。 性欲がないのは薬の副作用でしょうか? 病気のせいでしょうか?
一般的にはどちらも考えられますが、この【3580】のケースでは断薬している時期から始まっていますので、病気が原因であることは確かです。そこに薬の影響が加わって原因となっているかどうかは判断できません。つまり原因は (1)病気が原因 (2) 病気と薬の両方が原因 のどちらかです。
質問3 楽しい感覚が断薬時にあったのは、エビリファイを飲んでなかったためドーパミンが作用して楽しい感覚があったのでしょうか?
ドーパミンが何らかの形で関与していたと推定することはできますが、ある感情について、それをドーパミンなどの物質と明確に結びつけるのは誤りです。つまり現代の脳科学はそこまでは解明していません。
質問4 何やっても楽しくない面白くない感情がわかないのは薬の副作用のせいでしょうか?病気のせいでしょうか?
これも答えは質問2と同じです。すなわち、(1)病気が原因 (2) 病気と薬の両方が原因 のどちらかです。
なお、この【3580】の質問からは、質問者が、自分の診断に疑問を持っておられること、自分は薬を飲まなくてもいいのではないかと思っておられることが読み取れます。それは統合失調症の人の多くが持つ疑問です。しかし、統合失調症と診断されていて実際は統合失調症ではないというケースはきわめて例外的で、「自分は統合失調症と誤診されている」という人のほぼ100%は統合失調症です。また、統合失調症であっても薬を飲まなくても悪化しないケースもまたきわめて例外的で、薬を飲まなくなればまず確実に悪化します。特にこの【3580】のケースでは、現に断薬して他害行為におよんでいるわけですから、絶対に断薬してはいけないケースであると言えるでしょう。
(2017.11.5.)