【3520】私の虚言癖
Q: 22歳の女性です。【3519】虚言と防衛機制の質問者です。
実は私自身が虚言癖を持っています。
先生の御著書『虚言癖、嘘つきは病気か』が、自分の内面を振り返り分析するきっかけになりました。
私の虚言癖は、性質が徐々に変化し続けています。
最初に自覚したのは6歳です。
小学校で出た宿題で、飛べたなわとびの回数を2週間毎日ノートに書いてくる、というものがありました。
最初は真面目に飛べた数を書いていましたが、3、4日目からは、面倒くさくなったのでなわとびを飛ばずに、前の日より少し多い回数を書いて出すようになりました。
少し多い、という部分は、前の日より少なくなると「良くない」と思ったからです。
これは回数が増えすぎたため先生にバレて、親からも強く怒られました。
その時に生じた感情は、「本当は飛べるんだから、飛ぶ工程を省略して書いても別に問題ないのではないか」(実際、時間をかければ飛べる数です)
「先生を喜ばそうと思ったが、ダメなことをしたんだ」というものでした。
バレた後も、虚偽記載を止めることはなく、先生に疑われないような数を書き、たまに減らすように工夫する方向へ向かいました。
次は9歳です。
学校の友人と話していて、「この前猫を見て、その猫がびっくりして3mくらい飛び上がったんだ」というエピソードを話しました。
猫が3mも飛ぶはずはありませんが、私は話を面白くするため大げさにする癖があり、このときもその癖が出ました。
親にも同じ話をすると、「それは虚言癖の前兆だ」と強く叱られました。
私は「そうやって話したほうが面白いのに」と不満に感じながら、虚言癖になることの恐れを抱き、反省しました。
親の前ではそういう表現は極力避けましたが、友人との会話ではたまに出てしまうことがありました。
また、友人同士が喧嘩をしていると、
「あの子が仲直りしたいと言っていた」
「あの子が殴ったのは、○△×という事情があったからだ」
などとお互いに吹き込み、仲直りするように仕向けていました。
もちろん、吹き込む内容は全て嘘です。
友人が裏を取れないような内容を考え、矛盾が出ないように内容を考えた上で、丸く収まるようなシチュエーションを作っていました。
たとえ嘘であっても、それで関係が改善するならばいいのではないか、と考えていました。
人間関係を修復することに達成感を覚えていました。
次は13歳です。
親や友人に対して意見を言う時に、
「○○という判例があったから」
「○○という専門書にそう書いてあった」
などと、実際に調べてもいない根拠を並べるようになりました。
自分の発言に社会的権利の後ろ盾を得て信憑性を高めようとする虚言です。
罪悪感がありましたが、そうでもしないと自分の意見が通らないと思い、止められませんでした。
これは、両親に自分の意見を伝える時、「私はこう思う」というのをどんなに論理的に話しても聞き入れてもらえなかったのが、
「先生がこう言っている」「専門書にはこう書いてある」と言うと、受け入れてもらえたことがきっかけでした。
自分への自信のなさが影響していると思います。
次は15歳です。
家の床に置いていたリュックを足で動かしたのを、親に叱られました。
その時咄嗟に、「たまたま足が当たっただけだ」という言い訳をしました。
その後しばらく問い詰められているうちに、段々と「たまたま当たっただけだ」、と自分でも思い込んでしまいました。
この、「自分の行動のつじつまを合わせるために後付けで理由を考え、それを本当と思い込む」ことは今でもあります。
次は高校生〜現在に至るまでです。
『虚言癖、嘘つきは病気か』のCase14と同じく、全く意味のない虚言をしてしまいます。
(例)
・友達との会話で朝ごはんはおにぎりだったのに、「パンを食べた」と言う
・血液型がO型なのにA型だと言う
・本を読んでいる時に友人に「何の本を読んでいるの」と聞かれ、全く違うタイトルを答える
・「盲腸なったことある?」と聞かれ、本当はないのに「ある」と答える
・行ったことのない観光地に行ったことのあるふりをする
・好きなスポーツを聞かれると、適当なものを答える(聞かれる人によって答えるスポーツが違います、無意識にです)
・ピアノを弾いたことがあるのに「ない」と言う
相手の望む返答を読み取り、無意識に沿ってしまうのです。
つまらない現実を話すよりも、面白い嘘の方が場が盛り上がるし、相手の機嫌も損ねません。
本当のことを言うのはエネルギーがいり、むしろ自分でその場で辻褄の合う話を創作するほうが楽に感じます。
また、実際にはなかった出来事を、体験したように話してしまいます。自虐的なものが多いです。
自分を高めるものではなく、笑い話や失敗談です。「こうだったら面白いのにな」という出来事を思いつくと、ふと話してしまうのです。
話している時は嘘という自覚はありません。「嘘」というよりも、「分岐」に近いです。自分のついた嘘をきっかけに世界が分離して、パラレルワールドを覗き見して喋っているような感覚です。
転機ごとに書きましたが、絶え間なく虚言は続いています。特に、過去と未来のことを聞かれると、虚言が出やすいです。
それと並行して、以下の症状を自覚しています。
○両価性
自分の感覚というものがありません。
ある人物や物に対して、「好き」と思えば好きな理由を思いつくし、「嫌い」と思えば嫌いな理由を思いつきます。
おそらく、「どうでもいい(どうとも思っていない)」と思っている範囲が広すぎる上に、その範囲のものを場面に応じて都合のいいように使ってしまうのだと思います。
ふとした時に、自分はどんな人間なのかわからなくなります。
自分の感情についてもよくわかりません。「悲しもう」と思えば涙が出てくるし、「嬉しいんだ」と思えば自然と笑みがこぼれます。
本心からの感情なのか思い込んでいるだけなのか、混乱してしまいます。
○乖離
ここ数年で強くなってきました。
夢と現実の区別がつかず、友達に「あの旅行どうなった?」と聞いてから、昨日見た夢の話だったことに気づきます。
夢は、物心ついたときからフルカラーで、味覚や痛覚など感覚もあります。リアルな夢です。
見た夢の内容を覚えていて、反芻して楽しむこともあります。
また、昔の記憶がだんだんと薄れています。忘れるのもありますが、本当にあったのかどうかわからないのです。自分は本当は何をしていたのか、どう感じていたのか、過去がわかりません。現実と地続きでない感覚です。
日常生活でも現実感がありません。薄い膜に包まれたまま、世界が勝手に動いているようです。たまに勝手に涙が出てくることがありますが、悲しい、辛いという感情はありません。
仕事には支障をきたしていません。
○自傷癖
13歳から、抜毛症があります。
大学に進学してからは頭髪については収まりましたが、ストレスがかかるとまつ毛や眉毛を抜いてしまいます。
○性的逸脱行為
最近始まりました。同性異性どちらとも交際の経験はありません。
性的事柄については関心が強く、6歳頃にはすでに家の書斎で性描写のある本を探し、好んで読んでいました。
学校や友人など同じコミュニティ内での恋愛に嫌悪感があり性的体験を避けていましたが、バーで出会った素性の知らない男性と一夜を共にしたのをきっかけに始まりました。
今は、ネットやバーで出会った人と一夜限りの関係を頻繁に持っています。
嫌悪感や罪悪感はありません。
ただ、性行為が好きなわけでもありません。
行為そのものと、行為を行った時に自分がどんな感情を持つかに興味があります。
社会的にタブーとは自覚していますが、腑に落ちる感覚はありません。
この経験は誰にも話していません。話すことにメリットはないためです。
同様の体験をネットの相談で読むと「自分を傷つけるな」というアドバイスがされていましたが、ピンと来ませんでした。
反社会性パーソナリティ障害ではないと思います。
非行歴はありませんし、犯罪についても、例えば窃盗は盗まれた人が悲しむだろうと想像して胸が痛むので、決してやらないと思います。
○才能
才能の話がありましたが、恥ずかしながらストーリーテラーの才能はあると思います。
書いたものは読書感想文、小説、論文、どんなジャンルでも高い評価を受けてきました。
嘘を吐くときも、まるで小説を読んでいるようにすらすらと淀みなく面白いストーリーが出てきます。
弁も立ち、ディベートが得意です。
幼い頃から、本音で話した回数は少ないです。両親とは一度も無いかもしれません。
自分の意見を通したり生の感情をぶつけるより、その場に適した回答を考えるほうが楽です。
虚言について、罪悪感はありません。
誰かを傷つけたり貶めるような嘘は吐かないので、問題ないのではないかと思います。
人によって思い出話や体験談を作り分けているので、覚えておくのが大変ですが。
現状の自分に不満があるわけでもありません。
恐縮ながら、世間一般で言う「エリート」だと思います。
ただ、乖離については困っています。
過去の自分も未来の自分も別人のようで、いまいち生きている実感が沸かないのです。
自分の人生の辻褄を合わせるのが、最近面倒くさくなってきました。
虚言癖が乖離を促進しているのであれば、治療したいと思っています。
ちなみに、
・WAIS-3 の知能検査で群指数間のディスクレパンシーが50以上あります。
・小学生の頃、夢遊病でした。今もストレスが掛かると起きます。
・中学生の時、強迫性障害になりました。病院には行かず、自然と寛解しました。
例:ガムを左右決まった回数で噛まないと気がすまない、テストの時に名前が上手く書けず、30分間自分の名前を書き直す など
・脳波が不安定で、半年前からデパケンを服用しています。乖離症状の促進との相関関係はないように感じます。
上記も虚言癖のケースのひとつとして、ご査収くださいますと幸いです。
林: 貴重なご報告をありがとうございました。
虚言癖を持つ人の生活史が明らかにされることは滅多にないことですから、実に貴重なデータであり、精神医学の死角にある虚言という非常に重要な症状の理解に結びつくものだと思います。
虚言癖が乖離を促進しているのであれば、治療したいと思っています。
虚言癖と解離(乖離)に密接な関係があることは確かだと思います。けれどもそれは「密接な関係がある」にとどまり、「虚言癖が乖離を促進している」かどうかは残念ながらわかりません。したがって治療について私からアドバイスできることはなく、お役に立てず申し訳ありませんが、虚言の当事者の方から今回のようなご報告が蓄積されれば、治療の方向性は見えてくるものと思います。ありがとうございました。
(2017.9.5.)