【3455】27 歳女。私は性欲が異常に強いのでしょうか。
Q: いつもサイトを拝読させていただいております、27歳、独身の女性です。仕事も友人関係も楽しくうまくやっており、幼少期含め家族関係も良好、絵に描いたような幸せな家庭で育ちました。学歴もあり容姿も悪くなく、毎日向上心をもって仕事に取り組み高給をいただいている、一見なんの問題もない人間だと思います。
今日ご相談したいのは、私自身の性欲についてです。
大変お恥ずかしい話ですが、どうやら私は性欲が異常に強いのではないか、もしかしたら依存症?のようなものなのではないかと心配になっております。
下記、箇条書きにて心配な事実を列挙しました。
昔でいうとこのような状況でした。
・小学校にあがるまえの幼少期より、自覚なく自慰行為をしていた。しかもいわゆる「イク」という感覚をこの頃からわかっていて、なんとなく悪いことだという自覚があったのですがこっそり毎日していた。
・小学生のとき、どうしても人に体を触ってほしかったので、男子に頼むのはよくないと思い女友達と裸でいちゃいちゃしていた(女性には興味はないです。最中は目を閉じて男性のことを考えていました)
・見られているという意識が自慰に有効なことがわかり、中学になると学校を風邪で休んだときなど、裸にカーディガンだけ羽織り少しだけ窓を開けて自慰をしていた。
・2chの18禁ページにアクセスし、チャットで自慰の指示をもらうようなスレッド (くだらないですが、オナ指示というやつがあるのです。。)にはまっていた。ここで自慰の指示をもらって実況するのが好きすぎて、そのために仮病を使って学校を休んだりしていた。
しかし同時に、いわゆる優等生だったので世間の目をとても気にしていたところがあり、18歳で彼氏ができるまでは実際の性行為はしたことがありませんでした。それからいままで、先日カウントしてみたのですが付き合った人は4名、性行為をした相手は15名でした。大人になってから、問題だと感じるのは下記のような点です。
・少しでもタイプの男性がいると、すぐに性的なことを考えてしまいます。周囲の話を聞いていると、女性の場合は好きになってから、やっとそのような気持ちになることが多いようですが、私はむしろ逆です。しかし世間体があるのでめったに行動はしません。
・自分なりには真面目に考えたうえで、好意を持った人と性行為をするのですが、一回してしまうと気が済んでしまい、もはや相手への興味がなくなってしまいます。普通女性は逆だそうで、知人に話したら男性みたいだと言われました。
・彼氏とでも半年くらい経つと、セックスに飽きて嫌になってしまい、他の人としたいなと思ってしまいます。しかし変な正義感?により彼氏がいる間には他の人と関係をもったことはありません。
・乱交みたいなAVばかり見てしまいます。
・セックスのコンディションに異常にこだわりがあり、例えば酔った勢いで、というのは感覚が鈍るので絶対に嫌で、そのような状況になった際はきっぱりと断り、お酒を飲む前に昼間にセックスしましょうと言って相手の男性に驚かれます。
先日こうやって自分のいままでを振り返り、さすがに異常なのではないかと思ってしまいました。それ以外の点については、しっかりした人間だと思っているのですが、これはまずいなと・・・。現在恋人がいないのですがデートしている男性が数名いて、できれば全員セックスだけならしたいですが、せっかく仲良くなったのにセックスをしてしまったらきっと自分がどうでもよくなってしまうのが目に見えています。
なので、「たいして好きじゃないけどタイプ」の人にそのことを告げたうえで了承をとって行為をし、案の定どうでもよくなり連絡すら返す気が失せ、申し訳なく思っています。なので、もっと仲良くなりたい相手とは、しないようにしています。セックスをする直前と最中は楽しいのですが終わってしまうと一気に冷めて、さっさと帰って仕事がしたいと思うのですが、さすがに人間関係的にそうもいかないので、仕事に多少支障が出るのを避けたいために控えているという始末です。私が世間体や多少の正義感を失ったら恐らくひどいことになっていると思います。
女性として、あまりよくないな、という自覚もありますし、このままではまともな結婚ができるのか、不安です。私は単に性的に奔放なだけなのでしょうか、それとも治療が必要な状態なのでしょうか? 治療が必要な場合、具体的にはどのような治療になるのでしょうか? お恥ずかしい話で大変恐縮ですが、ご回答のほど、よろしくお願い致します。
林: 性欲に限らず、人間に本来そなわっている欲望の量または質が、標準と思われる範囲から逸脱している場合、それを病的とみるか否かはなかなか難しい問題です。第一に、「標準と思われる範囲から逸脱している」と思われるとき、それはその文化・社会の標準から逸脱しているだけなのか、それとも人間という生物の本来の標準から逸脱しているのかを問わなければならないでしょう。そして第二に、「逸脱している」と判断されたとき、わかりやすく言えば「だからそれがどうした?」と問わなければなりません。
これらの観点からこの【3455】のケースを見ますと、まず第一の点については、難しいです。
自分のいままでを振り返り、さすがに異常なのではないかと思ってしまいました。
女性として、あまりよくないな、という自覚もあります
と質問者自身が言っておられるように、このメールの内容は確かに「女性の性欲・性行動として異常なのではないか」と思わせるものです。
但し先に述べた通り、第一の問いは、それが今の日本の文化・社会という環境に限って標準から逸脱しているのか、それとも生物学的に(文化・社会とは無関係に、人間という生物において)逸脱しているのか、ということです。
そこで、広く世界に目を向け、また、人類の歴史に目を向けてみますと、女性の性行動は男性に比べて積極的でないのは概ね普遍的な事実と思われますので、そうなると【3455】のケースの性行動は、日本の文化・社会という文脈から離れても標準から逸脱していると考えられそうです。
しかしながら、仮にそうだしても、生物学的に正常範囲内なら直ちに問題なしと言えるとは限りませんし、また、文化・社会的要因と生物学的要因を截然と区別できるのかというさらに大きな問題も残ります。
これらを追究するときりがなくなりますので、第二の問題に進みます。すなわち、性欲・性行動が仮に標準から逸脱していると判断できたとして、「だからそれがどうした?」という問いです。
【3455】のケースについては、この問いに対する答は「別にどうもしない。特に大きな問題はない」になるでしょう。現実の生活に支障は出ていませんし、他人や社会に迷惑もかけていないからです。
これは、実のところ、精神の病のすべてにかかわる根本問題に触れる問いと答になっています。すなわち、「精神の病とは何か?」という問いは、誰もが納得できる答を提示することは不可能です。そこで現代の診断基準では、「その状態のため何らかの問題が生じている」ことが、病と診断する必要条件になっています。
診断基準を厳密に満たす・満たさないは、病気の種類によっては、本質から外れた空論になることがしばしばありますが、性欲・性行動のように、人間に本来そなわっている機能に関連するものについては、少なくとも現代においては、診断基準を重視するのが現実的であるといえます。
以上より、
私は単に性的に奔放なだけなのでしょうか、それとも治療が必要な状態なのでしょうか?
に対する答は、
単に性的に奔放なだけです。治療は必要ありません。
になります。
なお
【3456】24歳女性。誰とでも性行為をしてしまいます。
【3457】30歳主婦。虚言癖とセックス依存で苦しいです。
【3458】37歳男。性犯罪を繰り返しています。
もご参照ください。
また、この【3455】のケース、もし「その状態のため何らかの問題が生じている」場合には「治療が必要」となり、診断名をつけるとすれば セックス依存 (または sex addiction。直訳すれば「セックス嗜癖」です) が適切と思われますが、現代の診断基準(DSM-5)にはこの診断名は存在しません。したがって「性欲・性行動のように、人間に本来そなわっている機能に関連するものについては、少なくとも現代においては、診断基準を重視するのが現実的であるといえます」という先ほどの説明は、厳密には正しいとは言えませんが(なぜなら、そもそも該当する診断名が診断基準にないからです)、仮にこの診断名が収載されれば、「その状態のため何らかの問題が生じている」が診断基準に診断の必要条件として記されることは間違いないと言えます。
そして、sex addictionに限らず、行動嗜癖 behavioral addiction については、現代の精神科の診断体系はまだまだ不確定的ですので、公式な診断名がある・ないにかかわらず、もし「その状態のため何らかの問題が生じている」場合には治療は必要であるといえます。
(2017.6.5.)