【3278】統合失調症の妄想は時代によって変わるのか
Q: 僕は10代男です。統合失調症の典型的な症例として幻覚や幻聴、妄想等がある事はわかっているんですが、 例えば自分がテレビのドッキリに出されていて隠し撮りされている、盗聴されているという妄想は、テレビ、録音機等があってこその話ですよね？ 機械やそういったものの登場によって統合失調症の方の妄想等に変化は生じる物なのでしょうか？ またこれから新たに出てくる機械等によって妄想が今までと全然違うようなケースになっていく可能性とかはあるのでしょうか？
林: その通りです。妄想内容は時代によって変わります。幻聴の内容も時代によって変わります。けれども、時代や文化を超えて共通するものが、妄想や幻聴にはあります。というより、あるはずです。そしてそれこそが、統合失調症という病気の本質であるはずです。その本質とは何か。本質は 自我障害 であるというのが、有力な見解です。自我障害の概念は難解ですが、そこをあえて単純化すると、「自分というものの境界が崩れる」ということです。自分の体は自分の体です。自分の考えは自分の考えです。これはあまりにあたり前なので、自分というものに境界があるということを、普通は意識していません。ところが統合失調症になると、このあまりにあたり前な自分の境界が崩れ、自と他の区別がつきにくくなります。自と他が融合するといってもいいでしょう。たとえば統合失調症の代表的な症状として幻聴がありますが、幻聴は、本来は自分の考えであるものが、他人の声として聞こえる現象にほかならず、それはまさに自と他の区別がつかなくなっているという現象だということができます。特に発症初期の段階では、「聞こえているのか、頭に浮かんでいるのか、よくわからない」とか「自分の考えていることなのか、それが声になって頭に響いているのか、誰かが言っているのか、よくわからない」といった体験をされることもよくあります。【3138】正しい答えを幻聴が教えてくれることがある という体験もあります。また、幻聴と並んで被害妄想もよくある症状ですが、【1471】統合失調症に「加害妄想」や「させる体験」といった症状はありますか に見られるように、被害妄想とは一見逆方向の症状があることは、どちらも自と他の境界の崩れとして捉えられることを示しています。それから 【0580】あやつり人形のように体を動かされたという体験をしましたに見られるようなさせられ体験は、実際には自分の意思で体を動かしているにもかかわらず、他人に動かされていると感じられるもので、比較的わかりやすい自我障害と言えます。
このように、症状の本質として自我障害があり、それを本人は様々な解釈をすることになります。この解釈の段階で、時代や文化が大きく影響します。たとえば【1547】ウェブカムを通して自分の姿がネットに流れ出ることが不安は、インターネットのない時代には存在しない妄想ですが、「自分のことがみんなに知られている(これも自我障害です。自分というものの境界がはっきりしていれば、自分のことは他人に知られることはありませんが、境界が崩れるために知られていると感じてしまうのです)」という体験が根本にあり、これは時代や文化とは無関係の普遍的な症状です。また、【0610】自分の気持ちが他人にみすかされている というように自分の考えが他人に読まれてしまうというのも統合失調症の普遍的な症状ですが、【3099】サトラレの原因と治療法を教えてくださいというように「サトラレ」と解釈するのは現代の日本に特有の現象です。自分の境界が崩れれば、「自分の考えが他人に読まれる」だけでなく、逆方向に「他人が自分に干渉してくる。影響してくる。他人の考えが自分に入って来る」という現象も起こります。これはかつては「神や悪魔」という解釈が多く、それが「電気」に変わり、今では「電磁波」が多くなっています。【0698】電磁波攻撃は存在するのですかなどは代表的です。「他人が自分に影響してくる」ことの理由として、【1116】頭の中に機械が入っているとしか思えませんというような解釈が生まれることも比較的よくあります。さらには 【1141】脳コントロールが大々的に行われているというように妄想が拡大し、さらに進むとその首謀者を具体的に妄想し、報復と称して攻撃を加えることもあります。
このように、統合失調症の症状は、まず本質というものがあり、それを本人が時代や文化などの影響を受けて解釈することで成立するものです。したがって、
これから新たに出てくる機械等によって妄想が今までと全然違うようなケースになっていく可能性とかはあるのでしょうか？
それも十分にあり得ます。というより、必ずそうなっていくものです。
(2016.9.5.)
