【3227】統合失調症患者は、回復した後も本質的には病識が無いといえるのでしょうか?‏

Q: 30代男性です。
私は30歳の頃、幻覚妄想状態と呼ばれる状態になり、警察に保護された後、入院しました。退院後は一年間、散歩や読書をして過ごし、その後、復職しました。
上司には病名を明かし、なるべく定時に帰らせて欲しいことや、繁忙期に余り無理はできないことを説明し、理解してもらっています。
現在はリスパダールコンスタと、寝る前にフルニトラゼパム、ハルラックなどを飲んでいます。

自覚できる症状は少なく、睡眠不足だった翌日や、深夜残業などがあると、疲労感が強く出ていたり、考えがまとまらなくなることがあります。

私自身の認識では、症状として、特に睡眠障害が出ていると考えています。
眠れなくなる日は、翌日のことを考えて緊張したり、当日に嬉しいことがあって、興奮がおさまらない。などだと、自分では考えております。

いつも、「もっと回復したい」と思っています。

以下に、事実として、お聞きしたいことを書きます。

私自身がそのような段階であるせいか、わだかまりのある疑問が頭に残っています。
それは、「統合失調症者は、回復した後も本質的に病識が無い」という表現は妥当なのでしょうか?
(ここでいう統合失調症者とは、「統合失調症と診断を受け、その診断で間違いが無い人のことを指しています。)

なぜ、わだかまりがあるかと言いますと、私自身が、(これからどれほど回復しても、本質的に、自分の症状を常に把握することが難しいという現実を受け入れなくてはいけないのだろうか?)と思い悩んでいるからです。

覚悟しなくてはいけない現実であれば、素直に受け入れる気持ちもあります。

患者向けの雑誌や書籍は一部読みましたが、病識について触れていることは、少ないように思われます。

説明を頂けたら、幸いです。

 
林:
「統合失調症者は、回復した後も本質的に病識が無い」という表現は妥当なのでしょうか?

妥当ではありません。
妥当な表現は、
「統合失調症者の中には、本質的に病識が無いケースがある」
です。(ここで、「統合失調症者」という表現が妥当か否かは今は論じません。これは病識のみをテーマにした回答です)

たとえば
【3093】妄想はおさまったようだが、病識がない
【3003】三年前から統合失調症の治療を受けていますが、薬をやめるつもりです
などは、「回復したが、病識はない(または不十分)」と言えるでしょう。

一方
【2736】統合失調症の病識がなくならないようにする方法を教えてください
【3023】通院を再開してから、快方に向かっています
【2448】統合失調症から回復して頑張っています
などは、「(今は)病識がある」と言えるでしょう。

但しこれは単純化した回答です。
より深い考察に踏み込めば、
回復とは何か
本質的とは何か
という問いが生まれます。
たとえば、「回復」という言葉を
「回復とは、完全な病識が生まれた状態を指す」
と定義するならば、

「統合失調症者は、回復した後も本質的に病識が無い」という表現は妥当なのでしょうか?

という質問そのものが意味を失います。
「本質的」という言葉はさらに複雑です。
たとえば、
「完全に治っているように見えても、そのうちに薬を飲まなくなり再発を繰り返す」
ようなケースは、本質的な病識があると言えるでしょうか。言えないでしょうか。
たとえば先に挙げた
【2448】統合失調症から回復して頑張っています
のケースが、【2448】の時点では病識があるように見えますが、この後、仮に薬を飲まなくなり再発を繰り返すようになったら、【2448】の時点で「本質的な病識」があったと言うべきか、なかったと言うべきか。【2448】の過去に激しい症状があったことを真に自覚していれば、そして、その症状が病気によるものであることを自覚していれば、薬を飲み続けるのは第三者からは当然に見えます。にもかかわらず薬をやめて再発を繰り返すのは、「本質的な病識」はなかった、とするのも一つの考え方です。
けれどももしそのように考えるのであれば、身体の病気、たとえば高血圧や糖尿病であっても、薬をやめて再発するケースはたくさんあるわけですから、そういう人々も「本質的な病識」はないと考えることになり、すると統合失調症の病識だけを特別とする根拠はなくなります。
このように、「回復」も「本質的」も、その言葉の意味には様々な問題があります。すると結局のところ、

「統合失調症者は、回復した後も本質的に病識が無い」という表現は妥当なのでしょうか?

という問いに対する真の答えは、

「回復」「本質的」「病識」という言葉の使い方による

ということになるでしょう。
しかしこの答えは厳密には正確でも現実には無意味ですので、

妥当ではありません。
妥当な表現は、
「統合失調症者の中には、本質的に病識が無いケースがある」
です。

が適切な答えになります。

なお、病識という概念の複雑さをめぐる問題については
【3158】病識の無さのレベルについて
【1541】皆と同じようにipodの手術を受けたい
もご参照ください。

(2016.6.5.)

05. 6月 2016 by Hayashi
カテゴリー: 精神科Q&A, 統合失調症 タグ: |