【2974】脳炎だったのに統合失調症と誤診されていた

Q: 5ヶ月前、47歳になる弟(独身、独り暮らし)が錯乱状態であるとの連絡を受け、警察のお世話にもなりつつ措置入院となりました。

統合失調症の可能性ありとの診断を受け、拘束状態で点滴治療をつづけていましたが状態は改善せず、3週間ほどたった頃誤嚥性肺炎により都立病院に転院となりました。
そこでついてくださった内科の主治医が、様々な検査をしてくださった結果、まだ見込みの段階ではありましたがウイルス性脳炎の疑いがあるとのことで、神経内科の専門医の治療をうけ、約3ヶ月の治療の後どうやら退院することができました。

その間に母が亡くなったりして、保護者を務めた私自身がなかなか日常に戻れず今は自身が心療内科への受診を考える有様ですが、今回の経験を通じて、実は脳炎を発見していただけずに抗精神病薬の投薬を受け続けている方も少なからずおられるのでは、と感じるようになりました。
また、発症時の状態がこれほど似通っているのに、脳炎についての情報の少なさにも困惑いたしました。

弟は結局、辺縁系脳炎との診断でした。
自営業を再開しましたが、なかなか元通りというわけにもいかず苦労しているようです。ステロイド剤を今も服用しており、けいれん発作は消失したものの、集中力がなかなか戻らないようです。

家族としては、あの酷い状態から戻ってきてくれただけでもありがたいことではありますが、もしあのとき肺炎を起こさなかったらどうなっていたのだろうと感じるとともに、精神科や神経内科の先生方からご覧になった脳炎のケースについても、もっと情報発信をしていただけたらと願っております。

林: 貴重なご経験をお知らせいただきありがとうございました。
急激に精神症状が現れた場合、原因が脳炎ということは十分にあり得ることで、医学的には初歩的な知識に属する事実です。このとき、「急激な精神症状」という抽象的な表現にまとめてしまうと、統合失調症の急性発症と区別がつかないということになりますが、(質問者は 発症時の状態がこれほど似通っているのに と言っておられますが、実際には似ているように見えてもかなり異なることが多いです)実際のケースではその精神症状の内容が異なっていたり、発熱などの症状を伴っていたり、血液検査で炎症などの所見が見られたりするなどのことから、脳炎を統合失調症と誤診することは非常に少ないです。急性の脳炎は治療せずに放置すれば直ちに生命にかかわりますので、一刻も早い治療が必要です。【2835】父が急におかしくなり、話が通じなくなったは、脳炎が強く疑われる例です。その他、【0906】登山の後の奇異な言動 【1153】脳炎の精神症状と修正電気けいれん療法  なども関連したケースです。これらは精神科Q&Aのケースですから、症状の描写だけから脳炎の可能性が指摘できたわけですが、実際の医療現場ではそこに検査所見も加わりますので、医師が脳炎を見落とす可能性は非常に小さいと言えます。したがいまして、

実は脳炎を発見していただけずに抗精神病薬の投薬を受け続けている方も少なからずおられるのでは、と感じるようになりました。

この疑問に対しては、「そういうケースは非常に少ない」というのがお答えになります。

この【2974】のケースは、

統合失調症の可能性ありとの診断を受け、拘束状態で点滴治療をつづけていましたが状態は改善せず、

とのこと、したがって「非常に少ない」実例の一つということになりますが、これが医師の診断ミスなのか(検査結果に脳炎の疑いが見えているのに気づかなかったなど)、あるいは症状・検査所見ともに、脳炎を疑わせるものがなく、統合失調症と診断されても不思議はないような稀なケースだったのか、このメールの記載だけからは判断できません。(「47歳の男性が急に錯乱状態になった」という事実だけでも、すでに統合失調症らしくなく、脳炎の可能性を考えるのが当然・・・とも言えますが、それは結果がわかっていて初めて言えることかもしれません)

しかしいずれにしても、もし統合失調症としての治療が続けられていたら命を落とすか、あるいは脳に重大な後遺症を残すおそれがあったわけですから、質問者が、

もしあのとき肺炎を起こさなかったらどうなっていたのだろうと感じる

のは理解できるところで、結果的には肺炎を起こされたことで一命をとりとめたと言えるかもしれません。

脳炎についての情報の少なさにも困惑いたしました。

精神科や神経内科の先生方からご覧になった脳炎のケースについても、もっと情報発信をしていただけたらと願っております。

これらについては、当事者の感想としては理解できますが、脳炎と診断することは医師の責任であること、また、発症率としては統合失調症のほうがはるかに高いことからすれば、医師から一般の方への情報発信としては、統合失調症のほうがはるかに重要で必須ということになるでしょう。発症率の低い重大な病気は脳炎のほかにも膨大に存在し、それらの一つ一つについてのすべてを一般の方々に知っていただくことを期待するのは現実的ではありません。発症率の低い重大な病気を見落とさずに診断・治療するのは医師の責任です。

(2015.5.5.)

05. 5月 2015 by Hayashi
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