【2756】過去の主治医の方針は正しかったのか
Q: 17歳女です。現在統合失調症の疑いありということで通院しています。
私は4つほど病院をはしごして、今の病院に落ち着いています。
2年4カ月ほど前から学校に行くのが苦になり、家族に殺されると思い、その半年後に家族に怒られてもどうしても学校に行けなくなって、精神科を受診しました。
その時の症状は、学校に行くのが辛い、下痢と便秘を繰り返す、夜になると気分が落ち込む、やる気が出ない、自傷、などです。
そして主治医からは「あなたはうつです。」と言われました。
そしてエビリファイを処方されました。(量は忘れました)
エビリファイを飲んですぐに食欲が全くなくなり、アビリットに変更しました。
食欲は出てきたのですが、あまり効いてる感じがしないので、ジェイゾロフトを足しました。
頓服としてリスパダールも出ました。
最初に受診してから2カ月後に休養のために2週間入院しました。
この時期にジプレキサも出ましたが、湿疹が出たのですぐにやめました。
退院後はずっとジェイゾロフトとアビリットを飲んでいました。
量は、とにかく学校に行きたい一心で、最大量飲んでいました。
でも、しんどくてフラフラでした。
症状なのか副作用なのか分からず、医者もはっきりとした指示がないため、増やしたり減らしたりしていました。
学校にはあまり行っていませんでした。
この頃、担任の先生や友達に、自傷した。とかもう死ぬ。とか言っていました。
特に先生には大量にメールしてました。
この主治医は、最初から統合失調症の疑いがあると分かっていたのでしょうか?
わかっていたとしたらなぜ抗うつ薬に変更したのでしょうか?
リスパダールも、頓服として飲んでいましたが、これも統合失調症の薬だから出したのでしょうか?
この主治医はコロコロと薬や量を変更していましたがそういうもんなのでしょうか?
この主治医の方針が気になって気になって仕方ないのです。
一応書きますが、退院の4カ月後、お酒を大量に飲み、救急車で運ばれました。
そして入院しました。(任意入院です)
入院中に首を絞めたりして拘束もされました。
看護師の対応がひどいと感じたので、退院しました。
そのあとは、学校に向けて、勉強などしていたのですが、3カ月後に自分で薬を大量に飲みました。
また救急車に運ばれました。死ぬかと思いました。
そこからは見違えるように元気になり、通院はせず授業も全部出たりしていましたが、3カ月くらい過ぎたころまた行けなくなり、教育センター?で相談したら、境界例で、解離の状態と言われました。
そして今の病院を受診しました。
最初はトレドミンを飲んでいましたが効果はほとんどありませんでした。
この頃、皆が悪口を言っていると思い、お風呂にも入れず、頭をカクカクさせて、とてもしんどかったです。
そして心理検査の結果が、統合失調症の可能性アリ、とでました。そしてジプレキサ5mgが出ました。
すごくよく効きました。そこからは調子を崩したり、戻ったり、の繰り返しです。
薬は今はジプレキサとエビリファイで落ち着いています。量は変えたりしてますが。
主治医からは直接言われなかったのですが(聞いてもまだわからないと言われました)、私の病名は、統合失調症ですよね?
今の症状は、監視されてると思う、毒を盛られてると思う、殺されると思う、悪口を言われるきがしてビクビクする、学校に行きたいのにいけない、すぐ忘れる(昨日のこととか、覚えてない)、電車が脱線しそうで怖い、勉強できない、しにたい、突然笑いそうになる、独り言を言う(うーーーとかしにたいとか)、などです。
文章下手ですみません。頭が回らないのです。
林:
私の病名は、統合失調症ですよね?
最も可能性の高い病名は統合失調症です。
2年4カ月ほど前から学校に行くのが苦になり、家族に殺されると思い、その半年後に家族に怒られてもどうしても学校に行けなくなって、精神科を受診しました。
その時の症状は、学校に行くのが辛い、下痢と便秘を繰り返す、夜になると気分が落ち込む、やる気が出ない、自傷、などです。
このように、様々な心身の不調から始まり、
今の症状は、監視されてると思う、毒を盛られてると思う、殺されると思う、悪口を言われるきがしてビクビクする、学校に行きたいのにいけない、すぐ忘れる(昨日のこととか、覚えてない)、電車が脱線しそうで怖い、勉強できない、しにたい、突然笑いそうになる、独り言を言う(うーーーとかしにたいとか)、などです。
という症状に至る。これは統合失調症の典型的な経過の一つです。
けれども
主治医からは直接言われなかったのですが(聞いてもまだわからないと言われました)
このように、厳密にはまだわからないという段階でしょう。
また、
教育センター?で相談したら、境界例で、解離の状態と言われました。
この見解もそれなりに傾聴すべきものです。
(主治医の見解のほうがはるかに重みがあり、重視すべきですが、10代の統合失調症は、時に解離と区別がつきにくいことがありますので、直接診察した専門家の少なくとも一人が解離と判断したことは、無視すべきではないでしょう)
ところでご質問のポイントは、
過去の主治医の方針は正しかったのか
であると思われますので、順にお答えしますと、
この主治医は、最初から統合失調症の疑いがあると分かっていたのでしょうか?
それは私にはわかりません。
わかっていたとしたらなぜ抗うつ薬に変更したのでしょうか?
この質問は、
エビリファイ → アビリット + ジェイゾロフト + リスパダール
という手順を指しているものとしてお答えします。
(但し本当に正確にこのような順で処方されたかどうかは、かなり疑わしいと私は考えています。患者さんがご自分の処方歴を報告するとき、その内容は大部分の場合にかなり不正確だからです。このケースでいえば、「エビリファイ、アビリット、ジェイゾロフト、リスパダール」という薬が処方されたこと自体はおそらく事実でしょう。しかし順番や併用の状態がメールの通りかどうかは不詳です。また、処方とは薬の名前だけでなく量が非常に重要ですので、薬名だけが仮に正確に書かれていても、それが適切な処方かどうかは判定困難です)
仮にこの順であったとして、ご質問の「抗うつ薬に変更」とは、エビリファイからアビリットへの変更を指していると思われます。するとこれは「抗うつ薬に変更」といえるかどうかは微妙です。アビリットは統合失調症の治療にも使われる薬だからです。(この時、アビリットの処方量が一つのポイントになります)
この【2756】の質問者は未成年ですので、医師からの説明や治療方針の決定には、ご両親の意図が大きく影響していることが推察されます。ご本人は統合失調症という病名を、もしそうなのであれば受け容れて治療をしていこうという意図をお持ちであることが読み取れますが、ご両親がそうであったかどうかはわかりません。統合失調症という病名を告知された瞬間に、うちの子がそんな精神病のはずがない、そんな診断をする医師は信用できない、とご両親が考え、治療を中断してしまい、結果的に悲劇に終わることが、現実には少なからずあります。するとそんな経過を避けるため、とりあえずは「うつ」とか「うつ病」などと告知して治療を継続するのもよくあることです。擬態うつ病/新型うつ病 のCase 16、大学生の「うつ病」— 嘘も方便、あるいは、とりあえずうつ病 がそんな実例の解説です。
リスパダールも、頓服として飲んでいましたが、これも統合失調症の薬だから出したのでしょうか?
おそらくそうでしょう。しかし、うつ病にリスパダールを処方することもあります。
この主治医はコロコロと薬や量を変更していましたがそういうもんなのでしょうか?
この質問には意味がありません。なぜなら、質問が答えを規定しているからです。言い換えれば、質問の中にすでに答えが含まれているからです。それは「コロコロと」という表現です。
説明の順序として、先に【2756】の質問者の受診歴を見てみましょう。
私は4つほど病院をはしごして、今の病院に落ち着いています。
とのこと、ということはつまり、質問者はこれまで、コロコロと病院を変えてきています(と、一応表現してみます)。
するとこの質問者は、病院に不満ばかり言う、療養態度の悪い患者であるというイメージが発生します。病院をコロコロと変える患者の多くはそういうタイプです。
但し精神科では特殊な事情があります。それは、病院への不満そのものが、病気の症状であるというケースです。たとえば被害妄想という症状のため、医師や病院に不信感を持つというものです。これは精神科ではしばしばあります。
この【2756】のケース、
看護師の対応がひどいと感じたので、退院しました。
とのことですが、これは看護師に対する被害妄想に基づくものかもしれません。
以上まとめますと、【2756】のケースのように、病院をコロコロかえる患者は、
(1) 不満が多く、療養態度の悪い患者
(2) 妄想など精神症状が活発な患者
のどちらかであると考えられます。
【2756】の質問者は、ここまでお読みになって、怒っておられるかもしれません。自分が病院を変えたのは、そんな理由によるものでない、と。
けれども怒る前に、ここまでの私の文章を落ち着いて振り返ってください。私は次のように書きました。
質問者はこれまで、コロコロと病院を変えてきています(と、一応表現してみます)。
上記文章を前提にする限り、質問者は(1) 不満が多く、療養態度の悪い患者 か、(2) 妄想など精神症状が活発な患者 であると判断せざるを得ません。
これが、
質問が答えを規定している
質問の中にすでに答えが含まれている
ということです。
もし質問者が「コロコロと」病院をかえてきたのであれば、答えは上記の(1)(2)になります。しかし質問者は「コロコロと」病院をかえてきたのでしょうか。あるいはそうかもしれませんが、そうでないかもしれません。質問者のこれまでの受診歴についての事実は、「2年4カ月の間に、4つの病院にかかった」ということです。ここから「コロコロと病院をかえた」という表現に至るには、大きな飛躍があります。純粋に「2年4カ月の間に、4つの病院にかかった」という事実だけから考えれば、質問者については上記(1)(2)に加えて、
(3) 受診した病院側に何らかの問題があったため、やむを得ず病院をかえ続けた
という可能性を考える必要が出て来ます。そしてこの(3)こそが真実かもしれません。けれども「コロコロと病院をかえた」という表現から考察を始める限り、この(3)は最初から除外されることになります。
本題のご質問に戻ります。
この主治医はコロコロと薬や量を変更していましたがそういうもんなのでしょうか?
この質問には意味がありません。なぜなら、質問が答えを規定しているからです。言い換えれば、質問の中にすでに答えが含まれているからです。それは「コロコロと」という表現です。
「コロコロと薬や量を変更」したのであれば、その診療は疑問です。しかし、このメールを読む限り、どこにも「コロコロと薬や量を変更」したと考える根拠はありません。主治医が「薬や量を変更」したのは事実なのでしょう。患者の病状がすっきり改善していない以上、「薬や量を変更」するのは当然です。あるいは主治医は短期間に薬や量を変更したのかもしれません。であればそれは必ずしも適切とは限りませんが、かと言って不適切だと指摘するだけの根拠もありません。病状と経過によっては、短期間に薬や量を変更しなければならないこともあるからです。そして、どのくらいの期間が「短期間」でどのくらいの期間が「長期間」かは、日常感覚から推定できるものではありません。精神医学の専門的な判断が必要な事項です。
以上が、
過去の主治医の方針は正しかったのか
というご質問への回答です。
しかし【2756】において重要なのは、過去の主治医の方針ではなく、現在と未来のことです。
現在の状態については先に記した通り、「統合失調症の可能性が最も高い。けれどもまだ確定できない」ですので、今の主治医の方針に従い、慎重に治療を続けることが大切です。
一般論としては、「主治医を変えた回数」と「経過の悪さ」は比例します。これ以上病院をかえないほうがいいでしょう。
(2014.8.5.)