【5014】統合失調症だと思っていた叔母は、実は染色体異常でした
Q: 30代女性です。いつもサイトを拝見し、様々なケースの精神疾患について勉強させて頂いております。さて、表題の叔母の件なのですが、林先生のご意見をお聞かせ下さい。長文ですがお許し下さい。
・叔母 61歳 40年ほど前に離婚歴あり 子どもなし 私(30代・女)は結婚して実家を離れているのですが、叔母は昔から意思疎通がイマイチだったり、些細ですが妙なこだわり(例えば1足の靴下の片足の色が少し色褪せると同じ靴下ではないと言い張ったり)がありました。性格はおとなしく大変控えめな人です。実家で祖父母と一緒に暮らしていました。私の両親は敷地内の別棟。(私は月に2回は帰りますのでその時の様子です)
そんな叔母が顕著におかしくなったのは一緒に暮らしていた祖母(叔母にとっては実母)が5年前に亡くなった後からです。 陰性症状でしょうか長期間お風呂に入らなくなり、掃除機をかけなくなり、部屋は荒れて行きました。祖父に出す食事も揚げ物をチンしたものなど手をかけないものが増えました(自分もそれをちゃんと食べる)。倦怠感があるらしく、昼間はよく昼寝をしていました。それでも夜は眠れるようで、どちらかと言えば食事の準備と家事(洗濯と洗い物)以外の時は横になっていたようです。実家は農業をしていますので、私の父や母が手伝うようにいくら言っても中々手伝おうとはせず、手伝っても手が遅かったりミスをしたりといった具合のようでした。(祖母は生きていた時は、ちゃんと手伝っていました。というか祖母の命令でやっていた感有)
ある日叔母が血相を変えてやって来て言いました。「とんでもない人が来る事になった。。もてなさないといけないけど料理が作れないから3人前メンチカツを作って欲しい」綺麗なお皿を3枚持ってやってきた叔母はこう言い、私が「誰が来るの?何時に来るの?」と聞いても「分からない」の一点張りで、少し震えながら恐怖の表情を浮かべる叔母を見て、私も何と言えない気分になりました。その後作って持っていくと了承して材料を切っていると、叔母から内線が入り「やっぱり誰も来ないから、作らなくていいよ。ありがとう」と言われました。その夜、叔母は「あいつらが来る!」と言って走って家を飛び出しました。父が慌てて捕まえて家に戻したのですが、しばらくすると祖父から内線が入りまた出て行った旨連絡がありました。家族総出で探したのですが見当たらず、結局タクシーを呼んだようで駅まで行っていました(深夜なので当然電車はもうありません)タクシーでは服を買いに行くので街まで行って欲しいと言ったようですが深夜という事もあり運転手さんに説得を受け、駅で降りたようです。見つけた時になぜこんな時間にこんな所に来たのか理由を聞くと「逃げなければ殺される」と何度も何度も言っていました。 この件から翌日にでも早く病院へ連れて行くように父に話し、叔母の通っている精神科を受診すると入院する事が決まりました。(私はここで初めて叔母が精神科へ通っていた事を知りました)叔母の部屋を見ると、薬が袋のままで飲まれていない状態で残っていました。リスパダールやエビリファイで叔母の状態や薬を見て統合失調症なのだろうと思い、父に聞くと「自律神経の総合失調」だと言われたと言いました。よくある告知のパターンだと思いつつも薬はちゃんと出ているし薬をちゃんと飲めば良くなると思いました。
結果3ヶ月の退院後はあのような激しい妄想などもなくなり、生活レベルは低下しているものの、穏やかに暮らしています(現在も) 先日、薬がなくなりそうだったので叔母と共だって病院へ行きました。受診も叔母の希望(言われた事をあまり覚えられないという訴)で一緒に診察室に入ったのですが、血液検査で叔母が離席した間に主治医の先生に質問はありますかと言われたので、「叔母は統合失調症なんですよね?」と聞いた所「彼女は染色体異常で統合失調症のような精神症状がでているだけで、治療の方法がないので(統合失調症と)同等の治療をしているんですよ」と言われました。 染色体異常で精神疾患があるものなんてダウン症と猫鳴きくらいしか知らなかったので大変ショックを受けました。主治医の先生がこうおっしゃっているので統合失調症の治療で大丈夫なんでしょうが、こんなケースもあるんですね。。何番染色体が欠損なのか重複なのか詳しい事は答えて下さらなかったのですが、このような場合は統合失調症への対応と同じで構わないのでしょうか?長々書き連ねてお答えに困るような質問で申し訳ありませんが、よろしくお願いします。またどのような染色体異常の可能性があるのか教えて頂ければ幸いです。
林: 統合失調症に類似の精神症状が出る病気は実はとてもたくさんあります。ただこのとき、「統合失調症に類似」の「類似」の程度が様々で、精神科医が見ればとても「類似」とは言いにくく、幻覚や妄想があっても統合失調症ではないことは明らかなケースでも、医学書などにはしばしば「統合失調症に類似」「統合失調症様(とうごうしっちょうしょうよう = schizophrenia-like)」などと記載されています。
染色体異常の中にも統合失調症に「類似」の症状が出るものはたくさんありますが、その大部分は精神科医から見れば、類似の面はあっても、統合失調症とはかなり異なるものが大部分です。そんな中で、しかし、精神科医から見てもかなり統合失調症に類似しているものとしては、22.11.2欠損症候群があります。これは「CATCH22」とも呼ばれており、この呼び方は適切でないという批判もありますが、CATCHはそれぞれ Cardiac defects (心臓の奇形)、Abnormal facies (特徴的な顔貌)、Thymic hypoplasia (胸腺低形成)、Cleft palate (口蓋裂)、Hypocalcemia (低カルシウム血症)の頭文字です。
この22.11.2欠損症候群に限らず、染色体異常で統合失調症に類似の症状が出ている場合は、精神症状以外に何らかの身体症状や身体的特徴が見られることが多く、その点からも統合失調症とは異なることに気づかれるものです。
この【5014】の叔母様の症状は、幻覚や妄想の存在を窺わせるものではありますが、統合失調症とは異なるニュアンスがあります。少なくとも典型的な統合失調症とは異なっているといえます。
治療法としては主治医の先生からのご説明の通りで、染色体異常で統合失調症のような精神症状がでているだけで、治療の方法がないので(統合失調症と)同等の治療 になります。
なお、染色体異常によって統合失調症に(かなり)類似した症状が出るという事実は、その染色体の異常部分の遺伝子の研究が、統合失調症の本質を解明する突破口になる可能性がありますので、精神医学研究で注目されているテーマの一つになっていますが、今のところ画期的な知見は得られていないというのが現実です。
(2026.2.5.)



