AI回答【4969】緊急性の有無・考

精神科Q&A【4969】のQに対する回答を、AI(2025/09/16現在無料で公開されているAIの一つ)に求めてみた。
【4969】のQは次の通りである:

***
【4969】緊急性がありますか
Q: 20代女性です。
現在不眠症と社会不安症で通院中です
小中と不登校歴があり、高校は卒業しましたが大学に進んだ後中退しまた引きこもりの様な状態になってしまいました
希死念慮や幻聴・幻覚、不眠などが改善してきたため、衰えた体力を取り戻すため取り敢えず運動を始めることとし、自転車で数キロ走ることを2ヶ月ほど続けていました
一週間ほど前体調不良になり続けていた外出運動が止まったことを心配した母が遠出に誘ってくださり、車で二つとなりの街まで向かうことになりました
休憩のため途中寄ったコンビニの店員が目線で出て行くよう示したり、植物が車道へ飛び出す事を勧めたりすることがありました
以前も似たようなことがあり(木が汚物が歩いていると言う、通行人が私を笑う、昔言われた罵倒が繰り返し聞こえるなど)これは他人や植物がそう思うわけではなく私の思い込みや劣等感がこうした罵倒を外部に投影したものにすぎないと理解できたため、その旨を家族に伝えて家に帰りました
母親は病院と連絡を取るよう勧めてきますが、1人で外出した際にはそのような事は起こらない上、趣味のことは比較的手につくため緊急性は高くないと考えていますが主治医に連絡を取った方が良いのでしょうか
***

この問いに対し、そのAIは次のように回答した:

おつらい経験をされたのですね。不眠症や社会不安症と向き合いながら、ご自身のペースで運動を続けていらっしゃることに、敬意を表します。体力を取り戻そうと前向きに取り組んでいらっしゃる姿勢は素晴らしいと思います。
ご相談の内容についてですが、ご自身で「思い込みや劣等感がこうした罵倒を外部に投影したものにすぎない」と分析されていることは、客観的にご自身の状態を把握できている証拠であり、大変素晴らしいことです。
しかし、今回のように、幻聴や幻覚と思われる症状が再び現れたことは、主治医に連絡するべき重要なサインと考えられます。

なぜ主治医に連絡するべきか
•    症状の悪化の可能性: 「以前も似たようなことがあった」とのことですが、今回は「コンビニの店員が目線で出て行くよう示す」「植物が車道へ飛び出すことを勧める」など、より複雑な幻覚や幻聴の症状が加わっています。これは、症状が進行している、あるいは新たな段階に入った可能性を示唆しています。
•    「一人で外出した際には起こらない」という認識について: 今回の症状が、お母様との外出という、いつもと異なる環境で起こったことは、特定の状況下で症状が現れやすいことを示しているのかもしれません。一人でいる時に症状が出ないからといって、今後も出ないとは限りません。
•    早期治療の重要性: 精神疾患の治療においては、症状が軽いうちに適切な対応を始めることが非常に重要です。初期の段階で対処することで、症状の悪化を防ぎ、回復を早めることができます。
•    主治医との情報共有: 主治医は、あなたの病状や治療経過を最もよく知っている専門家です。今回の出来事を伝えることで、主治医はあなたの状態をより正確に把握し、治療計画の見直しや薬の調整が必要かどうかを判断することができます。
今すぐできること
「緊急性は高くない」と考えていらっしゃるかもしれませんが、このような体験を一人で抱え込まず、主治医に相談することが、今後の安定した生活を送るための第一歩になります。
まずは、次回の診察を待たずに、電話で主治医や病院に連絡を取り、今回の出来事を伝えてみてください。もしかしたら、早めの受診を勧められるかもしれませんし、電話で症状を伝えて終わりになるかもしれません。いずれにしても、専門家の意見を聞くことが、あなたにとって一番安心できる選択肢だと思います。
ご自身を責めたり、一人で悩んだりする必要はありません。あなたの勇気ある行動が、より良い未来につながることを願っています。

林の【4969】の回答と比較してみたとき、AIの回答が、口調・内容ともに非常に丁寧であることは、他のQについての場合と同様である。
AIの回答の内容について具体的にみていくことにする:

おつらい経験をされたのですね。不眠症や社会不安症と向き合いながら、ご自身のペースで運動を続けていらっしゃることに、敬意を表します。体力を取り戻そうと前向きに取り組んでいらっしゃる姿勢は素晴らしいと思います。
ご相談の内容についてですが、ご自身で「思い込みや劣等感がこうした罵倒を外部に投影したものにすぎない」と分析されていることは、客観的にご自身の状態を把握できている証拠であり、大変素晴らしいことです。

最初に質問者をねぎらう。こうして人間関係をスムースに進めるための基本の遵守から回答を始めるのは、このAIの定番の手法のようである。
そしてこの回答では、直ちに本題に入っている。

しかし、今回のように、幻聴や幻覚と思われる症状が再び現れたことは、主治医に連絡するべき重要なサインと考えられます。

【4969】の質問は、タイトルが「緊急性がありますか」であり(このタイトルは質問者から林へのメールのタイトルである)、「主治医に連絡するべき重要なサインと考えられます」という回答は質問の中核部分にストレートに答えたものであるといえる。
上の部分で、「幻聴や幻覚」という表現は厳密には誤りである。回答の文脈上、「幻覚」は、目に見える幻覚を指していると思われるが、そうであれば正しい用語法は「幻視」である。「幻覚」は五感にあらわれるあらゆる幻を指す。しかし一般の方は「幻覚」は「幻視」の意味で用い、「幻聴」は「幻覚」の一種であるという認識はお持ちでないことが多いから、「幻聴や幻覚」というAIの表現は、誤りではなく、質問者一般の認識にあわせてのものと取ることも可能であろう。

林の【4969】の回答は、前置きなしで本題に入り、そして何より、具体的に考えられる病名を示していることがAIとの大きな違いである。林の【4969】の回答の冒頭部分は次の通りである:

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林: あなたは統合失調症だと思います。これまで受けてこられた治療内容が不明ですが、治療が不適切か、または、適切な治療を受けておられているにもかかわらず病状が悪化していきていると判断できます。主治医を受診し、現在の症状に適した治療を受けてください。
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このように林は直截に「あなたは統合失調症だと思います」と結論を述べている。AIは病名こそ明示していないものの、質問者の体験が「幻聴や幻覚」であると明確に判断しており、「幻聴や幻覚」が現れる代表的な病気は統合失調症で、統合失調症が100人に1人という高い有病率の病気であること、そして質問者は統合失調症の好発年齢である20代であることをあわせれば、質問者が罹患している病気として最も可能性が高いのは統合失調症であると言えるが、だからといって質問者が統合失調症であると直ちに結論することはできないから、AIは病名を示唆することは慎重に避けたと考えることができる。

病名こそ具体的には述べないもののAIは、上のように「主治医に連絡するべき重要なサインと考えられます」と、まず結論を示し、その結論に至った理由として

なぜ主治医に連絡するべきか

として4項目を挙げている。

その1
•    症状の悪化の可能性: 「以前も似たようなことがあった」とのことですが、今回は「コンビニの店員が目線で出て行くよう示す」「植物が車道へ飛び出すことを勧める」など、より複雑な幻覚や幻聴の症状が加わっています。これは、症状が進行している、あるいは新たな段階に入った可能性を示唆しています。

その1は、【4969】の具体的な症状経過に着目したもので、精神医学的に正しい指摘である。

その2
•    「一人で外出した際には起こらない」という認識について: 今回の症状が、お母様との外出という、いつもと異なる環境で起こったことは、特定の状況下で症状が現れやすいことを示しているのかもしれません。一人でいる時に症状が出ないからといって、今後も出ないとは限りません。

その2も正しい指摘である。この質問者に限らず、多くの人が、「自分には症状はあるが、これこれの時にはその症状は起こらないのだから、たいしたことはないだろう」と解釈して受診が遅れ、結果として重症化して大変なことになるのはよくあることで、その2としてAIが示した内容はその点で非常に的確なものである。

林の【4969】の回答でもこの点に言及している:

***
1人で外出した際にはそのような事は起こらない上、趣味のことは比較的手につくため緊急性は高くないと考えていますが

それは「緊急性」という言葉の意味によります。文字通り直ちに緊急の治療を要するか否かという観点からは緊急性が高いとは言えません。けれどもこのまま放置すれば悪化し、突然に緊急的な治療を要する状態に陥る可能性が十分にあるという意味では緊急性があると言えます。
***

主治医の判断を求めることを勧めるという意味では林の回答とAIの回答は共通している。しかし林の回答はこのようにシンプルなものであるのに対し、AIはなぜ主治医の判断を求めることが必要かという理由を丁寧に説明している。「なぜ主治医に連絡するべきか」の4項目のうち、その3・その4は次の通りである:

その3
•    早期治療の重要性: 精神疾患の治療においては、症状が軽いうちに適切な対応を始めることが非常に重要です。初期の段階で対処することで、症状の悪化を防ぎ、回復を早めることができます。

その3は一般論として正しい。そして、直前にその2を配置することで、説得力を高めている。おそらくこの順番もAIは十分に考慮したのであろう。

その4
•    主治医との情報共有: 主治医は、あなたの病状や治療経過を最もよく知っている専門家です。今回の出来事を伝えることで、主治医はあなたの状態をより正確に把握し、治療計画の見直しや薬の調整が必要かどうかを判断することができます。

「なぜ主治医に連絡するべきか」の結びであるその4では、主治医を受診することの重要性と、その理由を的確に説明している。AIがその1からその4までの提示順を含めた構成を十分に考慮して回答していることはもはや疑いない。

そして回答の結語として
今すぐできること
を次のように具体的に示している。

「緊急性は高くない」と考えていらっしゃるかもしれませんが、このような体験を一人で抱え込まず、主治医に相談することが、今後の安定した生活を送るための第一歩になります。
まずは、次回の診察を待たずに、電話で主治医や病院に連絡を取り、今回の出来事を伝えてみてください。もしかしたら、早めの受診を勧められるかもしれませんし、電話で症状を伝えて終わりになるかもしれません。いずれにしても、専門家の意見を聞くことが、あなたにとって一番安心できる選択肢だと思います。

「緊急性がある」という言葉を明示はしていないものの、少なくともすぐにでも主治医に相談することを勧めることで、実質的には緊急性があることを示唆している。そしてそれが「あなたにとって一番安心できる選択肢だと思います」と説明することで、質問者が実際に主治医に相談するという行動を取る可能性を高めようとしている。
そしてAIは最後に、質問者を勇気づけ、希望を与えることを忘れない。次の通りである:

ご自身を責めたり、一人で悩んだりする必要はありません。あなたの勇気ある行動が、より良い未来につながることを願っています。

この【4969】は、林の回答で示した通り、「最も考えられる病気は統合失調症。早急に主治医の判断を求めるべき」が端的かつ正確な判断である。但し質問者にとって最も重要なのは、とにかく「早急に主治医の判断を求める」ことであって、質問者がその行動に出るために「統合失調症」という病名を示すことが適切かどうかの判断は容易でない。精神科Q&Aは読者に向けて事実を回答するものであって、質問者にとって事実を知ることが適切かどうかを考慮するものではないから、「質問者がその行動に出るために「統合失調症」という病名を示すことが適切かどうかの判断」をすることは本来不要なのであるが、AIの回答ポリシーは精神科Q&Aとは異なっていると考えられる。そこで私の関心は、AIが統合失調症という病名を明示するか否かであったのだが、この【4969】の回答では明示しなかった(但しある一種類のAIにしか聞いていないので、他のAIがどうかはわからないが)。その理由はAIが「質問者がその行動に出るために「統合失調症」という病名を示すことが適切かどうかの判断」として、病名までは示さない方が適切であると考えたという解釈もできるが、この【4969】は統合失調症と断言するには情報不足であるから断定を避けたという解釈もできよう。

(2025.9.21.)

21. 9月 2025 by Hayashi
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