AI回答【2786】命を狙われ続けている・考

メールの記載から明らかに質問者が統合失調症だと確定できるケース【2786】について、AI(2025/09/16現在無料で公開されているAIの一つ)に回答を求めてみた。
【2786】のQは次の通りである。

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【2786】精神科の後に外科に行ってから命を狙われ続けています
Q: 30代女性です。12年前に病院で医療ミスをされ逃げ出しました。でもそれが暴力団に知られてしまい医療ミスを隠蔽するために6年前からずっと毒ガスで命を狙われています。玄関の前で暴力団が毎日毒ガスを撒き散らしながら自分もガスにやられておえ~っと嗚咽しながら撒いています。私は撒く前に予測出来るのでドアと窓にガムテープを貼っていますが隣や上の住人は気付いてないので四方八方から嗚咽する音が聴こえますし私も吐き気や腹痛が止まらない時があります。申し訳ないので教えてあげたいのですが演技かもしれないのでチャイムを押せません。何度引っ越ししても大家もお金を貰って暴力団に情報を流してるので収まりません。スーパーの店員やタクシーやバスの運転手も私が来た事を知ると手元に毒ガスを準備して待ち受けているので、行く前に見えた場合は逃げますが間に合わなかった時は息を止めます。そして全部気付いてるからなと呟くと、その人達は暴力団にお金を貰って動いてるだけなのですぐにやめます。親戚の集まりでもお金に目が眩んだ親戚が私のお椀だけに毒を入れてくるので吐き気と下痢が止まりません。あと私が出入りした時だけ毒ガスが出る装置のような物を玄関に置いていると思います。私は結婚もしたいし子供も欲しいのに、どうしてこんな事に巻き込まれてしまったのでしょうか。
(注 【2786】はこれに続き
先生のところに私と同じ事件に巻き込まれている人はいますか? 私は先生はまだ暴力団に関わっていないと信じてメールしました。
という記載があるが、AIのプロンプトにするにあたってはこの2文は削除した)
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林の【2786】の回答(2014.9.5.)は次の通り。この1行が回答の全文である。

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林: あなたを救えるのは精神科だけだと思います。精神科を受診してください。
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このとき林は、明らかに病識がほぼ完全に欠如した統合失調症である【2786】の質問者に対し、「統合失調症だから精神科を受診せよ」と回答しても受診するはずがないので、上のように回答したのである。

一方、AIは次のように回答した。「統合失調症の症状である可能性が高い」とストレートに述べている。

心中お察しいたします。非常に辛く、苦しい状況にいらっしゃるのですね。
今、あなたが経験されていることは、統合失調症の症状である可能性が高いと思われます。統合失調症は、幻聴、妄想、思考の混乱などを引き起こす精神疾患です。
•    「暴力団に命を狙われている」「毒ガスを撒かれている」という被害妄想
•    「玄関に毒ガスの装置が仕掛けられている」「スーパーの店員や親戚が毒を盛る」といった周囲の人々に対する強い不信感
•    「隣や上の階の住人から嗚咽が聞こえる」といった幻聴や、幻覚、幻臭
•    「吐き気や腹痛が止まらない」といった身体的な不調
これらの症状は、ご自身の意思とは関係なく現れ、非常に強い苦痛を伴います。あなたが感じている恐怖や苦しみは、決して気のせいではありません。
しかし、これは現実ではなく、病気の症状によって引き起こされている可能性が高いです。一人でこの状況に耐え続けるのは非常に困難です。専門家である医師に相談することで、この苦しみから抜け出す道が開けるかもしれません。
まずは精神科、または心療内科を受診されることを強くお勧めします。専門家は、あなたの話を真摯に受け止め、適切な治療法を一緒に考えてくれます。
治療法には、薬物療法や精神療法などがあります。適切な治療を受けることで、症状が和らぎ、普通の生活を取り戻すことができる可能性は十分にあります。
この状況を一人で抱え込まず、まずは専門家に相談してみてください。それが、あなたが結婚し、子供を持ちたいという願いを実現するための一歩となるはずです。

どこに相談すればいい?
•    精神科・心療内科: まずは、お住まいの地域の精神科や心療内科を探してみてください。多くの病院は予約制なので、事前に電話で確認することをお勧めします。
•    精神保健福祉センター: 各都道府県や市町村にある公的な相談機関です。精神疾患に関する相談を無料で受け付けています。どこを受診すべきかわからない場合など、最初に相談してみるのも良いでしょう。
一人で悩まず、ぜひ、専門家の力を借りてください。一歩踏み出すことが、あなたの未来を変えるきっかけになります。

AIは、回答の定法どおり、冒頭では「心中お察しいたします。非常に辛く、苦しい状況にいらっしゃるのですね。」と、本人の辛さに共感する姿勢を見せているが、それに続いて直ちに「統合失調症の症状である可能性が高い」と直截に指摘し、以下、精神科の受診を勧めている。その理由、すなわち、質問文の内容からみて統合失調症の可能性が高い理由、そして、受診によって苦しみから解放されることが期待できる理由を具体的に述べている。林の回答との異同は、要旨、次の通りということになろう:

【共通点】
AIも林も、
精神科受診によって苦しみから解放されることが期待できる。
と述べている。

【異なる点】
・AIは「統合失調症」という病名を明示しているが、林は病名は述べていない。
・AIは「精神科受診によって苦しみから解放されることが期待できる」ことの理由を具体的に説明しているが、林は一切説明していない。
・AIは総じて非常に丁寧に回答しているが、林の回答は非常に短く素っ気ない。
・林は
「苦しみから解放される」ためには精神科受診以外には方法はない
と述べているが、AIはそこまでは述べていない。

AIと林の回答の最も大きな違いは、統合失調症という病名を明示する/しない である。
質問者が統合失調症に罹患していると思われ、しかし質問者に病識が認められないという点で【2786】と共通している【4696】では、逆に、林が統合失調症という病名を明示しているのに対し、AIは病名を明示していない。AIが病名を明示していない理由として考えられることとして、AI回答【4966】緊急性の有無・考では、
(1) AIが「質問者が精神科受診行動に出るために「統合失調症」という病名を示すことが適切かどうかの判断」として、病名までは示さない方が適切であると考えた
(2) 統合失調症と断言するには情報不足であるから断定を避けた
を挙げた。今回の【2786】のAIの回答をみると、【4969】で統合失調症という病名を示さなかった理由は  (2) 統合失調症と断言するには情報不足であるから断定を避けた  であったと言えそうである。もし「質問者が精神科受診行動に出ることを促す」を優先するのであれば、【2786】の方こそ病名を明示しないことが望ましいのは明白であるが、AIが病名を明示したということは、AIは回答にあたって「質問者が精神科受診行動に出ることを促す」を優先することはしていないということになる。
もしそうだとすれば、AIの回答は、精神医学的には正確で、かつ、口調からは質問者に寄り添ったものであるように感じられるが、質問者にとって真に有用な回答は何かという視点は欠いていると評価できよう。
但しそれは、林の回答が「質問者にとって真に有用な回答」であることはもちろん意味しない。精神科Q&Aにおいて林が堅持している基本方針は、「事実を答える」であって、その事実が「質問者にとって真に有用な回答」かどうかは考慮していない。「事実を答える」ことは、質問者にとっては逆に全く有用でなかったり、絶望を与えるだけのこともあるが、たとえそうであっても「事実を答える」という基本方針は堅持している。
すると、質問者が統合失調症に罹患していることが明白な【2786】の回答で、統合失調症という病名を明示していないのは基本方針に反しているという指摘も可能だが、
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林: あなたを救えるのは精神科だけだと思います。精神科を受診してください。
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という回答は、事実を指摘しているものであって、それ自体、「事実を答える」という基本方針に反するものではない。
精神科Q&Aの冒頭の記載、「すべて事実を回答します。したがって、これは医療相談ではありません」の、「これは医療相談ではありません」とはすなわち、質問者本人のためになることは優先しない、逆に本人にとってマイナスになることも厭わない、ということであるが、そうは言っても回答は本人も読むことを想定しないわけにはいかない。病識が完全に欠如した当事者、あるいは病識が曖昧な当事者からの質問に、医療者はどのように答えるのが最善かということは、精神科Q&Aのようなメールによる質問のみならず、精神科の日常の臨床場面でも非常に難しいデリケートな問題である。その観点からすると、AIの回答は、形式上は本人に寄り添った形を取り、精神医学的にもかなり正確なものであるが、形式とは裏腹に、真に本人のためになる回答とは何かという観点は希薄であるように思える。が、【4969】と【2786】の結果だけからそう結論するのは明らかに時期尚早であって、他のQに対する回答も検討していくことにしたい。

(2025.9.22.)

22. 9月 2025 by Hayashi
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