【4973】「家族や友人は存在していない」という妄想に取りつかれて困っています

Q: 私は22歳の女性で、現在は大学を休学しています。
最近「友人や家族は本当は存在していない」という妄想に取りつかれており、とても困っています。
とくに何かきっかけとなる出来事や、不審な態度があったわけではありません。ただ、ある日突然、「本当の家族はすでに殺されており、今そばにいる人たちはそのふりをしている他人である」とか、「今メッセージをくれた友人は実はAIのチャットボットだ」といった観念が頭に浮かぶようになってしまいました。
もちろん、家族や友人が殺される理由もなければ、誰かが完全に成り代わるなんて現実的に不可能です。ですから「これは妄想だ」と自分では理解できています。
それでも、なぜかその可能性を完全に否定しきれず、つい深く考え込んでしまうのです。

私はもともと双極性障害I型と薬物依存症で精神科に通院しており、服薬もしています。
この妄想についても主治医に相談しましたが「妄想だと自覚できているなら大丈夫」と言われました。
そのとき、1年近く介護していた末期がんの母を2週間前に亡くしたことも伝えたところ、「急なストレスで神経が過敏になっているだけ。気持ちが整理されてくれば落ち着いてくると思う」との見解をいただきました。

ですので、現時点ではそれほど深刻に捉えすぎないようにはしています。
けれども、自分がこのまま妄想に飲み込まれて、自覚を失い、もし他人に危害を加えてしまうようなことが起きたら……と思うと、不安でたまりません。
この妄想だけでなく、それによって理性を失ってしまう未来もセットで考えてしまって、ふたつのことに一気に襲われて気が狂いそうになります。
この妄想を止めることはできるのでしょうか? そして私は、いずれ本当に妄想の中に取り込まれてしまうのでしょうか?

 

林: 身の回りの人、特にご家族や親しい友人が、外見はそっくりだが偽物であるというのは、発生頻度は高くありませんが、精神医学では昔からよく知られている妄想のひとつです。その偽物が、そっくりの別人に入れ替わっていると信じる場合はカプグラ症候群、他人の変装であると信じる場合はフレゴリ妄想と呼ばれています。いずれも統合失調症で発生しうる妄想ですが、脳の器質的障害(脳の損傷)で発生する場合もあります。

但し、「家族や友人は存在していない」という漠然とした思いは正常な思考としてもありうるものですので(哲学的なレベルで言えば、逆に、自分以外の他人が本当に存在しているかどうかはわからない、とも言えるでしょう)、そうした思考を持つことだけで病的であるとは言えません。とは言え、そうした思考がかなり強く、しかも持続しているとすれば、妄想であるという可能性に傾き、また、「双極性障害I型と薬物依存症で精神科に通院しており」という背景からは、さらに、妄想である可能性は高まるといえるでしょう。

主治医のおっしゃるところの「妄想だと自覚できているなら大丈夫」は正しい説明ですが、それはあくまでこの言葉通りの意味、すなわち、今は自覚できているから大丈夫、ということであって、妄想とは、最初は妄想だと自覚できていても、その後に妄想だと自覚できない状態に進展していくのが一つの典型的なパターンですから、今は大丈夫であっても今後においても大丈夫と言うことはできません。

そのとき、1年近く介護していた末期がんの母を2週間前に亡くしたことも伝えたところ、「急なストレスで神経が過敏になっているだけ。気持ちが整理されてくれば落ち着いてくると思う」との見解をいただきました。

それは一つの解釈であって、その解釈が正しいという根拠はありません。妄想に発展していく可能性を十分注意する必要があります。

そして私は、いずれ本当に妄想の中に取り込まれてしまうのでしょうか?

その可能性も否定できません。

この妄想を止めることはできるのでしょうか? 

質問者のこれまでの他の症状や現在の処方内容が不明ですが、薬を調整し、「家族や友人は存在していない」という思いとその思いをめぐる不安などがどのように変化していくかを確認するという慎重な姿勢が必要だと私は思います。

(2025.8.5.)

05. 8月 2025 by Hayashi
カテゴリー: 精神科Q&A, 統合失調症, 躁うつ病 タグ: |