【4953】精神科で処方される薬は最終的に減薬するするのがベストなのですか

Q: 私は精神科でうつ病の診断を受けている20代男性です。
私は主治医に不眠症の薬を処方されているですが、最終的にもう飲む必要がないということを勧められております。
そこで質問なのですが、不眠症の薬はどんなにうつがひどくて不眠症で悩んでいてもいずれは止めるべきでしょうか? 先生のお考えをお聞かせ下さい。

林: 薬はどんなものであっても、飲まないですめばそれが最善です。これが大前提です。
けれども、この大前提は、「薬は飲まないのが最善」という意味ではありません。「飲まないですめば最善」と「飲まないのが最善」とは全く異なります。飲まなかった場合に何かよくない結果が生じるのであれば、「飲んだとき」と「飲まないとき」を比較して、どちらが望ましいかによって、飲むか飲まないかを決めるのが適切であるということになります。これはどんな薬でも同じです。精神科の薬でも精神科ではない薬であっても同じです。

したがって、

精神科で処方される薬は最終的に減薬するするのがベストなのですか

【4953】のタイトルであるこのご質問には、「精神科で処方される薬」をひとまとめにしているという点で、大きな誤りがあり、質問として成立していません。その意味では、質問本文中の

不眠症の薬はどんなにうつがひどくて不眠症で悩んでいてもいずれは止めるべきでしょうか?

というご質問であれば、質問として成立していると言えます。そしてこのご質問への答えはここまでのご説明からすでに明確だと思います。「いずれは止めるべき」か否か、という部分だけを切り取ってみれば、答えはほぼイエスです。薬は飲まないですめばそれが最善だからです。しかし「どんなにうつがひどくて不眠症で悩んでいても」それでも止めるべきか否かということになれば話は別です。うつや不眠症の苦しみがとてもひどければ、薬を飲み続けることを妨げる理由はありません。飲み続けた場合に何か決定的な害があれば別ですが、そのような害は事実上ありません。(いかなる害の可能性も完全にゼロではないという次元まで論ずるのであれば、「害はありうる」というのが厳密には正しいですが、そこまで論ずればいかなる薬も最初から一切飲むべきではないということになります。薬に限らずいかなる化学物質についてもそうですし、さらには自然界に存在する物質についてもそうだということになります)
では依存性についてはどうかというのがこのような場合の定番の疑問ですが、この質問は多くの場合、依存性と必要性の混同が根底にあります。たとえば高血圧の薬や、糖尿病の薬、その他さまざまな薬は、一生飲み続ける必要がありますが、それは依存とは呼びません。人がある年齢になって高血圧になったとき、できれば薬は飲みたくない、食事に気をつけることなどによってなんとか薬を飲まずにすませたい、そう考えるのは健全ですし自然でしょう。一度飲み始めたら一生飲むことになることが予想されるからです。しかし食事等にいくら気をつけても高血圧のままであるときは薬を飲むのが最善です。そして一度飲み始めたら一生飲むことになる可能性は高いです。しかしそれは高血圧の薬の依存性が理由ではなく、必要性が理由であることは明白です。体の病気の薬に関してはこのような説明がスムースに受け入れられるのが普通ですが、精神科の薬になると受け入れられないというのはよくあることで、特に睡眠薬については、「飲まないと眠れない」という事実があると、即それを睡眠薬の依存性が原因であると考えがちなものです。これは論理的に考えると全く不合理で、なぜ体の薬では必要性を認めるのに、精神科の薬では必要性を認めず依存性という言葉に置き換えられるのかは不思議といえば不思議です。おそらくその背景には、昔の睡眠薬には確かに依存性が強いものがあったこと、それからそれより大きな理由は、自らの体の不調を薬で改善することにはさほど抵抗はないのに対し、精神の不調を薬で改善することには、強い抵抗があるということだと思います。化学物質で変えられた精神状態は、それを自分の本来の精神状態と言えるのか、というのは誰もが持つ、少なくとも潜在的には持つ疑問でしょう。【3863】コンサータによって自己の連続性を失いつつある はその疑問がありありと顕在化した例であると言えます。では、ある年齢で統合失調症を発症した方が、抗精神病薬を飲むことによって回復し、そして抗精神病薬を飲むのをやめたら再発したとき、それは抗精神病薬の依存性によってやめられなくなったということになるでしょうか。当事者やご家族の中にはそのようにお考えになる方もいらっしゃいますが、依存性ではなく必要性であるというのがごく一般的で、かつ、正しい考え方でしょう。この問題は、論理構造としては、

Aという人にBという症状が出て、Cという薬を飲み始めたところ、その後一生にわたって薬Cを飲まないと症状Cが出るようになった

と一般化できます。このとき薬Cには依存性ありと呼ぶのか、必要性ありと呼ぶのか。
まずBに体の病気を代入してお考えください。
次にBにさまざまな精神科の病気を代入してお考えください。統合失調症。不眠症。うつ病。不安症。発達障害。パーソナティ障害。それぞれについて、「依存性」が正しいように思えたり、「必要性」が正しいように思えたりするでしょう。なぜでしょうか。

(2025.5.5.)

05. 5月 2025 by Hayashi
カテゴリー: 精神科Q&A