【4957】精神病患者に薬は不要というスタンスの自立支援施設について

Q: 20代女性です。数年前から興味深く拝読しております。
引きこもりや不登校など自立生活に困難を抱える方を対象とした全寮制の自立支援施設の動画を見ていて、精神病患者の扱いについて疑問に思うことがありメールさせていただきました。

今回見た動画で取り上げられていた方の情報は下記のとおりです。情報は全て両親談です。
15歳男性(中3)
・学校には基本的に通えているが、ルールが守れない、人に命令されることを極端に嫌う
・中2の9月に「マンションの隣室から自分を妨害する騒音が聞こえる」と訴え、2か月ほど本人の希望で精神科に入院
・最初の病院では気分障害と診断
・別病院では発達障害と診断され、ジプレキサを処方される
・医師から「他にもいろいろな薬を試したが、本人の様子にあまり変化はない」と言われる
・本人は服薬を続けており「薬が効いていて、音などが聞こえなくなり、気分が安定した」と言う(どの薬を指しているかはわかりませんでした)
・病院で知能検査を受け、IQがかなり低いと判明
・中2の3月に2か月間再入院
・2度目の退院の約3か月後、自立支援施設に入所

施設のスタッフは、上記の説明を聞いたうえで「他にも精神病棟への入院経験がある施設利用者はいるが、うちでは薬は飲ませない」、「自立の為に必要なのは薬ではなく、食事や睡眠、そしてよく笑う事」と語っており、普段林先生のサイトを拝見している身からすると少し極端な印象を抱きました。
幻聴が聞こえるなどの症状で入院していた15歳の少年を、上記のようスタンスの施設に入所させることで、自立は望めるのでしょうか。
林先生のお考えをうかがえますと幸いです。

 

林: 幻聴が聞こえるなどの症状で入院していた15歳の少年を、上記のようスタンスの施設に入所させることで、自立は望めるのでしょうか。

望めません。「幻聴が聞こえるなどの症状で入院していた15歳の少年」の自立が「食事や睡眠、そしてよく笑う事」で達成できると考えるのは非常識です。
ただしこれは一般論であって、「幻聴が聞こえるなどの症状」に対して必ず薬が必要とは限りません。けれども「うちでは薬は飲ませない」のが、「精神病棟への入院経験がある施設利用者」のすべてについてのこの施設の方針であるとすれば、施設利用者にとって非常に不幸なことです。おそらく薬なしで自立できた利用者も存在することはするのだと思われますが、その影には薬を飲ませられなかったために悪化してドロップアウトした利用者が膨大に存在するのだと思います。この15歳の少年が 服薬を続けており「薬が効いていて、音などが聞こえなくなり、気分が安定した」とすれば、この施設で薬をやめさせられることによって、その不幸なドロップアウトの一人となってしまうことはまず間違いないでしょう。

(2025.5.5.)

05. 5月 2025 by Hayashi
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