【4816】ADHD の可能性がある友人に、精神科の受診をリマインドするべきか

Q: 20代男性です。長文になりましたので、まず概要を記載します。
・遠方に住んでいる友人がいる
・その友人はADHDの可能性があり、以前精神科の受診を勧めたが行っていない
・友人に精神科の受診をリマインドするべきか

私には関西在住の友人Aと北海道在住の友人Bがいます。私は関東に住んでおり、3人とも居住地は違いますが、年に数回は直接会って遊び、普段は音声通話や一緒にオンラインでゲームをしたりしています。

去年の春、友人Aは「友人BはADHDの可能性が高いから、精神科を受診したほうがいいのでは」という話をしました。

確かに友人Bの言動には心当たりはあります。その中には私が友人Bと接して感じたこともあれば、彼自身が言ったこともあります。例えば、私は彼と仕事をしたことがないため、「アルバイトでミスが多い」というのは後者です。
・時間にルーズで遅刻したり、約束を守れなかったりすることが多いです。
・上に関連して、遅刻がわかったときに、やる気を無くして帰宅することがります。例えば、大学に在籍していたとき、5分程度の遅刻では問題がないにもかかわらず、教室のドアの手前まで来て家に引き返すことがありました。同様に、アルバイトに出勤する途中で遅刻することがわかったら、Uターンして帰宅することもあります。
・アルバイトでのミスが多いです。とはいえ人間はミスするものであり、具体的にどの程度ミスが多いかは根掘り葉掘り聞くのも憚られるのでわかりません。少なくとも友人Bは自分自身についてミスが多いと認識しています。
・しばしば度を超えた発言をすることがあります。今年の1月、石川県で地震が起きました。私の実家は石川にあり、地震が起きた後、友人Bは私に「お前の爺ちゃんと婆ちゃん死んだ?」といきなり聞いてきました。幸い結果的に私の実家は大きな被害を免れていたので、そのときは特に何も思いませんでしたが、冗談だとしても度を超えています。(これが衝動的な発言なのか、非衝動的、つまり事前に考えられていた発言なのかは、彼の心の中を見ないことにはわかりませんが、少なくとも彼のこの発言には悪意は認められませんでした。非衝動的であればもはや冗談ではなく悪意が認められるはずですので、彼の発言は衝動的なものだったと思います。そう思いたいです。)
・一方で、親戚の集まりでは喋れなくなります。ただ、私はその場を直接見たわけではなく、たまたま親戚と折り合いが悪いだけという可能性もあります。
・先延ばし癖があります。例えば、彼は散髪に行くことを度々先延ばしにしており、彼自身には髪を伸ばす意志は無いにも関わらず、長髪になっています。友人Bはお金がないから散髪に行かないと言っていましたが、散髪をするだけならそう高い料金はかからず、友人Bに支払えない金額とは思えません。

ここに記載した情報は断片的なものであり、実際のところ友人BがADHDなのかは、彼が精神科の門を叩かないことにはわかりません。ただ、何かしらの精神的な疾患はあるかもしれないというのが個人的な考えです。(ただし、「可能性」の話をするなら、今メールを書いている私にも可能性はありますし、精神的な疾患を持っている可能性が0といえる人はこの世にほとんどいないでしょう)

友人Aが友人Bに精神科を勧めた理由は彼の過去にあります。友人Aは以前ADHDと診断され、現在もコンサータという薬を服用しています。私が友人Aと知り合ったのは彼が薬を服用するようになった後ですが、彼は薬を飲むことで自身の状況が改善したと語っています。そのため、友人Bも同様に状況が改善するのではないかと考えています。

そうした経緯もあり、友人Aは友人Bに精神科の受診を勧めました。一般に、人から精神科に行くよう言われることはある程度の抵抗があるかと思いますが、友人Bは意外とあっさりそれを受け入れ、近いうちに受診すると言いました。

しかし、約一ヶ月後、私と友人Aが友人Bに精神科を受診したか聞いたところ、彼は「お金がないから精神科に行ってない」と答えました。私が知る限り精神科の初診は数千円程度であり、もちろん安いお金ではありませんが、友人Bに支払えない金額ではありません。更に一ヶ月後、また一ヶ月後も、友人Bは金銭面を理由に精神科を受診していませんでした。

前置きが長くなり申し訳ございません。私が林先生に相談したいのは、友人Bに改めて精神科の受診をリマインドするべきか、また、自分たちが友人Bにできることはあるかという点です。

友人Bは自身の特性を自分で認識しており、それを改善したいと思っています。一方で、彼が精神科の受診を先延ばしにしていることを考慮すると、本当は精神科に行きたくないと思っているのかもしれません。であれば、私と友人Aがやっていることは「ありがた迷惑」なのかもしれません。

加えて友人Aの件はあくまで1つのケースであり、そのまま友人Bに適用できるとは限りません。友人Bは実際はADHDではないかもしれませんし、仮にコンサータのような薬を服用しても状況が改善しないかもしれません。薬で得られるメリットを副作用が上回る可能性もあります。

一方で、友人Aのように状況が改善したケースが身近にあることも無視できない事実であり、私としては精神科に行くだけならリスクも低いので、友人Bに行って欲しいと思っています。(薬には副作用というリスクが明確にありますが、精神科に行くこと自体のリスクは、0ではないにせよ、無視できるほど低いと考えています)

私や友人Aは、友人Bに精神科を受診するようリマインドしたほうがいいのでしょうか。

 

林: このご質問は2段階に分けて考える必要があると思います。
第一は、Bさんが精神科を受診したほうがいいかどうか ということ。
第二は、(第一が肯定されたとき)、質問者がBさんに精神科受診をリマインドしたほうがいいか ということ。
です。

第一の点について、

私としては精神科に行くだけならリスクも低いので、友人Bに行って欲しいと思っています。(薬には副作用というリスクが明確にありますが、精神科に行くこと自体のリスクは、ゼロではないにせよ、無視できるほど低いと考えています)

という質問者のお考えはもっともだと思います。
ADHDに限らず、また、精神疾患に限らず、一般に、病気の疑いがあれば、病院を受診したほうがいいと言えます。受診そのものについては普通はリスクを考える必要はなく、他方、受診しないことのリスクの方がはるかに大きいと言えるからです。具体的には、病気だった場合に、放置することで悪化するリスク、また、悪化はしないとしても、病気による様々な悪影響がご本人に(時には周囲の方々にも)発生するというリスクです。
ただし、ここまでの回答は一般論であり、それが精神科であるとき、そして疑い病名がADHDであるときにはやや違った事情があります。
ひとつは、精神科の受診歴そのものによるリスクが本当にないかということです。精神疾患への差別偏見が非常に強かった昔であればともかく、現代ではそれはあまりないと思われますが、それでも一定程度はあり、その程度は地域や人によってかなり異なるのも事実です。
もうひとつは、疑い病名がADHDであることにリスクです。この点については 林の奥  の、ADHDの薬、それは治療か商売か  などをご参照ください。
また、関連したこととして、別の角度からの危惧として、ADHDを適切に治療している精神科の医療機関が必ずしも多くないという現実があります。つまり、受診によって仮にADHDと診断されたとしても、そして過剰な薬物投与が行われなかったとしても、では適切な医療が提供されるかということは、受診した医療機関によって異なります。

第二の点について、(質問者がBさんに精神科受診をリマインドしたほうがいいか について)
イエスかノーかの二者択一でお答えするとすればイエスです。リマインドされたほうがいいです。
しかし、一つには、上の第一の点について での回答の通り、仮にBさんが精神科を受診されたとしても、Bさんにとって十分なメリットが得られるかどうかは不明です。十分なメリットを得るためには、受診する精神科を慎重に選択する必要であります。
また、こちらは一般論ですが、友人からの精神科受診推奨が、実質的にどこまで有効かという問題があります。つまり、勧められたからといってその人が精神科を受診するとは限らないのは当然で、実質的な有効さは互いの関係性、つまり質問者とBさんの関係性によって決まるでしょう。そして、どこまで強く勧めるか、また、繰り返し勧めるかは、対象者(この場合はBさん)にとって精神科受診によるメリットがどのくらいあり、受診しないことによるリスクがどのくらいあるかによっても決まるでしょう。

(2024.4.5.)

05. 4月 2024 by Hayashi
カテゴリー: ADHD, 発達障害, 精神科Q&A タグ: |