【4764】睡眠・食習慣の改善は精神疾患の治療にどれほど効果があるか

Q: 20代男性です。以前私がうつ状態(何も楽しくない、希望が持てない等々)で精神科クリニックにかかったとき、そこの医師から自閉スペクトラムの傾向があると言われました。その医師からは発達障害を学ぶのにおすすめの本をいくつか紹介されましたが、その際に「食事で治るとか、疑わしい本もあるから気をつけて」と教えられました。

それからして私は、うつや発達障害の本をいろいろ読んできたのですが、食事や睡眠で改善すると書いている本が結構見られます。中には「治る」とまで書いてある本まであります。

ケースバイケースかもしれませんが、林先生は食習慣や睡眠の改善は「今まさに」精神疾患を抱えている人にどれほど効果があると考えますか? ここでいう「精神疾患」は主にうつ状態やパニック障害、また発達障害の子供でイライラや落ち着きのなさが著しい場合などです(定義がしどろもどろですみません)。

素人の私の意見ですが、良い睡眠・食習慣は精神疾患の「予防」には役に立つと思いますが、改善には役に立たない、というより、治療に役立つというのは理想論に思えます。私はうつ状態の時は何をしても無駄だと思い、生活も酷かったのですが改善しようとしたところで無駄だと思ってました。
また、私は高校生のとき強迫症を発症して、かかったクリニック(上記のクリニックとは別で)では薬の処方と共に、睡眠を早くに取るようにと言われましたが、その頃の私は強迫症で疲れていて、底なしの谷にいるような気持ちでいて、医師の話がすごく遠くに聞こえ耳に入らなかったです。生活習慣がどうたらなんてとても気にかけられませんでした。

強迫症の時は結局薬は飲まなかったのですが、今のうつ状態に関しましては薬を飲みました。すると今までずっとあった身体や心の緊張がほぐれ、どうでもいいやと思っていた生活習慣も直そうと自然と意欲が湧きました。現在も医師との治療はうまくいっています。

以上の私の経験から、精神疾患にある人はまず薬物療法で心・身体を落ち着かせて、生活習慣の改善はそれからが良いように思います。生活習慣の改善を最初にするのはちょっと無理があるように思います。

改めまして、睡眠・食習慣の改善の効果について先生のご意見を伺いたいです。

 

林:
睡眠・食習慣の改善は精神疾患の治療にどれほど効果があるか

これは様々な場面で時おり聞かれる質問ですが、この質問について考えるためには、質問中のキーワードとして、「精神疾患」「治療」「どれほど」の意味をまず明確化する必要があります。

第一のキーワード、「精神疾患」については、たくさんの種類の精神疾患をひとまとめにして、「精神疾患に〇〇の治療効果はあるのか」と問うのは無意味です。個々の精神疾患によって異なるのはあまりに当然だからです。
この点、【4764】の質問者は

ここでいう「精神疾患」は主にうつ状態やパニック障害、また発達障害の子供でイライラや落ち着きのなさが著しい場合などです(定義がしどろもどろですみません)。

と明確化を試みておられますが、質問者自身が「定義がしどろもどろ」と自認しておられる通り、これは「明確化を試みている」とまでは言えても、「明確にされている」とは言えません。したがってこの時点で厳密には回答不能なのですが、とりあえず先に進んでみます。

第二のキーワード、「治療」については、【4764】の質問者は、

「今まさに」精神疾患を抱えている人にどれほど効果があると考えますか?

としたうえで、

良い睡眠・食習慣は精神疾患の「予防」には役に立つと思いますが、改善には役に立たない

と自説を述べておられます。すると第三のキーワード「どれほど」については、「全く役に立たない」というご意見であるように読めますが、質問文の結びには、

私の経験から、精神疾患にある人はまず薬物療法で心・身体を落ち着かせて、生活習慣の改善はそれからが良いように思います。生活習慣の改善を最初にするのはちょっと無理があるように思います。

と書かれていますので、ここでは「どれほど」については、「薬物療法に続いて行うのであればある程度の効果はある」というご意見のようです。すると「全く役に立たない」のは、治療の第一手としては役に立たないという意味であると解釈できます。

この【4764】の質問者のご意見は、精神疾患に罹患し治療による回復を経験された当事者の実体験からのものとして尊重されるべきものですが、しかし、いかなる場合でも、個人の体験を単純に一般化することができないのは当然です。すなわち、この【4764】の質問者とは異なる経過を体験された方もいらっしゃるということです。そうした膨大なケースからのデータに基づいて、また、そもそもこの質問には三つのキーワードの意味が曖昧であるという限界を認識したうえで、【4764】の質問に現実的なレベルでお答えするとすれば次の通りになるでしょう:

(1) 精神疾患が睡眠・食習慣の改善で治療できるかという問いにイエスかノーかの二者択一で答えるならば、「ノー」。
(2) したがって精神疾患が睡眠・食習慣の改善で「治る」というのはでたらめ。そうしたでたらめを信じて、精神疾患が治らないまま長く経過したり、著しく悪化して悲惨な結末になったケースは膨大に存在する。
(3) ただし(1)の「ノー」は、二者択一であれば「ノー」になるということであって、全く役に立たないということではない。
(4) 予防については、役に立つ「場合がある」とまでは言える。
(5) 人は一般に、「正しい情報」よりも、「正しいと思いたい情報」を求めるものである。そして「正しいが不都合な情報」よりも、「正しくないが都合のいい情報」を信じるものである。「精神疾患が睡眠・食習慣の改善で治る」と書かれた本の出版が後を絶たないのは、それを「都合のいい情報」と感じる人が多いからである。

これに関連して、
精神科Q&Aは、それが明るいものであっても暗いものであっても関係なく、事実を答えるものであって、その事実が質問者にとって、また読者にとって、希望となるか、絶望となるかは一切気にせず回答するというのがサイト開設当時から不変の方針ですので、「正しくないが都合のいい情報」とは対極をなしています。

(2023.12.5.)

05. 12月 2023 by Hayashi
カテゴリー: うつ病, サイトの方針, 精神科Q&A