【4666】 双極性障害と診断されバルプロ酸を飲んでいますが、本当に服薬が必要でしょうか。妊娠への影響はどうでしょうか。
Q: 30代、女性です。学生時代に先生のサイトを拝見し、定期的に精神科Q&Aを拝読していました。
その頃はまさか自分はこのような相談をするはずがないと思っていましたが、年月を経て少し悩みがありますので記載するに至りました。世の中にはもっと大変な方が沢山いらっしゃいますので気が引けますが、もし最後まで読んでいただけたらとても有難いです。
現在、バルプロ酸ナトリウム200mg2錠を毎夜飲んでいます。3ヶ月ほど前までアリピプラゾール3mgも同時に服用していました(継続一年)が、主治医にお願いして同意を得られたため3mg→0へ休止しました。現在の主治医には一年半ほどかかっています。バルプロ酸は最初100mg2錠を1日2回で開始しましたが、血中濃度が足りないとのことで200mg2錠1日2回に変更になったものの、私が毎朝飲み忘れるのでほぼ200mg2錠1日1回に(勝手に)なっています…
アリピプラゾールをやめた理由は、そもそも薬を飲む必要があるのか?と最初から思っていたことと、頭に靄がかかったような症状が酷く物覚えも悪くなり仕事に支障があると感じたこと、体重が増えて運動・食事制限にも関わらず体重が落ちない、購買衝動、妊娠を望んでいる、等の理由があります。
休止してしばらくは、足のビリビリ感や軽度の不安感に襲われましたが、数ヶ月経ちだいぶ頻度は少なくなりました。
質問は下記の通りです。
(1) 薬はいつ全部やめられますか?
(2) 妊娠に影響はありますか?
(3) 私はそもそも病気で服薬治療が必要なのでしょうか?
今回の通院に至る原因は仕事に由来します。転職し明らかに精神状態の悪い(本人はアルコール依存からの離脱?による鬱だと言っていた。アルコールを断つための服薬はしていた)上司を持ち、依存・好意を持たれていたのを断った(本人は既婚でしたが)ことなどより上司の態度が徐々に豹変し、メールで長文の被害妄想を送りつけてくるなどエスカレートしてきたため身の危険を感じ、会社に行かない決断をしました。
その頃業務も相当過多で(体調や気分の乱高下で仕事が進まない上司の業務を肩代わりしたり、上司の精神面のケアについても気づいた周りから頼まれたりしていたため)自分自身すこし仕事にまつわる全般にたいして参ってしまっていたというのもあります。
(なお、上司の精神状態が明らかにおかしい・悪化しているということは周知の事実であり、奥さんからもアルコールをやめて欲しい、精神科に行って欲しい等の治療を勧められたことを本人からも聞いており、仕事仲間やさらに上の上司から本人の精神状態についての相談や質問を私が受けていました)
会社に突然行かなくて良くするためには診断書を貰って休職するほかなく、精神科(1箇所目。現在通っているのは2箇所目)を訪れ2週間分の適応障害の診断書を貰うことが出来ました。正直に言って追い込まれていたとは思いますが、自分が適応障害だったとは思えません。上司に危害を加えられるのが怖く会社に行きたくない、その一心で、嘘とまではいきませんが無理矢理休みを取ったような感じです。金銭的に頼れる人もおらず、家族も遠方のため仕事は辞めるわけにいきません。
なんとか会社に連絡し2週間の休みに入りましたが、罪悪感と恐怖と不安と自分の無価値さに滅入り、震えながら毎日を過ごしていました。仕事を放り出したことであらゆる人に迷惑がかかっていると随時考え、申し訳なさを感じていました。
当時レクサプロ10mgが出ましたが、責任に耐えられなかった自分の甘えでこうなっているのであって、飲む必要はないと感じていました。翌週の診察で初回は無料だからと言われカウンセリングを受けましたが今までこの事で誰かに相談したり1人でも泣いたりしたことがなかったのに、信じられないぐらい号泣してしまってうまく話せませんでした。カウンセリング料が高額だと感じ、その後は一度も受けていません。
当時の医師から、薬物治療を拒否するのであれば継続の診断書は出せない、と言われ、会社に戻らなければならない事に絶望的な恐怖を感じました。目の前が真っ暗になりながら心配してくれていた兄弟にその事を連絡すると、近隣の診療所に電話して相談してくれ、その病院にかかりました。(今通っている2箇所目です)
その病院の先生は受け入れてくれ、休んだ方がいいよと診断書も出してくれましたがやはり薬物治療を勧められました。ただし「あなたみたいな人が双極性障害になるんだよね!双極の治療にはこれがいいから!」と、上記の処方を勧められました。診断書は「診断名が突然変わると会社から訝しがられるかもしれない」という私からの要望で、半年間最後まで適応障害と記載してくれました。
最初は薬物治療に渋っていましたが、皆ができている仕事すら自分にはできなくなった、という気分の落ち込みが激しく、少し楽になるのか?という興味もあり、主治医に根負けして治療を開始しました。
あまり目立った作用は感じなかったように思います。ただ副作用は強く感じ、体重が増えたりぼーっとすることが増えたり、性欲も0どころかマイナスになり、吐き気や眠気も強く感じていました。
半年経つ頃、もうこれ以上休暇は取得させられないと会社から通達があり、医師からはまだ休んだ方がいいと言われましたが、戻るのは怖かったですが生活をしなければならないため元気なふりをして復職をしました。(転職する気力も、離職就活に耐えうる資金力もなかったため)
休むときは病気のふりをして、戻るときは元気なふりをしてるんです。滑稽ですよね。
(会社は配慮して私を転属させてくれ、復職から一年経ちますが、幸い、前の部署や仕事に関連していた人には一度も会わずに過ごせています。主因となった上司は、私が復帰して暫くして退職したようです。)
仕事に戻るのは怖く、コロナもあって本当に文字通り引きこもって半年間断絶されていた社会に戻り人の前で話すことが極度に苦手になっており、数ヶ月は少人数の会議などでも人前に立つと多汗や震えがひどく起こりました。また、健忘が酷く(アリピプラゾールのせいでしょうか)仕事に関する単純なことも思い出せなかったり、うまく仕事が出来なくて、だれも私のことなんて期待してない、私には何も出来ない、という気持ちがとても強く、不安な日々を過ごしましたが数ヶ月で徐々に震えや多汗はマシになりました。今はアリピも休止し、頭のモヤもかなり解消されたものの、健忘が続いていて困っています。単純なことが覚えられないし思い出せないんです。もしかしてこれは治らないんでしょうか。バルプロ酸の影響もあるのでしょうか。
主治医からは「バルプロ酸だけはやめないでほしい」と言われていますが、あまり理由がわかりません。今はたまに気分が落ち込むこともありますが、そんなのは誰にだってあると思います。もっと辛い悩みを抱えている人も沢山います。
でもその一方で、「やめないで」と続けさせられていることによって私はやっぱり精神疾患だったのか、その場合薬はいつまで辞められないのか、という気持ちもたまに起こります。私としては自分の甘えが起こした一連の流れだったと思っていますが、それであれば通院も辞め、薬も勝手に断てばいい、とも思うこともあるのですが、それも出来ずにいます…。どのような状態になったと主治医に判断して貰えれば、薬はやめられるでしょうか?
また、妊娠についても不安があります。現在妊娠を希望しています。年齢も進んでいるため、あまり長く薬を飲み続けられないと感じています。妊娠期間中は勿論ですが、何ヶ月前までに薬をやめれば大丈夫でしょうか。ただ、このような状態になってから性欲が限りなく0に減退し、行為じたいはかなり苦痛です…が、子供は希望しています。
妊娠期間中や育児期間中に鬱症状となることなどがあると思いますが、今回のことや服薬をしていること、また服薬をやめることがマイナス要因にならないのかも不安に思っています。バルプロ酸の催奇形性にも心配があります。このまま飲んでいても大丈夫なのでしょうか。
そして、上記にも記載しましたが、そもそもわたしは薬物治療の必要な精神疾患なのでしょうか。また、仕事に耐えられなかった為の適応障害なのか、私の性質からくる双極性障害だったのでしょうか。(主治医は双極との診断のようです)。自分自身ADHDの傾向があるように感じていますが、簡易検査の結果は「可能性がややある」程度で、精密検査は必要ないと言われたため受けられていません。
私は学生時代から、とにかく忙しく予定を詰め込む事に喜びを感じており、バイトを上限まで詰め込み、大学も2回卒業できる数の単位を4年でとり、友達ともしっかり遊び、1人で旅行にでかけたりと真っ黒なスケジュール帳をニコニコしながら眺めていました。就職して暫くして、同棲するのを口実に逃げるように家を出ました。程なくして同棲は解消しましたが、それ以来実家にはほとんど戻っていません。
一人で生きていくために仕事をし、男性の同年代平均よりも稼いでいると思います。管理職にも当ててもらっています。
生き急いでいるとよく言われるほど予定を入れて過ごしていましたが、薬を飲んで「のんびりになったね」と言われるようになりました。前は予定がない事に不安や違和感を感じていましたが、確かにそれは無くなったように思います。
薬を飲むまでは活発、闊達なタイプで、人前に出ることや喋ること、取りまとめなどを率先してやる人間でした。人から頼られる事に生きがいを感じていたようにも思います。一人で突然思い立って海外旅行に出かけることもありました。数百人の前での司会進行など平気でこなせていましたが、今では恐ろしく感じます。手が震えてしまってうまくできないのです。何も出来ないような気分がずっと付き纏っています。
自分はどうしてあんなに自信があって、自由で、活動的だったのか、今となっては理解できないのです。これも薬で気分が抑圧されている為なのでしょうか。
一連のことがあって、私の自信は地に落ちました。半年も仕事を休んだダメなやつ、という気持ちが離れません。
ただ、アリピプラゾールをやめて、のんびりに傾いていた自分が昔の生き急いでいた自分に戻りつつあるような感覚もしています。仕事に戻った当初は、私にはできない…という感情しかなかったのですが、「私がやらないと!」と思って焦ったり、ふと機嫌が悪くなったりするのです。(薬を飲んでいた頃はもやがかかったように感情の起伏が本当に薄かったと今となっては感じています)
前みたいに元気にはなりたいですが、前みたいに生き急ぎたくはもうありません。あまりにも性急に人よりいろんな事に手を出しすぎました。ゆっくりと余生を過ごしたいのです。バルプロ酸をやめたら、元に戻ってしまうからやめないでと言われているのでしょうか。一生薬と付き合わないといけないのか、パートナーも否定的なため少し困っています。
林: 双極性障害の可能性、適応障害の可能性、どちらもあると思います。双極性障害であるとすれば、暫定的には双極2型障害ということになるでしょう。
質問者の診断についてはそれ以上の推定は難しいです。一般に双極性障害の場合、特に躁状態についてのご本人からの報告は、躁の状態が実際より軽いことが大部分だからです。この【4666】のケースでもその可能性が否定できません。
双極性障害であるとすれば、薬を飲み続けることが一般的には勧められます。しかしそれは「一般的には」ですから、必ず飲み続けなければならないということではありません。このようにお書きすると、薬をやめたいと思っている方は、「では自分は飲み続ける必要はない」という結論に飛躍しがちですが、それは大きな誤りで、本来飲み続けるべき方がそのような自己判断で薬をやめ、再発して悲惨な状態になるという実例はあとを断ちません。
一般論から離れてこの【4666】に関しては、結論を先に述べますと、
(1)薬を飲み続けたほうがいいかどうかはわからない
(2)バルプロ酸を飲み続けるのはやめたほうがいい
と言えます。
(1)については、そもそも診断が双極性障害かどうか確定できませんので、「わからない」という回答になるのはごく当然です。
(2)については、質問者も心配しておられる通り、催奇形性の問題がその理由です。いかなる薬でも、妊娠への影響がゼロとは言えませんが、たとえそうであっても、妊娠しているからといってすべての薬を中止することが正しいとは言えません。薬の中止によって精神状態が悪化すれば、妊娠そのものの継続が困難になることが十分にあり得るからです。
けれども、すべての薬で胎児への影響が同一ということはありません。薬の中には催奇形性が高く、妊娠時には原則的に中止したほうがいいものがあります。
バルプロ酸はその一つです。
たとえそうであっても、他に代替薬がなければ、バルプロ酸を続けるという選択肢もありえますが、双極性障害の薬はバルプロ酸だけではありませんから、妊娠を希望する女性には、バルプロ酸は処方しないのが原則です。原則というよりルールに近いものとも言えます。
したがいまして、
主治医からは「バルプロ酸だけはやめないでほしい」と言われています
主治医のこの言葉の理由は不明です。
ただし、質問者がおっしゃることとは別の意味での不明です。
質問者は、
主治医からは「バルプロ酸だけはやめないでほしい」と言われていますが、あまり理由がわかりません。今はたまに気分が落ち込むこともありますが、そんなのは誰にだってあると思います。もっと辛い悩みを抱えている人も沢山います。
これは質問者がご自分の病気を甘くみていることを表しています。薬をやめたいと思っている人の多くはこのようなことを理由としておっしゃることが多いですが、病気による落ち込みは「誰にだってある」ものとは性質が異なりますし、「もっと辛い悩みを抱えている人も沢山」いることは、だから自分は薬をやめてもいいという理由にはなりません。
したがって質問者が薬をやめたいとお考えになっている理由の一つは、自分は病気ではない、だから薬を飲む必要はない、というものであると判断できますが、この回答の冒頭に述べた通り、質問者は双極性障害の可能性がありますから、薬を続けるというのは一つの合理的な選択肢です。しかしバルプロ酸を飲み続けることは勧められません。主治医がパルプロ酸にこだわる理由が私にはわかりません。
最後に、ご質問項目への簡潔なお答えを記します:
(1) 薬はいつ全部やめられますか?
わかりません。
(2) 妊娠に影響はありますか?
十分にあります。したがってバルプロ酸はやめるべきです。
(3) 私はそもそも病気で服薬治療が必要なのでしょうか?
わかりません。
(2023.5.5.)