【4504】解離性同一性障害との診断は間違いで、詐病ではないでしょうか‏

Q: 30代、女性です。
27歳頃、過食症(過食嘔吐)が5年ほど続いていることで精神的に不安定になり、自殺を考えるようになったり、仕事が手につかなくなる、突発性難聴や顔面神経麻痺になるなどして思い悩み、精神科を受診しました。
最初に行ったクリニックでは摂食障害の治療はできない、できることは投薬だけだと言われ、1ヶ月程迷った末に大学病院を紹介してもらいました。
この紹介で受診した大学病院は摂食障害治療を強みとしているところで、投薬とカウンセリングで治療してもらえることになりました。

最初は不安時の頓服としてデパス0.5mg錠、通常服薬として半夏厚朴湯7.5gを1日3回処方、カウンセリングは臨床心理士による30分~1時間程認知行動療法をすることになりました。
その後、服薬はパキシル、トレドミン、サインバルタ、ヒルナミン、レクサプロ、ラミクタール等色々試しました。
カウンセリングも認知行動療法は合わないということでやめ、今苦しいと思うことや覚えている過去の記憶について話したり、自律訓練法やその他リラクゼーション法を試したりということを続けていました。
ですが、うつ状態はひどくなるばかりで、ついには自殺未遂を起こし、入院することになりました。
それ以後3年間、それぞれ半年前後の入院を3回繰り返し、その間うつ状態が良くなったり悪くなったりを繰り返しました(電気けいれん療法も試しました)。
悪くなっていた時は、自殺未遂(首吊り)をしたり、常に縄を近くに置き自殺企図したりしていました。
摂食障害については、入院中は閉鎖病棟で外出が許可されなかったこともあり過食嘔吐はほぼ治まるのですが、退院するとまた始まり、かつ食べられなくなる時期も出てきたり、一人前(と思われる量)を食べても吐いてしまうようになったりもし、過食嘔吐、普通食嘔吐、拒食傾向を行ったり来たりです。
また、昔からあった自傷行為(爪をはがすなど)がエスカレートしてい、リストカット、アームカット、瀉血とバリエーションが増えてしまいました(3度目の入院は瀉血による極度の貧血からの医療保護入院でした)。
しかしながら、カウンセリングの進捗としては、
1. 1度目の入院で、過去の記憶が一部不自然に消失していることと、情報としては知っていた(他人の口からは聞いていた)1年以上に及ぶ暴力系の虐待の経験、生育過程での母親からの精神的抑圧から解離性障害が疑われた。
2. それとほぼ同時に、心の奥へ潜っていくようにすると別人がいることに気づき、また加えて、感情を抑制している状態が日常になっており常に自分から距離を置いているというような状況もあったことで、特定不能の解離性障害と診断。
3. 2度目の入院でその心の奥の別人が人格と呼べるレベルであると判断され、解離性同一性障害と診断。
となりました。
ただ、人格交代は非常に稀で、はっきりと確認できたのは2回です。
他人からもらう評価は、おとなしい、弱気、無口、活発、強気、饒舌、面白い、頼れる、甘えたがりなどバラバラです。
記憶の大きな空白の存在は高校生くらいまでで、その後は小さな空白と、過去と現在の自分が隔絶している感覚が常に続いています。
1秒前の自分すら遠い気がし、それより前など当然自分のものという感覚がしません。
なお、1度目の入院からカウンセリングでEMDRという治療を受け、全く覚えのない性的虐待や殺人未遂被害の記憶が掘り起こされました。
私にはそれが事実とは到底思えず、しかし事実であろうとなかろうとそれが苦しみになっているのなら治療を続けましょうとすすめられ、EMDRを続け、それら記憶にはほとんど恐怖を抱かなくなったと言っていい状態になりました。
ですが、やはり自分の思い込みではないかという気持ちが常にあり、事実かどうかはもう確認できないのだから疑うのはやめましょうと言われているのですが、どうにも気持ちが晴れません。
自分が最も信じられず、また、他人の言葉(主治医や担当臨床心理士の言葉すらも)本当に信じて良いのかという気持ちが未だあります。

そのような治療過程を経て、一通りEMDRの治療は行った、うつ状態は一時に比べ治まっている(ただしレクサプロ等服薬継続)という状態なのですが、摂食障害(過食および普通食嘔吐)と自傷行為(瀉血、時々)が止まりません。

そこで質問です。
1. 人格交代はほぼない今の私の状態は、本当に解離性同一性障害と呼んでいいものでしょうか。また、そんな大層な病名がつくような状態でしょうか。擬態うつ病のように、装っているだけなのではないでしょうか。
2. 掘り起こされた記憶の真偽をただすのはやめるべきでしょうか。しかし偽物の記憶であったとしたら詐病になるのではないですか。
3. 摂食障害および自傷行為は今後治まる見込みはあるのでしょうか。もっと強い意志を持って止めようと努力するべきだと思いますが、努力が足りないのか止められません。

主治医と担当臨床心理士は1.は「そんなことは考えなくて良い」、2.は「真偽はもう誰にも確認できない」、3.は「服薬とカウンセリングを続けていけば自然と治まる」となだめてくれるのですが、常に自信がありません。
ですので、限られた情報で恐縮ですが、以上3点について林先生からセカンドオピニオンをいただけないでしょうか。
大変長文となり申し訳ありません。よろしくお願いいたします。

 

林:
1. 人格交代はほぼない今の私の状態は、本当に解離性同一性障害と呼んでいいものでしょうか。また、そんな大層な病名がつくような状態でしょうか。擬態うつ病のように、装っているだけなのではないでしょうか。

解離であることは確実です。解離性同一性障害の症状があることもおそらく確実です。ただし解離性同一性障害の症状はこの【4504】のケースでは非常に稀ですので、病名として解離性同一性障害と名付けるかどうかは別の問題です。 装っているだけ ということはありません。解離性同一性障害ではそのように、本人自身も詐病ではないかと感じることが時としてあります。【3922】私の症状は解離か、それとも病気のふりをしている詐病者か、【4496】解離性同一性障害になってしまうのではという不安感 もご参照ください。

主治医と担当臨床心理士は1.は「そんなことは考えなくて良い」・・・となだめてくれる

そのアドバイスは適切だと思います。

2. 掘り起こされた記憶の真偽をただすのはやめるべきでしょうか。しかし偽物の記憶であったとしたら詐病になるのではないですか。

やめるべきです。真偽を明らかにすることはまず不可能ですし、明らかにしなければならない理由がないからです。仮に偽物の記憶であっても詐病にはあたりません。

ただしこの回答はこの【4504】のケースへの回答であって、「掘り起こされた記憶の真偽をただす」ことが必要な場合もあります。そしてこのとき発生する深刻な問題は、もしその記憶の中での加害者を非難するとか、賠償を求めるといった事態になった場合です。もし偽であったら、実際には加害者ではない人を中傷することになるからです。現にそういう問題が発生する場合もあります。

主治医と担当臨床心理士は・・・2.は「真偽はもう誰にも確認できない」・・・となだめてくれる

この【4504】ではそのアドバイスは適切だと思います。

3. 摂食障害および自傷行為は今後治まる見込みはあるのでしょうか。もっと強い意志を持って止めようと努力するべきだと思いますが、努力が足りないのか止められません。

努力だけの問題ではありません。

主治医と担当臨床心理士は3.は「服薬とカウンセリングを続けていけば自然と治まる」となだめてくれる

服薬とカウンセリングを続け」ることと「自然と治まる」ことは論理的に両立しませんので(服薬とカウンセリングを続けることで治ったとき、それは自然に治ったとは言わないでしょう)、この説明は矛盾していますが、この程度の論理矛盾は日常の会話の中では普通ですので、このアドバイスは適切だと思います。

(2022.5.5.)

05. 5月 2022 by Hayashi
カテゴリー: PTSD, 性に関する問題, 摂食障害, 精神科Q&A, 虐待, 解離性障害