【4489】統合失調症か、うつ病か、複雑性PTSDか (【4393】のその後)
Q:【4393】小学校時代のいじめと数年前から続く精神の不調の19歳女性です。
その後精神科を受診し、いくつか変化があったためご報告及び質問をさせていただきます。
受診して、気分の落ち込みが激しく希死念慮もあること、食事や風呂など日常生活をきちんとする気力がないこと、自傷行為をよくしてしまうこと、寝付くのに時間がかかり夜中も何度も起きること、特に夜に「気持ち悪い」「死ね」「なんでこんなこともできないんだ」などといった自分を責めるような声が頭の中ですることを伝えました。最初に処方された薬は夕食後にリフレックス15mg、ルーラン4mg、就寝前にベルソムラ15mgでした。その後何度か処方が変わりましたが、最終的には夕食後にリフレックス30mg、ルーラン8mg、就寝前にトラゾドン50mgの処方が半年ほど続きました。このときは、うつ状態はあまり改善せず、幻聴も減りはしましたが完全には消えず、睡眠は寝付きは悪くないものの中途覚醒が多いという状態でした。
実はあまり効果を感じなかったにもかかわらず薬を調整してもらえなかったので、後半は殆ど飲まずに薬がどんどん溜まっていきました。
そして、1ヶ月前にオーバードーズをしてしまい近くの病院に運ばれました。きっかけは大学が春休みに入ったので今まで抑えてきた絶望感や虚無感が抑えきれなくなったからだと思います。それを機に転院し、処方が夕食後にレクサプロ10mg、エビリファイ3mg、就寝前にロゼレム8mgに変わりましたが幻聴が増えてきてそれにしたがって手首を切ってしまうようになりました。それで今は夕食後にレクサプロ10mg、リスパダール2mgです。幻聴は減りましたが消えてはおらず、うつ状態は殆ど改善していません。睡眠はやっと合計で5時間程度は眠れるようになりました。
林先生にお伺いしたい点は3点です。
1.いわゆるうつ状態と言われるような気分の落ち込み、気力のなさ、趣味も楽しめないような状態はもうこれ以上改善しないのでしょうか。また改善するとすれば、どのような処方になるのでしょうか。
2.私は今まで新薬系(ベルソムラ、ロゼレム)以外のいわゆる睡眠薬を処方されたことがないのですが、これには何か理由があるのでしょうか。正直もっとしっかり眠れるようになりたいです。
3.私は統合失調症なのでしょうか、それともうつ病なのでしょうか、また前回林先生がおっしゃられたように複雑性PTSDなのでしょうか。統合失調症を疑う根拠となるであろう幻聴は、外から聞こえるというよりは頭の中に聞こえてくる感じです。多くは夜一人で家にいるときに聞こえます。たまに外にいるときに聞こえても「これは幻聴だ」と思ってやり過ごすことができます。
お答えいただけると幸いです。よろしくお願い致します。
林: その後の経過を報告していただきありがとうございました。
統合失調症か、うつ病か、複雑性PTSDか
【4393】の回答の通り、あなたは複雑性PTSDだと思います。
1.いわゆるうつ状態と言われるような気分の落ち込み、気力のなさ、趣味も楽しめないような状態はもうこれ以上改善しないのでしょうか。また改善するとすれば、どのような処方になるのでしょうか。
うつ病(真のうつ病。内因性うつ病。)であれば、やや極端に言えば、薬だけで回復することが可能ですが、あなたはうつ病ではありませんので、薬の効果は限定的です。つまり薬の治療はあなたの場合は補助的なものにすぎないということです。適切な治療は複雑性PTSDに対する精神療法に、薬の治療を追加する というものです。したがって、トラウマを専門的に治療できる医療機関にかかることが理想ですが、そのような機関は少ないのが現状ですので、特別に専門的ではない精神療法を受けつつ、処方の調整を続けるというのが現実的な治療ということになるでしょう。それによってもちろんまだまだ改善は期待できます。
2.私は今まで新薬系(ベルソムラ、ロゼレム)以外のいわゆる睡眠薬を処方されたことがないのですが、これには何か理由があるのでしょうか。正直もっとしっかり眠れるようになりたいです。
依存性・習慣性という観点から、従来の睡眠薬(多くはベンゾジアゼピン系と呼ばれる薬)よりも、ベルソムラやロゼレムなど新しい薬の方が優れているというのが現代での優勢な考え方です。ただし従来の睡眠薬の問題点が強調されすぎているという現状があることも否定できません。この【4489】のケースの場合は、少なくとも一時的には、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬で十分に睡眠を取ることが望まれると思います。あるいは少量の抗精神病薬を使うという方法もあります。いずれにせよここまでの処方薬では不十分と言うべきでしょう。
3.私は統合失調症なのでしょうか、それともうつ病なのでしょうか、また前回林先生がおっしゃられたように複雑性PTSDなのでしょうか。統合失調症を疑う根拠となるであろう幻聴は、外から聞こえるというよりは頭の中に聞こえてくる感じです。多くは夜一人で家にいるときに聞こえます。たまに外にいるときに聞こえても「これは幻聴だ」と思ってやり過ごすことができます。
複雑性PTSDです。
統合失調症の幻聴とそれ以外の原因による幻聴は、時に、外から聞こえるか、頭の中に聞こえるかで区別できるなどと言われることがありますが、そのような方法では区別できません。この【4489】のケースにおいては、幻聴が「外から聞こえるというよりは頭の中に聞こえてくる感じ」であるということよりも、これまでの経過や全体的な症状からみて、統合失調症の可能性は低く、複雑性PTSDにほぼ間違いないと言えます。
(2022.4.5.)