【4428】精神の「分裂」は近代精神医療がもたらしたものではないかと、当事者としては考えています

Q: 40代男性会社員です。
【4418】当事者としての「統合失調症当事者の症状論」へのコメント
をされた方の分析をみて、私も自身の体験を振り返り、お役にたてればと思いこうして筆を進めております。

【私の状況】
私は20代後半に、ある興奮状態から脳が暴発し、ありとあらゆる思考が現れ、最終的には『自分が宇宙の創造主である』と言う所にたどり着いた、そういう経験をしたものです。
(これを非常に短期間のうちに経験しました。興奮状態から脳の暴発までおよそ2日程度です)(その意味で、誰かに見られている。。。とか、 悪口言われているとか、そちら方面のタイプとは異なるかと思います)

後述しますが、概ねそのときの経験は妄想であると今は認識しており、全く問題なく社会生活も送っております。

このタイプに限った事なのかもしれませんが、実体験した立場からの考察は以下のようなものです。

私の経験は以下のような経緯になろうかと思います。

1.永遠に覚めない夢の中
(健常者でも、夢の中ではあらゆる経験をしている。しかし、覚めればそれは夢であり、現実では無い事を知覚出来る) それが出来ない状態

ひとたびこの状態に陥ると、基本、なにがしかの治療が施されなければ、ここから抜け出せることは、まず無い。
もし、治療がなされなければ永遠にこの状態から抜け出せる事は無かったでしょう。それは当時の私の脳の暴走具合からの類推になります。これはほぼ断言できます。

2.何某かの治療が施され、意識を(まがりなりにも)取り戻した状態。
この先を、一度分類しておきたい。その上で私はどの 状態か?を説明する事とします。

1の程度により様々な状態があると思うが大きくは 以下の3つ

2-1.
1で経験した事は事実であり、そこでの出来事と取り戻した現在の意識の中で情報が交錯(spirit brain) し、1の経験を客観視出来ない(いわゆる病識がない?)

2-2.取り戻した意識は1での経験が妄想であることを認識するもあまりにリアルであるため、それを認めないしあくまで実体験であると確信する。 (その実、実生活にはさしたる影響はない状態にまでなる事もある≒寛解)

2-3.取り戻した意識が1での経験が妄想である事を、ほぼ満額受け入れた状態(治癒)

私の場合、治療されて、ほぼ2-3の状態である、と言えるが、『宇宙創造の体験』があまりにリアルに経験しているため、心の中のどこかでは、2-2 である、とも言える。
(超理論的体験とでも言いましょうか。理屈では拭いきれない、 リアル中のリアル、これは想像以上にこびりついて離れません。
周りにそれは妄想、と言われる事自体は100%受け入れますし、反論もしませんし、できませんが(その意味では2-3)、そういう次元を超えた所では確信している(その意味では2-2。そんな感じです。それ位しつこいし、鮮烈な体験なのです))

これも、自身の経過を振り返っての分類となります。2-1、2-2を経て、今ほぼ2-3の状態なのかなと。

さて、2の分類自体は実は私の述べたい主眼ではなく、以下の点が主眼になります。

【主眼】
2の状態そのものが、実は近代精神医療 (薬物治療、と言っても良いかも知れません)によりもたらされた状態なのではないか?

つまり、近代精神医療が始まる以前は、1の状態しかなかったのではないか?と言う事です。

即ち、『分裂』と表される患者の状況は治療がなされて初めて現れる状態であり、治療以前は、分裂もなにも、単なるカオス状態であり、それはほぼ一言『覚めない夢の中』 にいる、とでも表するような状態、とでも言えるのではないだろうか。

私がさらに関心があるのは、
私のような経過をたどらない、よくある『誰かにみられている、悪口を言われている』のような方々(私のような『急進的)ではなく『漸進的』に症状が進む方々、と言っても良いかも知れません)についても、その状態を放置しておくと、行きつく先は、私のような1のような状況なのか。

それとも、治療されなくとも、1を経ずに、2のような状況になりうるのか?と言う事です。
それは、とりもなおさず、『薬物治療』がなく、『対話』だけで、2のような状態に持っていけるか?と言う問いでもあるか、と思います。

もし、前者であるのなら、脳の中に『カオス』ではなく『線引き≒分裂』がなされるのは、まさに(薬物)治療によってであり、(薬物)治療により(比較的まともな)意識を取り戻された段階で初めて、ある種の『分裂』状態(≒暴走した精神(Aとする)の記憶から切り離された、治療により生じた比較的暴走していない精神状態(Bとする)の誕生)が生まれる、と言う事もありうるのかなと。

膨大な臨床に立ち会われている林先生のご見解を是非ともお聞きできればと思います。

個人的な見解(少なくとも私のようなケースの場合)としては、繰り返しになりますが、治療と言う介入(くさび、とでも言いましょうか)がなければ、そこには線引きも何もあったものではない『カオス』しか存在しない。
そこは無限に広がる夢(=妄想)の世界しかない。

そして治療の第一歩は、希望も救いもない『カオス』からせめて『分裂』状態にまでは持っていく事、なのでは?

そんな風にも思ったりもするのです。
(ちなみに患者にとっては、この『カオス』状態は 決して絶望だけ、と言うものでもない。  絶望なのは、周りの人々がメインである、と言う関係性についても一言申し添えておきたいと思います。当時はなぜそのままにしてくれなかった!と憤慨しましたが、今はこうして元通りとなれている事、またその状態にして下さった主治医含め周りの方々に大変感謝しております)

はたして、そんな区別が精神医療にとって意味ある区別なのかどうか?は分かりませんが、ご参考下さいますと幸いです。

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林: 当事者としての貴重な体験と、それについての考察のご報告をいただきありがとうございました。

私は20代後半に、ある興奮状態から脳が暴発し、ありとあらゆる思考が現れ、最終的には『自分が宇宙の創造主である』と言う所にたどり着いた、そういう経験をしたものです。
(これを非常に短期間のうちに経験しました。興奮状態から脳の暴発までおよそ2日程度です)(その意味で、誰かに見られている。。。とか、 悪口言われているとか、そちら方面のタイプとは異なるかと思います)

【2022】「神は自分の世界を見るための目としての役割を自分に与えた」と語る友人 【2005】宇宙の真理に気づいたに近い発症パターンです。したがって質問者のおっしゃる通り、 誰かに見られている。。。とか、 悪口言われているとか、そちら方面のタイプとは異なる  と言えますが、統合失調症の発症のひとつのパターンであるとまでは言えます。教祖の精神鑑定 もご参考になると思います。
このような発症パターンを取った場合、その後になってより典型的な統合失調症の幻聴や被害妄想が現れたり、【2005】のように、あまり典型的ではない幻聴などが現れたり、あるいはこの【4428】のように、発症時以外の症状はほとんど現れないなど、経過としてはいくつものパターンがあります。(症状の根底にある基本障害としての自我障害、あるいは他律は共通しているとみることができます。統合失調症当事者の症状論の記載の通りです)

【4428】の質問者が「主眼」として示しておられる、「近代精神医療が始まる前は、1の状態= 永遠に覚めない夢の中; 興奮状態から脳が暴発し、ありとあらゆる思考が現れ、最終的には『自分が宇宙の創造主である』と言う所にたどり着いたという体験 しかなかったのではないか?」は、非常に興味深い仮説ですが、統合失調症の薬物療法が導入される前の時代にも、幻聴や被害妄想は統合失調症でよく見られる症状であったという事実がありますので、残念ながらその仮説は正しいとは言えません。

私のような経過をたどらない、よくある『誰かにみられている、悪口を言われている』のような方々(私のような『急進的)ではなく『漸進的』に症状が進む方々、と言っても良いかも知れません)についても、その状態を放置しておくと、行きつく先は、私のような1のような状況なのか。

そのような経過をとるケースもあれば、そうではないケースもあります。

それとも、治療されなくとも、1を経ずに、2のような状況になりうるのか?と言う事です。

そうしたケースもあります。精神科Q&Aの中にも、一過性に統合失調症の症状が現れ、治療を受けないままに症状が消えたケースがある通りです。

ご提案の仮説「近代精神医療が始まる前は、1の状態= 永遠に覚めない夢の中; 興奮状態から脳が暴発し、ありとあらゆる思考が現れ、最終的には『自分が宇宙の創造主である』と言う所にたどり着いたという体験 しかなかったのではないか?」は前述の通り、正しいとは言えませんが、しかしそれはともかく、統合失調症の症状の成り立ちについて、当事者の方からこのような考察を教えていただけることは、現在でもまだまだ不明な点が多い統合失調症の多彩な症状を理解するうえで大変貴重なことです。このメールをいただいたことに深く感謝申し上げます。

(2021.12.5.)

05. 12月 2021 by Hayashi
カテゴリー: 精神科Q&A, 統合失調症