精神科Q&A
【2005】宇宙の真理に気づいた
Q: 私は20歳の女です。最近、自分の精神がおかしくなっているような気がしています。まず、宇宙の真理に気づいたような感じがします。昔から宇宙や哲学の話が好きなのですが、最近になってふと、宇宙の意味や生命のシステムが理解できたような気持ちになり、私は選ばれた人間であり、このことを文章に残すべきだという気がします。一方で、これはかなり馬鹿げた考えだともわかっています。こんなことを周りに話せば頭がおかしくなったと言われることも想像がつきます。統合失調症の症状だと病識がないそうなので、それとは違うかなと思いますが…。 ただ、自分のひらめいたことが馬鹿げているのはわかりますが、間違ってはいないと思っています。周りの人間は凡人で、私はおおげさに言えばイエス・キリストのような使命のある人間のような気もします。私は普通の人間で、一般人であることはもちろん理解しているのですが、普通の人間が気づかないことを気づいてしまったと思い、恐ろしいような気持ちと高揚感がこみあげてくる時があります。
18歳から一人暮らしをしていますが、外から帰ってくるときに誰かにつけられているような気がして背後が気になります。エレベーターに乗っていても、ドアが開いた瞬間に刃物で切りつけられたらどうしようと思い、身構えていたりします。自分の部屋に帰ったら部屋の中に誰かが潜んでいるような気がして、トイレやクローゼットまで全部開けて確認しますが、開けるのにかなり恐怖を感じます。お風呂に入っているときも侵入者の気配を感じて出られなくなり、大丈夫だから出ようと決めるまでかなり時間がかかります。
それから、これは高校生くらいの時からですが、親や家族が出かけるのを見送ったあと、これが最後の別れになるのでは…という不安が頭から離れません。一人暮らしをしてからも、親と会って別れ際には、相手が帰りに死んでしまうような気がしてつらいです。間違いなく死ぬと確信しているわけではなく、漠然とした不安です。それから、体に異変があるとすぐ自分はもう死ぬんだと思い込みます。ほくろを見つけただけで、これはガンだからもう死ぬんだと思って遺書を書いたり、お腹が痛くなると、いつ意識を失うかわからないので必死に携帯を使って最後のメモを残したこともあります。そういうのも後から考えるとおおげさなのですが、その時は本当に絶望的で、あきらめの感覚もありました。
幻聴は一回だけ、甲高い声が延々と響いて(話しかけられるような感じではありません)いたことが一年ほど前にありました。幻視はいっさいありません。ただ、寝ているか起きているか曖昧なときに、世界のシステムが壊れていくような体験をしました。人間としての社会の仕組みがザーッと崩れ、そのとき自分が携帯電話の画面の文字になったというか、元の世界に戻ったような感じでした。どうすることもできず、文字の概念もなくなり、こっちが元の世界だったのかと混乱しました。夢を見たというよりは、不思議な体験をしたという感じがしました。
これらは症状なのでしょうか?また、病気だとすればどういう病名が考えられますか?病院にいったほうがよいでしょうか?私のなかでは、宇宙の真理なんかは病院の先生に話すべきではないと思っていて、話せば精神病としか思われないことは知っています。でももし、これが本当に病気なら、もっと思い込みが進むのが怖いという思いもあります。教えてください。お願いします。
林:
宇宙の真理に気づいたような感じがします。昔から宇宙や哲学の話が好きなのですが、最近になってふと、宇宙の意味や生命のシステムが理解できたような気持ちになり、私は選ばれた人間であり、このことを文章に残すべきだという気がします。
このような、いわば神秘的・超自然的な考えがある時期にわいてきて、それが続くのは、統合失調症の初期や前駆症状としてみられるものです。または、躁うつ病の躁状態の始まりとみたほうが適切な場合もあります。
一方で、これはかなり馬鹿げた考えだともわかっています。
ということは、ある程度の病識があるといえます。
こんなことを周りに話せば頭がおかしくなったと言われることも想像がつきます。統合失調症の症状だと病識がないそうなので、それとは違うかなと思いますが…。
統合失調症でも完全に病識がないとは限りません。むしろ初期には、ある程度の病識があることがよくあります。
ただ、自分のひらめいたことが馬鹿げているのはわかりますが、間違ってはいないと思っています。
このように、一方で馬鹿げていると思い、他方で間違っていないと思う、というのは、統合失調症の初期などによく見られる、病識が曖昧な状態に一致しています。
周りの人間は凡人で、私はおおげさに言えばイエス・キリストのような使命のある人間のような気もします。私は普通の人間で、一般人であることはもちろん理解しているのですが、普通の人間が気づかないことを気づいてしまったと思い、恐ろしいような気持ちと高揚感がこみあげてくる時があります。
これは統合失調症でも、躁うつ病の躁状態でも考えられる症状です。
けれどもこの【2005】のケースには、以下のような症状が見られることから、統合失調症の可能性のほうが高いといえます。
外から帰ってくるときに誰かにつけられているような気がして背後が気になります。エレベーターに乗っていても、ドアが開いた瞬間に刃物で切りつけられたらどうしようと思い、身構えていたりします。自分の部屋に帰ったら部屋の中に誰かが潜んでいるような気がして、トイレやクローゼットまで全部開けて確認しますが、開けるのにかなり恐怖を感じます。お風呂に入っているときも侵入者の気配を感じて出られなくなり、大丈夫だから出ようと決めるまでかなり時間がかかります。
これは妄想のような考えです。
親や家族が出かけるのを見送ったあと、これが最後の別れになるのでは…という不安が頭から離れません。一人暮らしをしてからも、親と会って別れ際には、相手が帰りに死んでしまうような気がしてつらいです。間違いなく死ぬと確信しているわけではなく、漠然とした不安です。それから、体に異変があるとすぐ自分はもう死ぬんだと思い込みます。ほくろを見つけただけで、これはガンだからもう死ぬんだと思って遺書を書いたり、お腹が痛くなると、いつ意識を失うかわからないので必死に携帯を使って最後のメモを残したこともあります。
客観的には理解し難い絶望感ですので、妄想のような考えともいえるし、奇妙な考えともいえるでしょう。
寝ているか起きているか曖昧なときに、世界のシステムが壊れていくような体験をしました。人間としての社会の仕組みがザーッと崩れ、そのとき自分が携帯電話の画面の文字になったというか、元の世界に戻ったような感じでした。
これは世界没落体験と呼ばれる、統合失調症の初期に特徴的な症状に一致する体験です。
ただし、これが体験されたのが「寝ているか起きているか曖昧なとき」となると、統合失調症の症状(または前駆症状)という確信度がやや減ります。意識がはっきりしているときにこの体験があれば、統合失調症の可能性ありと強くいうことができますが、夢との境界が曖昧な場合は、何ともいえません。但しこのケースでは、他にも症状があることから、やはり世界没落体験に一致するといっていいでしょう。
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この【2005】の質問タイトルの「宇宙の真理に気づいた」というような神秘的・超自然的な考えは、魔術的思考Magical thinking として知られる、統合失調症の症状といえます。「魔術的思考」が正式な訳語なのですが、「魔術的」という言葉はこの症状の実態にしっくりこないので、神秘的・超自然的思考 と呼ぶことにします。
【2000】から【2078】までの回答は一連の流れになっています。【2000】、【2001】、・・・【2078】の順にお読みください。
(2011.6.5.)