【4319】このまま治療しない場合、どんな未来が待っているのでしょうか (【2593】のその後)

Q: 2014年に【2593】自分がうつ病だと信じて治療を続けている姉、本当は統合失調症だと思うのですが、今の治療でいいのでしょうか でご回答をいただいた40代女性です。その節はありがとうございました。残念ながら、あれから現在まで姉は治療を受けておりません。今回は姉がこのまま治療をしない場合についてお伺いさせてください。

少し長くなりますが、その後の経緯をお話しさせていただきます。
先生にご回答をいただいてから、母が担当の婦人科の先生に相談に行き、それまでの経過をすべてお話し、婦人科の先生が「様子を見ながら心療内科に誘導しましょう」と言ってくださいました。しかし、その後姉の体調が少しずつ楽になったようで、いつの間にかうつ病治療としての通院を本人がやめてしまい、その後はときどき婦人科の診察を目的に通う程度になり、そのままになってしまいました。私、夫、子供は海外におり、その後何度か帰省し実家に滞在しましたが、姉は私たち夫婦にも子供にも普通に接してきて、もしかしたら寛解したのだろうか、このままやっていけるのではないかと思っておりました。(姉は実家のすぐ近所に住んでおり、食事は実家で集まったり毎日のように実家に顔を出しています。)ただ私たちが海外にいる間も時々姉から、動悸、不眠、頭痛、耳鳴りなど体の不調を訴える相談のメールがありました。
2019年9月に私と子供が帰省した際に、子供が将来日本での進学を希望しており実家(私の両親の家)から通う予定であることを知ると、私たち親子の顔を見ると逃げるようになり、「今は辛いけれど帰るまで我慢している」 「お腹が捻れるように痛いから呪いを解いてください」「(亡くなった)おじいちゃんが、居場所がないと悲しそうにしていた」「攻撃はやめてください」などとラインを送ってくるようになりました。私が電話に出ると切られ、家の前で子供と鉢合わせになると頭を抱えてうずくまり、直接話し合うこともできず、実家の玄関まで来ると(私たちが中にいると思うと)水の中にいるように息ができなくなる、ということでした。
海外に戻ってから、私から婦人科の先生に、通院した際に心療内科に改めて誘導していただけないかという内容の相談の手紙を出したのですが、先生が姉の夫(義理の兄)に直接連絡をくださったことで、姉に黙って私が先生に相談したことを姉に知られてしまいました。姉はさらに私を敵視し、婦人科へも恥ずかしくて行けなくなったと通院をやめてしまいました。現在までラインをしても返信はなく、手紙をことづけても(実際には読んでいるようですが)「今は怖いから読めません」と母に伝言され、私とは一生会うつもりはないと言っているそうです。私たちが実家に滞在しても姉が実家に来なければそれでよいのですが、姉自身の生活範囲を変えるつもりはなく、私たちが実家に近づくことを拒絶しています。
来年の子供の進学に合わせて帰国し実家で暮らす予定でしたが、先日は両親が私の子供の名前を出した途端に(両親からの話によると)「過呼吸の硬直状態になり、取り乱して吐き、手のつけようがない状態」となり話ができない状態になり、翌日も動悸がして辛そうだったそうです。私の子供のことを「怖い」と言い、両親がなぜ怖いのかと問うと「理由などない、犬や鳥が怖いという人がいるのと同じ」と言うそうです。このような状態ですが、日本の家族は「姉はなんらかの病気であるが本人を治療に向かわせるのは難しい」あるいは「姉妹間の問題だから自分たちが立ち入ることではない、妹一家さえ遠くにいれば問題はない」と捉えられているようです。

私たち夫婦は海外の観光地で仕事をしておりますので、この度のコロナで大変な経済的打撃が続いており、実家に滞在することでなんとか日本での進学を実現できると思っていたのですが、この状況では別に住居を借りざるを得ません。姉は今でも初期の頃に二度ほど母に連れられて精神科に行ったことはすべて妹夫婦の強制によるもので、大変な侮辱を受けたと怒っているそうです。
両親も姉の家族も、姉を病院に連れて行くことは無理だと諦めており、本人抜きで家族としてのカウンセリングや相談にも行く予定もないそうです。しかし両親からの話によれば(詳しく具体的に聞けていないのですが)、私たちが海外にいれば何も問題がないということでもないらしく、ヒステリックになったり予定の変更の融通がきかなかったり、日々の生活も母にかなり依存しているようです。しかし外での対応など非常にしっかりしているので、他人からは病気と見えず、家族の中だけに問題が留まっており誰にも相談しておりません。

長くなりましたが、このまま姉が治療も服薬も何もしないままでいくと、この先両親と死別したり姉の子が結婚する際など生活に大きな変化があったときにどんなことになるだろうかと不安です。先生のご経験から、このようなケースに起こり得る未来はどのようなものでしょうか。
曖昧な質問で恐縮ですが、不安でいてもたってもいられずまたご相談させていただきました。宜しくお願いいたします。

 

林: その後の経過のご報告をいただきありがとうございました。
お姉さまは治療を受けられていないとのこと、残念なことですが、現実にはこのようなケースは統合失調症では多々あることです。ご本人が治療を受けられるようにご尽力されたご家族(このケースではもちろん質問者である妹さんを指します)を、逆に強く嫌うようになるというのも、病識のない統合失調症では少なからずあるものです。適切な治療を受けていただくことに成功し、病状が改善すれば、逆にご家族に感謝されるようになることが期待できるのですが、このケースのように治療開始そのものに失敗した場合は、恨みだけが残ってしまうことがあるというのが事実です。

このまま姉が治療も服薬も何もしないままでいくと、この先両親と死別したり姉の子が結婚する際など生活に大きな変化があったときにどんなことになるだろうかと不安です。

そのような不安をお持ちになるのはよく理解できるところです。
まず単純化してお答えすると、未来は、
(1) 不変
(2) 悪化
のどちらかであるということです。
精神科Q&Aの実例の中には、稀に、統合失調症にかなり特徴的な症状が見られても一過性にとどまり、自然に治癒したかに見えるケースもあります。確かに現実にもそうしたケースはありますが、この【4319】のように、数年にわたりかなり確定的な症状が持続している場合、そのような展開はまずあり得ません。したがって、(1)不変 か (2)悪化 のどちらかということになります。
(2)の悪化については、あらゆるレベルの悪化が考えられます。最悪の実例としては、ご家族のサポートが失われ、周囲への攻撃性が顕在化するというものです。無治療の統合失調症の方が一人暮らししている場合に起こり得ることとしては、【0396】一人暮らしの隣人に被害妄想の矛先を向けられ恐怖でいっぱいです【1857】隣人の異常な言動に対し何とかしたいのですが、逆恨みされると怖いので誰も何もできません‏  】、

【3986】隣人の奇妙な言動で困っている【3335】不合理な非難・要求を続ける隣人
などをご参照ください。

あるいはほぼ完全に引きこもり、不衛生な状態になってもそれを改善しようとしないまま生活を続け、何かのきっかけで第三者がその生活状態を見て驚愕するという場合もあります。あるいはそこまでは悪化せず、何とか一定レベルの生活を維持できるケースもあります。
(1)の「不変」というのは、精神病症状そのものが不変という意味で、症状が不変でもご家族からのサポート(それは最低限のものを含みます。【4319】のお姉さまは現在、ご家族からサポートを受けて生活している状態と言えます)が失われれば、生活に徐々に歪みが出てくることは避けられません。

 

このまま姉が治療も服薬も何もしないままでいくと、この先両親と死別したり姉の子が結婚する際など生活に大きな変化があったときにどんなことになるだろうかと不安です。先生のご経験から、このようなケースに起こり得る未来はどのようなものでしょうか。

このようにご質問されるお気持ちはよく理解できます。しかし、あえて申し上げますと、このご質問にはほとんど意味がありません。なぜなら、回答は「未来は暗い」以外にはなく、質問者もそれはご質問される時点で十分にわかっておられると推定できるからです。「このままでは暗い未来が待っていることを認識したうえで、問題を先送りにするか(この場合、「暗いといってもそのレベルは不明なので、最悪の状態までにはならないかもしれないと自分を納得させる」という正当化がなされるのが常です)、リスクがあっても現状打開に動くか(この場合、当然ながら、動いたことで状況を悪化させるおそれもあります)を検討するというのが、現実的であると考えられます。

(2021.6.5.)

05. 6月 2021 by Hayashi
カテゴリー: 精神科Q&A, 統合失調症 タグ: |