【4174】妹の統合失調症が再発しました。今後再発させないためにはどうしたらいいでしょうか。(【2326】、【2310】のその後)

Q: 8年前(2012年)に【2310】統合失調症が再発した妹を入院させるべきか【2326】統合失調症の薬を飲み始め、少しよくなりかけてきた妹への対応で相談させていただいた40代女性です。当時、陽性症状に本当に困り果てていましたが、先生のQ&Aの後押しもあって治療にたどり着くことができました。ありがとうございました。

あれから妹は統合失調症の治療を継続し、波はあるものの概ね落ち着いた生活を過ごしてきましたが、今回陽性症状が再発しましたので、質問させていただければと思います。現在、妹は39歳です。
再発前の状態は以下です。

同じ病院で同じ先生を受診。抗精神病薬の服用量は段々減らすことができ、ここ2年くらいは一定量。落ち着いてからは妹一人で受診。ここ1年ほどはロナセン1錠。5年前に甲状腺疾患がみつかりチラージン服用中。1年に1度(特に春頃)に独り言やおかしな行動が少し見られるが、短期間でおさまる。日常生活でするべきことを忘れてしまう、手順を間違える等はあるが、家事はある程度はできる。睡眠時間は一定せず、規則的に夜眠れる時期もあるが、一日中寝ている時期、眠れない時期もみられる。対人コミュニケーションでは回答や反応が不自然などの状態は見られるが、大きな問題は生じない。仕事はしていない、デイケア等は参加していない。買い物、スポーツジム等の外出はあり。障害者年金2級を受給。
母(70歳)と2人暮らし、父はおらず、2人姉妹の姉である私は遠方在住です。これは前回質問時と変わっていません。

2019年11月頃より、妹の調子が悪いようだと母が感じ始めました。最初はいつもの波かな?という感じで、眠り続ける、独り言が時々あるといった感じでした。ですが、2020年の1月頃には独り言が増え、3月には一日中ぼそぼそしゃべっている、急に何かが聞こえたように振り向く、話しかけても反応せず、肩をたたくなどして初めて気がつく、壁に向かってずっと座っている時間があるといった状態になり、段々その頻度が増していきました。3月には病院でも「1日中声が聞こえて辛い」と言ったそうです。そして一週間前頃から会話が成り立たなくなってきて、3日前に「隣人がうちのことを知っていて、悪く言っている。私には聞こえた」「隣人から性的いやがらせ(お風呂をのぞく?)を受けている」「みんなが耳鳴りで困っている」と言い出し、突然壁をたたいたりしているそうです。母に「お母さんは盗聴、盗撮されていないから安心してください」というメモを渡してきました。私との電話でも会話が支離滅裂でした。また、以下のようなメールが私に届きました(メールの一部です)。

「私が見たところ、街のみなさんも耳鳴りで、精神的に孤立してしまう可能性があり、わたしは、なんとか、市民みなさんが、私も、耳鳴りで、耳鳴りの内容を聞き入れてしまいそうだったり、不安になったりする事。みなさんがそうだと考えられる事と、市民同士としての小さな励ましは、少し大きな声でなにげなく発言しておきました。安心して暮らしたい市民同士だと思ったからです。私とて慎重な策を選びたいという事は大前提としても、遠回しに励ましは伝えました。こうなると、もう各地域のかたも、耳鳴りでお困りだという可能性は、ゼロ%ではないと思います。色々なこと、随分なことも、専門的な範囲のことがらではないのかと思われることまで、思い浮かんでくる感覚がありましょう。全くないという保障はありましょうか。」

ずっと精神科受診は継続しておりましたが、2020年2月からロナセン1錠を2錠に増量、頓服としてのフルトラニゼパム増量、受診間隔を1ヶ月から2週間にする、などがされています(その他の投薬状況は今はっきりわかりません)。服薬管理について、これまで母が薬を渡して声かけし、キッチンに行くところは見ていたものの、実際に飲むところまで見ていない時も多く、時々「口をあけて見せて」というと見せていたこと、チラージンを飲んで調子がいいので飲みたいと本人も言っていたので、飲んでいると思っていたそうです。ですが、急激な悪化が見られた頃から、「薬は自分で管理します。口をあけて見せたくない」と言い出し、今思えば、薬がきちんと飲めていなかった可能性があります。現状は陽性症状が再発していると考えており、入院も視野に入れて治療を続ける予定ですが、今回は将来的なことも含め、質問させていただければと思います。

質問は
1.今思えば、2019年11月頃から悪化の兆候が見られ、服薬管理や受診時の同席、主治医への相談など、早く対処すればよかったと思う点もあります。母も私も、いつもの波かなと甘く考えていたところもあり、反省です。服薬管理について、これまでの対応で改善するべきところはあるでしょうか?主治医にも相談予定ですが、先生のご意見もお伺いできれば幸いです。そもそも、声掛けだけして本人に任せるという管理が甘かったのでしょうか?調子が悪いと感じた時には、服薬管理をもっと厳しくするべきだったのでしょうか?今回の私達の対応を踏まえて、悪化していそうな時の対応や注意点についてアドバイスがありましたら、お教えいただけますでしょうか?

2.そもそも、今回陽性症状をもって再発と考えてよいのか?落ち着いている時期も一定の統合失調症の症状が見られるので寛解はしておらず、疾患は継続している(今回を再発とは言わない)と理解するほうが適切でしょうか?

3. 3年前に私に子供が生まれ、私の仕事の都合で母に時々手伝いに来てもらっています。妹を一人にするのは心配なので一緒に来ていますが、現在の主治医には普段と違う生活が負担になるのではないかと何度か言われています。本人は一緒に来たいと言っており、こちらでも体力的には休むように気をつけてはいますが、このような環境変化は統合失調症患者には負担が大きいでしょうか?

4.予後の見込みについて、2011~2012年(30歳頃)に初めて陽性症状が出て、今回再発しています。ですが20歳前後から引きこもりがちでしたので、その頃から前駆症状はあった可能性はあります。このようなケースは、比較的予後がよいとされている中年期での発症ということになりますでしょうか?

長文となり申し訳ありませんが、よろしくお願いいたします。

 

林: 経過のご報告をいただきありがとうございました。
統合失調症は、服薬で長期にわたって安定していても再発することはあり、その再発をどのようにして予防するか、再発の兆候をどのようにして気づきどう対応するか、再発してしまったらどうするか、などは、統合失調症の多くのケースにおいて非常に重要な課題です。

1.今思えば、2019年11月頃から悪化の兆候が見られ、服薬管理や受診時の同席、主治医への相談など、早く対処すればよかったと思う点もあります。母も私も、いつもの波かなと甘く考えていたところもあり、反省です。服薬管理について、これまでの対応で改善するべきところはあるでしょうか?主治医にも相談予定ですが、先生のご意見もお伺いできれば幸いです。そもそも、声掛けだけして本人に任せるという管理が甘かったのでしょうか? 調子が悪いと感じた時には、服薬管理をもっと厳しくするべきだったのでしょうか?今回の私達の対応を踏まえて、悪化していそうな時の対応や注意点についてアドバイスがありましたら、お教えいただけますでしょうか?

確かに今から振り返ってみれば、2019年11月の時点で早く対処していれば、ここまで悪化することは防げたと言うことはできます。けれども2019年11月のリアルタイムの時点で、再発の兆候であるという判断は難しかったようにも見えます。

2019年11月頃より、妹の調子が悪いようだと母が感じ始めました。最初はいつもの波かな?という感じで、眠り続ける、独り言が時々あるといった感じでした。

この記載からは、「眠り続ける、独り言が時々ある」は、「いつもの波」、すなわち、2019年11月以前にも時々あったことが読み取れますので、すると、この時に限って再発の兆候であると判断することは不可能か、可能だとしてもかなり困難だったと思われます。但しそれでも今後のために、この2019年11月の不調と、それまでの波との違いが何かなかったか振り返って考えてみることは有意義でしょう。「そういえば」という何かが思い当たるかもしれません。

また、安定していたのになぜ再発したかということも考える必要があるでしょう。長期間安定していた統合失調症の方が再発するとき、最も多い原因は服薬の中断(ないしは減量)です。そのほかの理由として、強いストレス(急激な環境の変化を含みます)もありますが、実際の頻度的には服薬の中断ですし、ストレスの場合はその多くは周囲からみて明らかですので十分に警戒することができるのに対し、自発的な服薬の中断は周囲が気づかないという点が大きな問題です。服薬を続けていると思っていたのに再発し、後になって実は服薬を中断していたことがわかることも多いものです。
この【4174】のケースの再発の原因が自発的な服薬の中断であったか否かは不明ですが、その可能性が最も高いと考えるべきでしょう。
そうしますと、

声掛けだけして本人に任せるという管理が甘かったのでしょうか?

結果からみればそれが甘かったということになりますが、他方、服薬は本人が自身の病気について十分な理解を持ったうえで納得して続けることが理想で、その理想は統合失調症の症状レベルによっては抽象的な理想にすぎず現実的ではありませんが、それでもできるだけ本人が自主的に服薬を続けるほうが望ましいことは確かですから、この【4174】のように長期にわたって安定していたケースでは、毎回ご家族が服薬を確認するというのは望ましくないと判断するほうが普通でしょう。
しかしながら、再発の兆候が見られた場合は話は別になります。

調子が悪いと感じた時には、服薬管理をもっと厳しくするべきだったのでしょうか?

そうすべきだったと思います
このとき、「調子が悪い」のが再発の兆候か、それともこれまで見られたような単なる「」かが問題になりますが、今回の経過からみれば、仮に単なる波に見えても、その時には服薬管理を一時的に厳しくすることが、今後は望まれると言えます。

2.そもそも、今回陽性症状をもって再発と考えてよいのか?落ち着いている時期も一定の統合失調症の症状が見られるので寛解はしておらず、疾患は継続している(今回を再発とは言わない)と理解するほうが適切でしょうか?

寛解状態から症状がまた出て来たときは「再発」、ある程度の症状が残っている状態から症状が悪化したときは「再燃」と呼ぶのが普通です。また、仮に寛解状態であってのその期間がまだ短い時期に症状がまた出て来たときは「再燃」と呼ぶ場合もあります。「再発」と「再燃」を厳密に区別することは、医学研究においては重要な場合もありますが、臨床的にはそれほど大きな意味はありません。ご質問文の「疾患は継続している」に関しては、【4046】統合失調症の因子を持っている人は、一生統合失調症なのではないでしょうか などをご参照ください。(ひとことでお答えすれば、「その通りです、疾患は継続しています」となります)

3. 3年前に私に子供が生まれ、私の仕事の都合で母に時々手伝いに来てもらっています。妹を一人にするのは心配なので一緒に来ていますが、現在の主治医には普段と違う生活が負担になるのではないかと何度か言われています。本人は一緒に来たいと言っており、こちらでも体力的には休むように気をつけてはいますが、このような環境変化は統合失調症患者には負担が大きいでしょうか?

負担が大きいことは事実です。しかしだからといって直ちにその負担を避けなければならないということにはなりません。

4.予後の見込みについて、2011~2012年(30歳頃)に初めて陽性症状が出て、今回再発しています。ですが20歳前後から引きこもりがちでしたので、その頃から前駆症状はあった可能性はあります。このようなケースは、比較的予後がよいとされている中年期での発症ということになりますでしょうか?

ならないと思います。

20歳前後から引きこもりがちでした

このころに発症し、顕在化しないまま経過し、30歳頃に明確に発症したという経過で、これはむしろ比較的予後が悪いタイプです。
なおここで「このころに発症し」の「発症」とは、いわゆる生物学的な意味での「発症」です。つまり脳内で統合失調症の過程の進行が始まったという意味での「発症」です。現代では公式には陽性症状が顕在化したときを「発症」と定義しますので、その意味では【4174】の発症は30歳頃ということになります。この場合の「公式には」とは、統計的あるいは研究対象として検討する場合という意味で、それはそれで意味がありますが、統合失調症という病気の本質を考えた場合は、陽性症状が顕在化するより以前に病気が始まっていることがしばしばあると認識するのが正しいでしょう。

(2020.11.5.)

05. 11月 2020 by Hayashi
カテゴリー: 精神科Q&A, 統合失調症 タグ: , , |