【4303】境界性パーソナリティ障害の診断を告知すべきか

Q: 40代男性会社員です。 5年前に結婚した妻(20代後半)が、2年前より「うつ病」と診断され、現在まで同じ病院に通院しています。 しかし、確かに夜眠れない・過剰な自己否定・自己嫌悪、希望の喪失など、うつの症状もあるのですが、いろいろ調べていくうちに境界性パーソナリティ障害の症状が多いことに気づき、素人判断はいけないと分かりつつ、ほぼそうだろうと思っています。 もちろん、状況やコンディションによっていい時悪い時があり、正直、このサイトで見る他の方の症例に比べれば軽い方だとは思っていますが、1年前に当時勤めていた会社を契約解除されたあたりから少し深刻な症状が多くあわられました。 契約解除の理由は、彼女が人間関係でトラブルを起こすと判断されたようですが、今にして思えば、それまでの夫婦生活の中でも思い当たるふしが多くありました。 境界性パーソナリティ障害だと思うにいたった事実は以下の通りです。 __

・友人にメールを送り、すぐに返信がこないと、「やっぱり嫌われている」といい、場合によっては「あんなやつ信じられない」と激しい怒りに変わる
・会社を辞めたころ、通院代やカードや携帯代の支払は大丈夫かと何度も尋ね、そのたびに「失業給付があるから大丈夫」と答えていたが、結局300万近いカードローンを隠していた。
・私が留守の間に男性を連日の用に連れ込んでいた(性関係の物的証拠はないがインターフォンの録画機能で発覚)。
・「結婚して苗字が変わったから不幸になった、だから離婚してくれ」と離婚を迫る。
・契約を解除された会社に対する恨みつらみ、妬み嫉みを明け方まで延々と話し続ける。
・自殺をほのめかし(「(契約解除された)会社から飛び降りてやる」「死のうと思えばいつでも死ねる」「睡眠薬の致死量を調べた」)、一度だけリストカットまで至る
・再就職活動時に一流
・有名企業ばかりを選び、書類選考で落ちては怒りを爆発させるということを繰り返す
・恋愛時~結婚当初は私に対し強い依存を示していたが、しばらくすると私の行動や考え方をいちいちこき下ろし、性生活もなくなった(これは私もその気が無くなっていますが)
・幼少期に両親が離婚・再婚している
・実家の両親は健在だが、接触を避けている ・双方の両親・家族に会社を辞めたことを伝えていない(もちろん病気のことも)
・過去に転職を5~6回繰り返している
・学生時代の友人との連絡を拒絶している
・通院時のカウンセリングについて私には「受けている」といっていたが、実際はうけていなかった
・通院時に私が同行することを極端に嫌がる__

今は、昨年から私も同じ病院で月2回のカウンセリングを受けるようにしたところ、週一度の通院と月2回のカウンセリングを継続できるようになってきたようです(すこし不思議なのは、自分の嫌なことは回避する性格なのですが、通院自体は継続できていることです。薬が欲しいだけかもしれませんが。)。 このような状況で、以前、彼女が不在の時に担当医師に「境界性パーソナリティ障害ではないか?」という話をしたのですが、その際、そうかもしれないが、そのような診断はあまり意味が無く、本人に告知してもプラスにならないということで、通院+カウンセリングのを継続させていくことが大事といわれました。 確かにそのとおりかと思うのですが、2年近く通院続けていて状況が停滞し始めていることもあり、セカンドオピニオンも視野にいれはじめています(実現は難しいと思いますが・・・)。

以上踏まえ、本人への告知の有無について林先生の見解を伺わせていただけないでしょうか。先生のご意見で、次の展開が考えられるのであれば、検討したいと思っています。また、投薬量も若干気になっています。下記記載しますので、コメントいただけると幸いです(睡眠薬が多いですが、確かに睡眠が取りづらいようです)。

__ ベンザリン 寝前1マイスリー 寝前1ハルシオン 寝前1サイレース 寝前2ドラール  寝前1.5ラボナ   寝前2ロゼレム  寝前1ジェイゾロフト 夕2寝前2トリプタノール 夕1デパス   昼2夕2寝前2センシル  昼1夕1寝前1__

私も、お互いの両親に隠している状況が続き、病院以外では基本的に私が面倒を見ざるをえず、仕事も多忙であるため、かなり追いつめられてきて逃避したい願望に日々駆られています。 境界性パーソナリティ障害は難治であることは理解しているつもりですし、私が相談したあるカウンセラーには開口一番「治らないですよ」と言われたこともあります。また「共依存になっている」ともいわれました。今は、その意味を実感しています・・・。 とはいえ、それがなにもしない理由にはならないし、私の心身が限界にいたるまでは、付き合っていくしかないと思っています。が、最近その限界を感じ始めており、何かしらの動きが欲しいと思っています。 長文・乱文で申し訳ないですが、よろしくお願いいたします。

 

林: 奥様はうつ病ではありません。質問者ご指摘の通り、おそらく境界性パーソナリティ障害でしょう。今回のご質問は、

境界性パーソナリティ障害の診断を告知すべきか

ということですが、「病名を告知するかしないか」ということ自体にはほとんど何の意味もありません。質問者は病名を告知すれば何か進展が見られるのではないかと期待されていることが窺われますが、それは何の根拠もない願望にすぎません。もちろん告知によって治療を次の段階に進めることができる場合もありますが、重要なのはこの「治療を次の段階に進める」ことであって、告知はあくまでそのための一手段と考えなければなりません。したがって告知については主治医の先生とさらによく相談することをお勧めします。

投薬量は確かに多く、特に睡眠薬が多いことが気になるところで、これは将来依存になる、あるいはすでに依存になっていると言えるかもしれません。というように、薬の多さを批判することは簡単ですが、現実には特にパーソナリティ障害等で強度の不眠がある場合、薬以外に代替方法があるかというとそれはかなり難しいものです。これについても主治医の先生との相談が勧められます。「できるだけ減薬の努力をする」というのが現実に取り得る方法だと思います。

(2021.5.5.)

05. 5月 2021 by Hayashi
カテゴリー: うつ病, パーソナリティ障害, 境界性人格障害, 精神科Q&A