【4118】生徒から「自分は躁うつ病ではないか」と相談された

Q: 20代男性です。仕事は教師を務めております。

先日、生徒から教育相談の要望を受けて教育相談をしたのですが、相談内容が重く今後の方向性を決めあぐねたのでご相談させてください。
相談内容としては「自分は躁鬱病なのではないか」と言うものです。病状を具体的に説明します。病状は以下の通りです。

躁状態→気分がハイになって楽しくて楽しくて仕方なくなる。特に部活の後はハイになる。ハイの時は勉強など何でも頑張れる気がする。事実、頑張ってしまう。

鬱状態→朝起き上がると体に力が入らなく10分ぐらい起きられない。常に死にたい(このまま窓から飛び降りたら楽だろうな)と考えるようになる。意思とは無関係に涙が出て止まらなくなる。

などです。躁鬱病という言葉はYouTubeの動画をたまたま見て知ったそうです。自分と病状が一致しすぎていて怖くなり、ネットなどでよく調べたそうです。そしてネットの簡易診断では即受診を勧められるそうです。

しかし私以外の大人には相談する気がないらしく、他の先生や学校の学校に在駐しているカウンセラー(スクールカウンセラーや心の相談員)や病院の先生などに病状を説明する事はとても嫌だそうです。特に親に相談する事は絶対に無理と述べていました。

既に学年にも周知しており今後の方向性としては「とりあえず私が話を聞き、時間をかけて外部(他の先生やカウンセラー)と繋げていく」という方向性で決定しました。しかし命に関わる問題なのでこの方向性でいいのか不安です。すぐにでも親に報告し病院に連れてってもらうレベルなのか、でもそうすると逆効果なのかなどいろいろ考えると現状維持と言う選択肢をとってしまっている状況です。私自身も専門的な知識がない中での相談に応じることはとても不安です。

以上のことを踏まえ、?この子は躁鬱傾向が強いだけなのか、躁鬱病なのか、?
我々が下した今後の方向性についてのご意見、の2点を伺いたいです。よろしくお願いします。

 

林: まず、対象者である生徒の年齢が不明です。小学生なのか、中学生なのか、高校生なのか。もし小学生であれば、躁うつ病(双極性障害)の可能性はかなり低く、また、下に述べるように、メールの記載内容からは特に双極性障害であると積極的に考える根拠は乏しいこともあわせ、双極性障害の可能性はほぼ否定できます。
もし高校生であれば、年齢的には双極性障害の発症の可能性を考える必要が出てきます。(小学生や中学生であった場合に比べ、相対的には考える必要があるという意味です)
しかしながらこの【4118】からの情報は、「躁」「うつ」の症状についての記載はあるものの、その持続期間についての記載がありませんので、双極性障害の可能性がどの程度あるかは判断できません。
但し、

朝起き上がると体に力が入らなく10分ぐらい起きられない。常に死にたい(このまま窓から飛び降りたら楽だろうな)と考えるようになる。意思とは無関係に涙が出て止まらなくなる。

という訴え(特に希死念慮)がある以上は、受診の必要があるとまでは言えます。

他方、ご本人は受診や他の大人(親を含め)への相談を忌避しており、質問者のみを信頼されている様子ですので、よほど切迫した状況でない限りは、半強制的な受診は逆効果になるおそれがあります。
そういたしますと、

今後の方向性としては「とりあえず私が話を聞き、時間をかけて外部(他の先生やカウンセラー)と繋げていく」という方向性で決定しました。

という方針は現実として適切であると考えられます。
一方で、

しかし命に関わる問題なのでこの方向性でいいのか不安です。

そのような不安も無視できませんので、質問者との面談をかなり定期的に設定することが勧められます。

このような場合の基本的考え方としては、「助けを求める気持ちがあるのであればそれを受け入れていく」というものです。この考え方の基礎には、「助ける気持ちがあるうちは、自己破壊的な行動はしにくい」というものがあります。(それでも自己破壊的行動を絶対にしないとは言えませんが、可能性としては相対的に低いという意味です)  そして逆に、その気持ちが受け入れられないと本人が感じると、自己破壊的な行動に直結しやすいので、いま信頼されている質問者としては、上記の通り、定期的な面談の設定と、さらには、本人が求めるときはそれ以外のときでも相談に乗るという姿勢が望まれます。また、定期的な面談の約束が急にキャンセルされたときなどは、危険な徴候であるという認識も必要です。

(2020.9.5.)

05. 9月 2020 by Hayashi
カテゴリー: 精神科Q&A, 自殺, 躁うつ病