【4052】水の中にいるような現実味のない感覚

Q: 23歳女性、現在フリーターです。以前、通院していた心療内科で統合失調症であると判断されました。
中学時代、私と友人2人がいじめのターゲットにされ、学校へ行かないのは許さないという母の言葉に3年間我慢し、登校拒否児童向けの高校へ進学しました。そこでは自傷行為をする子もいて、そういった同級生や友人達から相談されることも多く、人の相談ばかり聞いて自分のことをなかなか話せない毎日が苦痛になってきました。 また、そうして一人一人に合わせるために自分の性格をいちいち変えて話すうち、人と自分の会話を冷静に、まるで他人事のように天井から見下す自分がいる感覚を覚えるようになりました。駅のホームなど人が多い場所では、水の中にいるような現実味のない感覚を味わうようになり、学校へ行こうとするとモヤモヤした気持が広がって、常に死ぬことばかりを考えていました。次第に実際の悪口なのか勘違いなのか判断がつきにくくなっていき、誰かに一言でも悪口を言われたら、その相手を刺してやろうと鞄にナイフを入れていた時もあったほどです。 限界を感じて学校カウンセラーの方に相談したのですが 「貴方の人柄は面白いし、慕って相談しにきているのだろう。倦怠感は心のエネルギー不足から。相談されたくないときは、自分から話題を変えたりする大人の手段を身につけるといいよ」 とアドバイスされ、異常はないということでした。しかし大学へ入学してすぐ人との距離を感じ、自分は他人にとって迷惑で、いてもいなくても同じなのではという不安に襲われ、それでも通学しようとすると、玄関先で急に笑ったり泣いたりと感情が不安定になるのです。夜は訳もなく不安なことばかりが頭を掠め、我慢できないと自分の部屋で大声で叫んだりしました。(どれも今では考えられないことですが) 心の病気かもしれないと思ったのは電車内で、前に座っていた男女が自分の服装や行動を笑い合う声が聞こえ、恐る恐る二人を見ると実際は私のことなど全く見ておらず、それらが私の幻聴だと気づいたときでした。 その後通院した心療内科で統合失調症と診断されましたが、処方の薬を飲むと、何かしなくてはならない焦りと何もしたくない倦怠感で身動きができず、苦しくて床を転げ回り、それ以来服用が怖くなって通院も止めてしまいました。2年間大学を休学したところ、自己流の気分転換で精神状態も大分落ち着き、普通に大学へ行けるようになったのですが、代わりに人との交流は一切せず常に一人で行動し、会話らしい会話もしないで卒業しました。服装も髪型も興味がなく毎日が殆ど一緒で、高校や大学時代の友人達とは疎遠になって今では一人も友人がいません。
現在は病院でバイトをしながら就職に必要な資格を習得中なのですが、以前のように人と普通に会話することはできません。面接や接客のように一時的な会話ならば作り笑顔と明るさでなんとかなるのですが、実際の人との交流では相槌をうつだけで全く心を開くことができず、どもりやすく、動悸がしたり発汗したりするので、自然に会話できるのは両親だけです。 常に人の迷惑にならないように体臭や行動などに気を使い、何か一つでも失敗して人の迷惑になると罪悪感で一杯になり、車の運転や仕事も人に見られていると焦って失敗し、自分など死ねばいいのにと何度も思います。そうかと思えばみんな死ねばいい、私なんて死ねばいいと何度も思うこともあり、両親が悲しむのが嫌で一切相談はしていませんが、一人になったときのことを思うと恐ろしくなります。 また偏頭痛を父方の系統が持っているらしく、私も月に3~4回頭痛がし、長引くと吐き気がします。あと過去に数回、何でもできる気がするといった、いわゆる「ハイ」になった経験があります。  ここ2年は目立った症状もなく安定していたので改善されたと思っていたのですが、最近「もしかして…」と思い始めました。林先生のお話を読んで初期段階の統合失調症と間違えやすいと知り、対人恐怖症なのではとも思いましたが、様々な症状が混ざりすぎて私では判断できません。これは統合失調症が治っておらず、悪化したのでしょうか?もう一度ちゃんと精神科へ通院したほうがよいのでしょうか?ご助言お願いいたします。

 

林:
これは統合失調症が治っておらず、悪化したのでしょうか?

そうです。

もう一度ちゃんと精神科へ通院したほうがよいのでしょうか?

そうしてください。

駅のホームなど人が多い場所では、水の中にいるような現実味のない感覚を味わうようになり、学校へ行こうとするとモヤモヤした気持が広がって、常に死ぬことばかりを考えていました。次第に実際の悪口なのか勘違いなのか判断がつきにくくなっていき、誰かに一言でも悪口を言われたら、その相手を刺してやろうと鞄にナイフを入れていた時もあったほどです。

このうち、「水の中にいるような現実味のない感覚を味わうようになり」は離人で、離人だけですと統合失調症の積極的な診断根拠にはなりませんが、離人に伴い「モヤモヤした気持が広がって、常に死ぬことばかりを考えていました。」という症状が現れるのは単なる離人という症状を超えた何かがあることが推定され、さらに「次第に実際の悪口なのか勘違いなのか判断がつきにくくなっていき、誰かに一言でも悪口を言われたら、その相手を刺してやろうと鞄にナイフを入れていた時もあったほどです。」という状態になるに至って、統合失調症の可能性は大きく高まることになります。

そしてその後の

心の病気かもしれないと思ったのは電車内で、前に座っていた男女が自分の服装や行動を笑い合う声が聞こえ、恐る恐る二人を見ると実際は私のことなど全く見ておらず、それらが私の幻聴だと気づいたときでした。

この体験は、それまでの経過と合わせ、統合失調症と確定診断できるレベルのものです。

その後通院した心療内科で統合失調症と診断されましたが、処方の薬を飲むと、何かしなくてはならない焦りと何もしたくない倦怠感で身動きができず、苦しくて床を転げ回り、それ以来服用が怖くなって通院も止めてしまいました。

これは残念ながら処方された薬がたまたま合わなかったということだと思います。(それにしてもこの反応はあまりに激しく、このような副作用が本当に出るかは疑問ではあります。出たとすれば非常に例外的な事象が発生したいということになるでしょう)

現在の質問者の状態は、統合失調症の明確な幻覚妄想状態とは異なりますが、統合失調症の症状とみて矛盾はありません。精神科を受診して治療を受けることをお勧めします。

(2020.6.5.)

05. 6月 2020 by Hayashi
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