【4419】思考伝播と覚醒剤

Q: 29歳男です。18歳の時に幻聴が聞こえ始め、思考伝播に悩まされております。
現在は精神科へ通い、統合失調症と診断され、セロクエル25㎎×2錠を処方してもらっています。(主治医に薬の量を増やすよう言われておりますが、眠気や体が重い等の副作用がきつく仕事に影響するため、この量でと、主治医にお願いしています。)
思考伝播の症状を本当に治したいのですが、あまり良くなる気がしません。(幻聴はセロクエルを飲めばある程度抑えられています。)

私なりにインターネット等で調べたのですが、覚醒剤を常習した時に思考伝播や作為体験といった症状が出るというのを発見しました。ですが、思考伝播を起こす(成分?作用?)が見つけられず、こちらに質問すればもしかすれば何か解るのでは無いかと思いメールをしました。

(1) 主治医の言うとおり、薬の量を増やしたほうが良いでしょうか?
(2) 覚醒剤が思考伝播症状を引き起こす作用は解明されていますか?
(3) 上の(2)が解明されていたとして、そこからこれらの症状に更に有効な薬は開発されるでしょうか?

的外れな質問かもしれませんが、回答の方、宜しくお願いします。

 

林:
(1) 主治医の言うとおり、薬の量を増やしたほうが良いでしょうか?

増やしたほうが良いでしょう。それによって思考伝播の症状も改善することが期待できます。(ただし、このメールには思考伝播の具体的症状が記載されていませんので、質問者のいう思考伝播が本当に思考伝播かどうかはわかりません。仮に思考伝播でないとしても、統合失調症の何らかの症状が残存していて悩んでおられる、と判断しての回答です)
セロクエル50mgはかなり少ない量で、ここから少々増やすことでそれほど強い副作用が出るとは通常は考えられませんが、あり得ないとまでは言えませんので、質問者はセロクエルの副作用に敏感であるということだと思います。すると、他の薬にかえるという方法も考えられます。

(2) 覚醒剤が思考伝播症状を引き起こす作用は解明されていますか?

覚醒剤は脳内のドーパミンを増加させる(より正確には、シナプスからのドーパミン放出を促進する)という作用があり、この作用が、統合失調症に類似(または同一)の症状を引き起こすメカニズムであることはほぼ確実です。この研究結果は20世紀半ばにはほとんど確立しており、それは「統合失調症のドーパミン仮説」に発展しました。

(3) 上の(2)が解明されていたとして、そこからこれらの症状に更に有効な薬は開発されるでしょうか?

「統合失調症のドーパミン仮説」を受けて、現在用いられている抗精神病薬(統合失調症の薬)の多くは、ドーパミンをブロックするのが主たる作用メカニズムになっています。

したがって、質問者のポイントである、「覚醒剤の作用の解明によって統合失調症の薬は開発されることが期待できるか」という点については、「すでに開発されています」が答えになります。 そして現在の精神薬理学は、その先を目指して進められています。すなわち、抗精神病薬が効きにくいケースがあること、そして、陰性症状には抗精神病薬は効きにくいこと、この二つの事実は、統合失調症の脳内メカニズムが決してドーパミンだけでは説明しきれないことを示すものですから、ドーパミン仮説を超えたメカニズムの解明が進められています。

的外れな質問かもしれませんが、回答の方、宜しくお願いします。

決して的外れな質問ではありません。統合失調症の脳内メカニズムにかかわる、洞察に溢れた質問です。

(2021.12.5.)

 

05. 12月 2021 by Hayashi
カテゴリー: 精神科Q&A, 統合失調症, 覚醒剤