【4105】精神科病院に1年入院していますが一向によくなりません

Q: 30歳の息子のことです。16歳より登校拒否が始まり、19歳から一年間だけ大検に通い、又、引きこもって、後の単位は何とか取得致しました。21歳頃から、外に出てくれると期待しておりましたが、やはり叶わず、何年も引きこもってました。29歳の頃より、口数がすくなくなり妄想がでてきました。盗聴されてるとか、私達の命がねらわれるとか、初めはなんことやら、理解に苦しみました。現在、精神科病院に入院して一年を過ぎたところですが、相変わらず妄想が強く、治療して薬を飲んでいるのにもかかわらず、一向に良くなりません。最近では先生に手詰まりという表現をされるくらいで、先が見えず凄く不安でなりません。どんな経過をたどるのでしょうか?
慢性になってしまうのでしょうか? 障害の申請をしたところ、一級に認定されました。
宜しくお願いいたします。

 

林: この1年の具体的な経過、それから処方内容の記載もありませんので、不明の点が多いのですが、メールに書かれている内容だけからみれば、残念ながら予後の悪いタイプの統合失調症である可能性が否定できません。理由は次の通りです:

16歳より登校拒否が始まり、19歳から一年間だけ大検に通い、又、引きこもって、後の単位は何とか取得致しました。21歳頃から、外に出てくれると期待しておりましたが、やはり叶わず、何年も引きこもってました。29歳の頃より、口数がすくなくなり妄想がでてきました。

このように、漠然とした症状から始まり(16歳から20代後半までは、幻覚や妄想がなかったか、あったとしてもはっきりしなかったと判断できますので、不調が始まってから統合失調症であると確定診断されるまで10年前後を要していたと思われます)、何年もたってから統合失調症に典型的な症状が出てくる という発症経過は、統計的には予後が悪い統合失調症にしばしば見られるものです。(逆に、急性発症した場合は、そのときの症状の激しさとは対照的に、予後は良好であることが多いものです。たとえば【3748】いきなり神秘的な妄想にとりつかれてからどんどんおかしくなりましたが、薬を飲んで3日後からはよくなってきました。などはその例といっていいでしょう)

そして、

現在、精神科病院に入院して一年を過ぎたところですが、相変わらず妄想が強く、治療して薬を飲んでいるのにもかかわらず、一向に良くなりません。

1年間の入院治療で改善がみられないということは、治療抵抗性であるとみることができます。(ただし、前記の通り処方内容等が不明ですので、治療が不適切なために改善しないという可能性を否定することはできません)

さらに

障害の申請をしたところ、一級に認定されました。

障害認定1級ということは、最重度の症状ということですので、1年間の入院治療をしてなお最重度ということは、今もかなり重い精神病症状があると判断できます。(本来はその具体的な症状についての情報が必要ですが、その記載がない以上は、「1級」ということのみで判断しています)

以上の通り、
・緩徐な発症
・治療抵抗性
・しかも最重度の状況
ということをあわせますと、冒頭に記した通り、非常に予後の悪い統合失調症であるという可能性が否定できません(加えて、男性であることも統計的には予後不良の一因子です)。すなわち、今後長年にわたって一定以上に重い精神病症状が持続することが推定されます。

慢性になってしまうのでしょうか?

その可能性が高いでしょう。

残念ながら統合失調症の中にはこのようにかなり悪い経過をたどるケースが存在します。振り返ってこの【4105】のケースで、では16歳の不登校のころに統合失調症と正確に診断して治療が開始されていたら経過は良好になったかどうかについては、「わからない」というのが現代の精神医学の答えです。早期発見して早期治療すれば、経過は良くなっていたことは期待はできますが、それでもなお経過が悪いケースが存在するというのが現実です。

(2020.9.5.)

05. 9月 2020 by Hayashi
カテゴリー: 精神科Q&A, 統合失調症