【3914】本当っぽいけど頻度的にありえない、自分が活躍した話を生き生きと描写する

Q: 私はある会社でシナリオ講師をしている50代男性です。
今回は私の会社の同僚について、不審に思うことがあり筆をとりました。

その同僚は60歳代、ゲームやアニメのライターをしています。仮にA氏としますが、彼は小説出版経験もあり、シナリオの協会のようなところでの肩書もありと、いわゆる仕事人としては立派な人だと思います。

ただ、半年ほど仕事の付き合いをしてきて、どうも会話の内容がおかしいと思うことがあり、私に話している彼自身のエピソードは虚言ではないか?と疑っています。

A氏が私に話したことで、嘘ではと思ったことは、覚えている限りで以下のようなものです。

・外国の大手ゲーム会社で大活躍していた。その際社長と喧嘩し、自分が脅しつけたら社長は自分を恐れてペコペコするようになった。社長を含め同僚は日本人を見下していたが、それ以後自分の言うことを何でもきくようになった。

・池袋の母子が轢かれた事件では、自分が目撃者として警察の事情聴取を受けていた。そのために出社が遅れたことが数回ある。

・某殺人事件で、事件の犯人を捕まえたのは○○という一般人だが、実は自分がその前に犯人の足首を掴もうとし、そのためにナイフで手首を傷つけられて、その跡が残ってしまったといって手首を見せてくる(手首のしわが傷だと言っていました。しわはありましたが傷跡らしきものはなかった)

・業界のW氏は大手会社の○○に引き立てられているが、実は自分がW氏のゴーストライターをしており、そのためあまり仕事が引き受けられない状況 (しかし私はW氏と親しく、短期間で大量執筆しているのも見ているため、A氏がW氏のゴーストライターをしているとは考えにくい)

・大手ゲーム会社のYさんが港から飛びこみをしようとしていたのを自分が引き留め、説得した。自分は命の恩人。

これ以外にも有名な事件の背後には自分が何かしていた、誰かの命を救った系の話が多いのですが、あまりにも事件にかかわりすぎだし、命を救いすぎで、最初は真面目に聞いていたのですが、数か月したころからおや?おかしいぞと思うようになりました。真顔で冗談を言っているのかな?とも思いましたが、どう考えても冗談で言っているのではなく、常に真剣に本当の話として話してきています。

ちなみに、数か月も私が何も思わなかったのは、彼がすごく生き生きと状況描写を入れながら本当に彼がそこにいたように詳細に場面を話し、何度もそれを伝えてくるので、嘘とは思わなかったのです……。
しかし、人の人生で事件にかかわることが5回以上、人の命を救うことが5回以上、トータル10回も短期間に起こるというのはとても考えにくいとあるとき気が付きました。

どの話も否定したことはありません。
林先生のサイトかどこかで、虚言者は、虚言を行った後、同意されると安心して緩和行動?(チックのような症状がでる)と読んだような気がして、この中の2件については、同意したあと、相手の様子をよく見ていました。

そうしたところ、いずれの場合も、私が同意したのち、A氏が口を少し開いて、10秒?くらいですが、見えるか見えないかくらいで舌を震わせる(ラララララララと言っているような舌の状態)のを見ました。

彼は虚言者ではないでしょうか?

現在は、本当っぽいけど頻度的にありえない生き生きとした自分が活躍した話に疑いをもったこともあり、話すのが面倒なので仕事場で彼を疎遠にしています。
そうしたところ、私が彼を煙たがっていることに気が付いたのか、私がSNSで秘密裏に会社を攻撃していると上司に伝えているようです(これは上司に呼び出され、A氏の言動を伝えられたので判明しました)
ちなみに、SNSで私が何かしているというのは、まったくの事実無根の嘘です。

彼が嘘をついたことも気持ち悪いですし、虚言者であるなら、周囲を巻き込んでトラブルを起こす予感もあります。

私は彼に対して、どのように対応するのがベストでしょうか?思いつく限りでは関わらず興味をもたれないようにする、というのがいい気がしますが……。

 

林:
彼は虚言者ではないでしょうか?

現在のところ、「虚言者」あるいは「病的な虚言者」など(つまり、誰もがつく嘘とは次元が違い、これは病気ではないかと思わせるレベルの嘘をつく人)の公式の定義は存在しませんが、「病的な虚言者」の必要条件は

◎ たくさんの嘘をつく
◎ 普通では考えられないような嘘をつく

とすることができるとすると、この【3914】は、まずはこの条件は満たしているとみていいと思います。

数か月も私が何も思わなかったのは、彼がすごく生き生きと状況描写を入れながら本当に彼がそこにいたように詳細に場面を話し、何度もそれを伝えてくるので、嘘とは思わなかったのです……。

このように、具体的に、時には精緻に構成された嘘を語ることで、病的な虚言者は虚言を事実であると周囲に信じさせます。それができることは病的な虚言者に必要な才能と言えるでしょう。

しかし、人の人生で事件にかかわることが5回以上、人の命を救うことが5回以上、トータル10回も短期間に起こるというのはとても考えにくいとあるとき気が付きました。

このように、ある時点で虚言であると周囲気づかれる、少なくとも虚言の可能性がとても高いと気づかれることがあります。というよりも、気づかれて初めて虚言であるとわかるのであって、気づかれなければ虚言とはわかりませんから、実際にはそのようなケース、すなわち、虚言を続けているが周囲は全く気づいていないケースは相当数あると思われます。

ゲームやアニメのライターをしています。仮にA氏としますが、彼は小説出版経験もあり、

これは先の「病的な虚言者に必要な才能」との関係で意味深長です。病的な虚言者の中には、決して熟考などしなくても、泉のように巧妙な嘘が湧き出てくるケースがありますが(虚言キーワード「湧き出るストーリー」)、この【3914】は、才能を虚言と職業の両方に活用しているのかもしれません。

彼が嘘をついたことも気持ち悪いですし、虚言者であるなら、周囲を巻き込んでトラブルを起こす予感もあります。

その通りだと思います。

私は彼に対して、どのように対応するのがベストでしょうか?思いつく限りでは関わらず興味をもたれないようにする、というのがいい気がしますが……。

病的な虚言者は実際は相当な人数が存在すると思いますが、現在のところ精神医学の死角にあり、有効と証明されている対策は提示できず、したがって各ケースごとに考えていくのが現実的です。その意味でこの【3914】のA氏と、質問者とA氏の関係からみて、「関わらず興味をもたれないようにする」というのは、消極的ではありますが適切であると考えられます。

(2019.11.5.)

05. 11月 2019 by Hayashi
カテゴリー: 精神科Q&A, 虚言