【3957】彼の前だけで別人格が出るようになった姉が

Q: 私の姉(20代)の病気は大変難しいものらしく、適切な(診察さえ断られた病院も数件)診断を頂けないまま悪化し続けており、林先生のご意見頂きたく質問させて頂きました。
姉の病名は、解離性同一性障害というものです。3年前に発症していたらしいのですが、私達家族、姉の友人は最近まで気付く事ができませんでした。というのも、姉には7年間交際していた彼がいました。3年前、彼が原因で初めて解離になり、彼の前で別の人格が出てくるようになったそうです。姉は関東人ですが、方言を使う人格や、幼い人格、年上、年下、異性の人格等…彼本人から最近聞きました。私たち家族の前ではそうした別の人格は出てきません。彼の前にしか現れなかったのは、彼が原因だからだろうとあるお医者様は言われました。
私たち家族が知るきっかけとなったのは、彼が姉を捨て、地方に行った事でした。そのときから、家族の前でも別人格が出るようになったのです。発症から3年間、病院に行っておらず、姉は生活に支障がないためか記憶が無くなる事しか自覚はなかったようです。彼は姉の他の人格とも話したり、お互い好意を持ったり、また姉を守る人格に、一生姉の側にいると約束し、私達家族にも地方に行く前に結婚するとまで言っていました。エンゲージリングの予約の紙まで姉の部屋にあります。7年も付き合っていた彼に捨てられる事は、同じ女性として健康的であっても相当な苦しみだと思います。
姉には解離という病気だけが残り、この3ヶ月、私達の知る姉とは話せていません。話す事はおろか、記憶が24時間出てくる人格?だそうで、頭痛、吐き気、目眩から毎日ベッドの上での生活です。彼に会わないと統合できないとその人格はノートに書いていました。会う事を止めるお医者様と、勧めるお医者様、本当にお医者様によって診断が様々で、家族療法で良くなると言われ精一杯愛を持って接してきましたが、どんどん酷くなるので母までがノイローゼになってきました。私もくじけてしまいそうです。彼には、姉がおかしくなった時(とても狂暴で男のような人格)に連絡し、私達家族も混乱していたのでとにかく助けてあげてほしいとお願いしましたが、冷たく見放されました。入院していてもむしろ酷くなり、自宅療養だと今にも自殺してしまいそうで、毎日が悲しみでいっぱいです。私なりに解離性同一性障害について調べましたが、解離性同一性障害の症例によくある虐待や、性的暴行等は姉にはなく、私達は両親共に優しく愛を注いでもらいながら普通に育ってきました。だからこそ、お医者様に診てもらえないのですが…林先生はどのようにお考えでしょうか? 是非ご回答お願い致します。

 

林:
解離性同一性障害の症例によくある虐待や、性的暴行等は姉にはなく、私達は両親共に優しく愛を注いでもらいながら普通に育ってきました。

そうであっても、解離性同一性障害になることは十分にあり得ます。この【3957】のケースでは、彼との間の何らかの出来事がきっかけになったと推定できます。(彼との別れの前に発症していたようですので、交際期間中に何らかの出来事があったのでしょう)

だからこそ、お医者様に診てもらえないのですが…

この一文は他の部分と矛盾があり、事情がよくわかりません。
「他の部分」というのは、

会う事を止めるお医者様と、勧めるお医者様、本当にお医者様によって診断が様々で、家族療法で良くなると言われ

これらを指しています。これらの文章からは、複数の医師に診断を受けており、治療の方針まで示唆されていることが読み取れます。すると「お医者様に診てもらえない」とは矛盾しており、どちらが事実であるか厳密には不明ですが、「会う事を止めるお医者様と、勧めるお医者様、本当にお医者様によって診断が様々で、家族療法で良くなると言われ」はある程度具体性を持った記述であること、「お医者様に診てもらえない」は質問者の印象や解釈が含まれていることから、事実は「複数の医師が診療したが、質問者はどの診療にも満足しなかった」であったと推定することにします。
すると、単純化すれば、
(1) 客観的にみて、どの医師の診療も不十分であった
(2) 客観的にみれば、どの医師の診療も、あるいは少なくとも一部の医師の診療は、十分なものであったが、質問者が満足しなかった
の2つのどちらかが事実であったと考えられます。

一般的には、いわゆるドクターショッピングと呼ばれるように、次々と医師をかえる場合、理由の多くは(2)です。したがってこの【3957】でも(2)が事実であった可能性が高いと言えそうですが、しかしながらこの【3957】は、解離性同一性障害であるという特殊事情があります。解離性同一性障害の精神科での診療は、確立されているとは言えませんので、実際に(1)であった可能性もそれなりに高いと考えられます。「本当にお医者様によって診断が様々で」という一文からもそのように考えられるという方向に傾きますが、ここで「様々」なのは対応についてであって、診断そのものは解離性同一性障害に一致していたと思われますので、「解離性同一性障害の精神科での診療が確立されていない」ことが、質問者の当惑の根本原因であるとみるのが最も妥当でしょう。
すると現実的な対応としては、「医師の見解がある程度異なっていても、主治医を決めたら、その医師の方針に従う」というのが最も適切ということになると思います。

質問メールの冒頭、

私の姉(20代)の病気は大変難しいものらしく

その認識はその通りだと思います。だからこそ上記のような対応が望まれると言えます。

(2020.1.5.)

05. 1月 2020 by Hayashi
カテゴリー: 精神科Q&A, 解離性障害 タグ: |