【3838】過感受性精神病とはなんでしょうか?
Q: 私は60代の男性です。
20代後半の息子は17歳のころから精神的な不調があり(なんとか高校は卒業しました)、最初のころは病名が分かりませんでしたが20歳のころから家庭内暴力、なにか変な電波?で頭がぐちゃぐちゃになる→うずくまる、同じ行動を何度も繰り返すなどで入院し、統合失調症と診断され、半年ほど入院していました。
その後退院しましたが、薬が多いため2年ほどしてから何度か薬を減らすことを試みました(もちろん医師と相談のうえです)
ところが、そのたびに「怒りっぽくなったり、同居する私夫婦や兄に暴言を吐く、と思えば突然謝りだす」など再発?があり、そのたびに戻すたびに収まりました。
最近、セカンドオピニオンを受ける機会があり(妻の母が認知症で別の精神科病院に入院した際、セカンドオピニオンができるとのことでお伺いしました)
その際の意見ですが「統合失調症という診断には異論がないが、減らして悪化したというのは過感受性精神病によるものではないか?」との意見を頂戴しました。
その後、主治医の方に「これまで減薬して再発したのは過感受性精神病では?」とお伺いしたところ、過感受性精神病という概念は聞いたことはあるがでたらめである。 とのご見解でした。
そうすると、セカンドオピニオンの先生の独自の考えなのでしょうか、それとも一般的な概念だが最近なので主治医がよく知らないだけでしょうか?
(現在の主治医は60代だそうです)
やはり多いと肝臓を悪くする恐れがあるそうですのでできれば少ないに越した方がいいとは思いますが。
たしかに精神病の再発はいけないことですが、体も悪くしては本末転倒だと思いますが…
林:
過感受性精神病という概念は聞いたことはあるがでたらめである。 とのご見解でした。
その見解は誤っています。過感受性精神病という概念は、現在の精神医学界において、広く認められているとまでは言えませんが、一つの有力な考え方です。日本では千葉大学の伊豫(いよ)教授が強く支持しておられます。
過感受性精神病とは、ごく簡単には、大量の抗精神病薬を長期投与したことによって作られる耐性のことで、それはドーパミン受容体の感受性が過度に強まることによるとするのが「過感受性」の意味です。過感受性精神病という概念が生まれたきっかけの一つは、統合失調症の患者さんの中に、長期にわたり大量に抗精神病薬を飲み続けるうちに、抗精神病薬が効きにくくなるケースがあるという事実です。そのメカニズムの説明として、ドーパミン受容体の感受性が過度に強まるという説明は合理的なものと言えます。
ただしそれを証明することは難しいです。大量・長期に投与すると抗精神病薬が効きにくくなる理由としては、そもそも大量・長期に投与する必要があるというのは重症の統合失調症であり、少量では効きにくい何らかのメカニズムが脳内にもともとあったからこそ大量投与が必要になったのであって、効かなくなったのはさらに脳内でそのメカニズムが悪化し続けたからであって薬の耐性が生じたからではない、という説明もまた合理的であり、そしてこちらも証明することは困難です。
というように、未解明な部分はたくさんありますが、それでも過感受性精神病というのは現代において有力な概念であることは事実です。この概念がこれからさらに発展していくか、それとも消えていくかはまだわかりません。
ですから、ご質問に戻りますと、
過感受性精神病という概念は聞いたことはあるがでたらめである。
という見解は誤りで、この見解を述べる医師のほうがでたらめだと言えるでしょう。
ただし、この【3838】の質問の元になっているのは、セカンドオピニオンとしての、
その際の意見ですが「統合失調症という診断には異論がないが、減らして悪化したというのは過感受性精神病によるものではないか?」との意見を頂戴しました。
という意見ですが、この意見は完全なでたらめです。
なぜなら、「減らして悪化した」ことから、過感受性精神病という推定には結びつかないからです。薬を飲んで安定していた統合失調症の方が薬を減らしたら悪化するのはごく自然であって、過感受性精神病という概念とは関係ありません。
そうしますと、主治医の先生の見解である、
過感受性精神病という概念は聞いたことはあるがでたらめである。
は、この言葉通りに医師が述べたのであればそれはでたらめですが、実はこの先生は
過感受性精神病という概念は聞いたことはあるが、薬を減らして悪化したからといって過感受性精神病であると考えるのはでたらめである。
とおっしゃったのかもしれません。
これに限らずどんなケースでも、「医師がこう言った」という報告は、非常に多くの場合に医師の言葉の正確な引用ではないので、医師の見解が誤っているのか、引用が誤っているのかはわからないものです。ただし精神科Q&Aでは質問メールの内容は正しいと仮定して回答するのが原則ですので、「この【3838】の主治医の見解は誤り」という回答になっているのであって、本当のことはわかりません。
(2019.6.5.)