【3837】一過性の精神症状が消えてからも服薬継続が必要なのでしょうか

Q: 私は30代男性です。 八年前に統合失調症を発症し入院、以後一年ごと、二度の入院をしました。最初の病状は、被害妄想と幻聴です。
これらは入院して一週間程度で消えました。
また、二回目、三回目の入院の際は、胸の動悸、不眠などが理由で入院しました。
それから5年経ちますが、被害妄想、幻聴、胸の動悸、不眠などの症状は一切ありません。
そこで質問なのですが、私のような慢性的では無く一過性の場合も服薬治療を続けなければいけないのでしょうか?病識はあっても病気の自覚が無いため服薬に疑問を持っています。例えば、被害妄想が続いているのであれば納得できるのですが、まったくありません。
もう一つ、質問ですが、ある医師には「薬の量を減らしていき、通院も止める方向で行きましょう。」との診察方針があったためそれに同意したものの、それから主治医が変わって薬の減量は行われていません。体調も良好です。それについて、精神科においてインフォームドコンセントは適切に守られているのでしょうか?それとも主治医の主観によってころころと変わってしまうものなのでしょうか?
晴れない悩みの中で鬱々とすることもしばしばです。ぜひ、先生の意見をお聞かせください。

 

林: 精神疾患において、症状が完全に消失したとき、それでも服薬を続けたほうがいいかどうかは単純には答えらない問題です。再発予防のために必要な場合も多々あります。それでも一回だけ精神症状が出現したエピソードがあるというだけであれば、たとえその症状がかなり重くても、減薬から服薬中止を試みるという方針は正しいことも多々あります。しかしこの【3837】のケースではすでに3回のエピソードがあり、その3回は入院にまで至っているわけですから、再発予防のために薬を継続するという方針は一理ある、というより、薬を継続するという方針のほうが正しいという判断に傾くと思います。
このとき、「薬はいったん止めて、もしまた症状が出てきたら再開する」という方が一般常識的には正しいように思えるかもしれませんが、【2335】のような例が統合失調症では非常に多いので、そのような一般常識をどのケースにもそのままあてはめるということはできません。

これに加えて、そもそも「症状が完全に消失」しているかどうかもまた、慎重な判断が必要です。ご本人が「完全に消失」したと述べても、実際にはそうでないというケースは膨大にありますから、この【3837】についても、「一過性の精神症状が消えた」という前提がそもそも事実かどうかは不明と言わざるを得ません。

第二のご質問については、これを 精神科においてインフォームドコンセントは適切に守られているのでしょうか というように精神科全体に一般化することには無理があり、回答不能です。
一般化でなく、この【3837】という特定のケースの場合、すなわち、

ある医師には「薬の量を減らしていき、通院も止める方向で行きましょう。」との診察方針があったためそれに同意したものの、それから主治医が変わって薬の減量は行われていません。

については、医師から医師に方針が継続されていないことが問題という指摘も可能ですし、病状が変化したため減薬は不能になったのかもしれないという指摘も可能ですし(それが本人に伝えられていないのは問題という指摘も可能ですが、現実には明確に伝えないほうが適切という場合もあります。【3836】などをご参照ください)(体調が良好です というご本人からの申告だけでは、本当に病状が良いかどうかは不明です。【2450】私の統合失調症はもう治りました などをご参照ください; さすがにこの【3837】が【2450】と同等のケースとは思えませんが、もっと微妙に症状が悪化しているケースは膨大にあり、【3837】がそれにあたらないとは言い切れません)、そもそも最初の方針の「同意」がどのようなものであったかが不明という指摘も可能です。

したがって、第一のご質問への回答の通り、この【3837】のケースで、薬を減らして中断を目指すという方針が正しいとは断定できませんから、主治医によって方針が異なるのは自然で、それがご本人にどう伝えられどう継続治療されているかをめぐる第二のご質問については回答困難です。

(2019.6.5.)

05. 6月 2019 by Hayashi
カテゴリー: 精神科Q&A