【3836】統合失調症は治る、大したことない病気だと医師から説明を受けました

Q: 30代、男性、会社員です。
現在精神科に通院し、治療を受けています。

仕事の都合により何度か引っ越しているのですが、前の地域での主治医がこんな事を言っていました。
「統合失調症は適切に治療すれば”治る”病気であり、他の精神疾患と比べてもあくまでも医学的な意味では(社会的な悪印象と比べても)大したことない」と。

これについて林先生はどのような印象を持たれるでしょうか。
私の現在のカウンセラーも同意なさってますし、名前は伏せますがその先生自身かなり腕の良い医者だったので私はこの発言は信頼に足るものだと確信しております。

 

林: 精神科Q&Aの回答でしばしば述べているとおり(たとえば【3834】)、主治医の仕事は治療であって、正しい情報を伝えることではありません。もちろん両立することが理想ですが(つまり、正しい情報を伝え、かつ、治療して治すことが両立することが理想)、精神科の現実の医療場面では、そうはいかないことも少なくありません。最もわかりやすい例としては、統合失調症という病名を告知するかどうかという問題を挙げることができます。統合失調症であると告知されたために治療を拒否するというケースは膨大にありますから、主治医の第一の責務が治療である以上、病名告知を控えて治療を優先することは十分にありうることです。

この【3836】はそれに似たケースだと言えます。このケースでは、統合失調症という病名は告知していますが、それが「治る」「大したことない」と説明されています。このうち、「治る」については、質問者が”治る”と””をつけて表現しておられることからみても、「治るといっても色々な意味がある」と質問者が解釈しておられることが読み取れます。たとえば、「薬を飲んでいる限り問題ない」という状態を「治った」と呼ぶかどうかは、考え方によって異なるでしょう。
「(他の精神疾患に比べて)大したことない」については、「薬を飲んで安定していれば、他の精神疾患に比べて大したことない」という意味では正しいと言えるでしょう。しかし「大したことない」という部分だけ切り取った場合は不適切で、それは精神科Q&Aの多数の実例をお読みいただければ明らかだと思います。

これについて林先生はどのような印象を持たれるでしょうか。

というのが今回のご質問のポイントですが、それに対する回答は、「この医師の説明は、【3836】の質問者個人への説明としては適切」になります。あくまで「個人への説明として」です。一般化した場合でも、「薬を飲んで安定していれば、他の精神疾患に比べて大したことない」という限定した意味においては適切でしょう。

身体の病気でも同様のものはたくさんあります。たとえば高血圧について、「早く発見して早く治療すれば治り、他の身体疾患に比べて大したことない」という説明は間違いとは言えません。けれども「大したことない」という表現だけを切り取って受け取って軽くみるようなことがあれば、重大な帰結になることがあるのは誰もがご存知の通りです。

(2019.6.5.)

05. 6月 2019 by Hayashi
カテゴリー: サイトの方針, 精神科Q&A, 統合失調症