【3779】一日も欠かさず薬を飲んできた今、何の症状もないのですが、それでも私は統合失調症でしょうか

Q: 20代男性です。 私は6年ほど前に統合失調症と診断されました。
ただ、私の両親や医学部卒の嫁からは、本当に統合失調症なのか?と疑問に思っています。
当時の状況をできるだけ詳しく書いていきます。
長文になると思いますが、どうぞよろしくお願いします。

7年前の12月に大学に行くために原付で登校していました。すると、前のタクシー車がお客さんを見つけたので、急ブレーキをし、後ろに居た私はそれに気づくのが遅れて追突事故を起こしました。タクシーの運転手も私もタクシーを止めた人も特に怪我もなく、警察にも処理してもらい、なんともありませんでした。
しかし、その日からだんだんと「友達に会いたくないな~」と思うようになり、2ヵ月後ぐらいには学校に通えなくなり、外にいる通行人にも恐怖を感じるようになりました。
6年前の2月から9月まで引きこもりになり、両親からの着信にもおびえるようになり、電話を取ることもできませんでした。そして頭の中でなんとなく悪口がいわれてるような気がしました。
あまりに電話を取らない私に、父親が私の元(私は一人暮らし、両親とは県外の距離で離れてました)に来てくれて、涙を流しながら今までの状況を話をしました。
そして同じ年の9月に心療内科に行き、統合失調症の診断を受けました。

あれから6年、一日も薬を飲むことを忘れずに、しっかり治療し、今では普通に大勢の前で働けるようになりました。

ここで嫁や両親から、私は本当に統合失調症なのか?という疑問が出ています。

統合失調症の症状に当てはまっていないことは以下です。
(1) 被害妄想はありましたが、幻覚(幻聴、幻視)などはありませんでした。
(2) 統合失調症の場合は、無気力になるとのことですが、私が引きこもっている間は「引きこもっている自分のままではだめだ」と部屋の中でプログラミングや大学の勉強、編集技術など様々なことにチャレンジしていました。
(3) 治療を始めて2ヵ月後、母親が私のところに見に来てくれましたが、私がお母さんに気を使って、「近くで大学の文化祭がしているから見に行こう」って自分から人がたくさん居る場所に行こうとしていました。
(4) 今ではブライダルの撮影をしていますが、100人200人の前に立っても全く怖さがない。

などなどです。

私が人が怖いという症状は一時的なものであり、周りの人にはただのうつ病だったのではないか?といわれます。
もちろんうつ病でも今の薬を飲み続けることには変わりませんが。。。

何度か担当医に、私は本当に統合失調症なのか?とたずねましたが、どうしても統合失調症だといいます。
3、4年ほど前に統合失調症の新しい薬が出て処方してみたんですが、私は身体がしびれる副作用が起き、このことについてセカンドオピニオンで相談したこともあります。私の担当医は「別の先生に私の症状を見て、統合失調症の診断に違和感があったらその時に言っているはず」と言ってきます。

私からすると、紹介状で私の症状や診断病名などを見ていて先入観が入っていますし、私の主治医になった医者の立場からすれば、いまさら統合失調症ではないと責任を持って言えるのか?と思いますので、主治医が私を統合失調症だと言うのはあたり前だと思ってしまいます。

ですから私は、まっさらな状態で先入観なしに、本当に統合失調症なのかどうかを知りたいです。
林先生は私の症状についてどうお考えでしょうか?
やはり統合失調症なのでしょうか?

長文を読んでくださってありがとうございます。
よろしくお願い致します。

 

林: まず第一に、

一日も欠かさず薬を飲んできた今、何の症状もない

ということから、

それでも私は統合失調症でしょうか

という疑問が生まれるのは不合理なことです。
もしこの疑問が論理的に成り立つのであれば、たとえば高血圧と診断された人が、そのたとえば6年後に、

一日も欠かさず薬を飲んできた今、何の症状もないのですが、それでも私は高血圧でしようか

という疑問も論理的に成り立つことになります。
この高血圧の例では、言うまでもなく、「高血圧の薬が効いているから何の症状もない」こと明らかです。それと同じように統合失調症でも、「一日も欠かさず薬を飲んで」いれば、「何の症状もない」ことは十分にあり得ることで、現にそのようにして健康な人と同じように生活を送っている統合失調症の人はたくさんいらっしゃいます。

ただしこの【3779】の質問者は、さらに突っ込んだ疑問を出しておられますので、それぞれについて回答したいと思います。

(1) 被害妄想はありましたが、幻覚(幻聴、幻視)などはありませんでした。

統合失調症の本人は、幻覚を幻覚と認識していないことがよくありますから、本人からの 幻覚(幻聴、幻視)などはありませんでした という報告は、診断上の意味は乏しいです。つまり、この【3779】では幻覚は「あったかなかったかは、わからない」が正しい評価ということになります。
また、質問者は当時、

そして頭の中でなんとなく悪口がいわれてるような気がしました。

という体験をしておられ、これは定義上は幻聴にはあたらないかもしれませんが(いわれている気がする だけでは幻聴とまでは言えません)、統合失調症の初期にはこのような体験をする段階があり、そのうちにはっきりした幻聴に発展するというのが1つの典型的な経過です。
もっともこの説明に対しては、「しかし幻聴に発展しなかったのだから、やはり幻聴とは全く違うのではないか」という反論も考えられますが、いかなる病気でも、明確な症状の前の段階で、その不全型のような症状が見られ、その段階が持続することも少なくありませんから、この【3779】のケースでは、「明確な被害妄想に加えて、幻聴と同等とみなせる症状があった」と判断することが可能で、すると診断は統合失調症に大きく傾きます。

(2) 統合失調症の場合は、無気力になるとのことですが、私が引きこもっている間は「引きこもっている自分のままではだめだ」と部屋の中でプログラミングや大学の勉強、編集技術など様々なことにチャレンジしていました。

統合失調症では無気力になることもならないこともありますので、無気力にならなかったことは統合失調症を否定する根拠にはなりません。(無気力は統合失調症と診断するための必要条件ではありません)

(3) 治療を始めて2ヵ月後、母親が私のところに見に来てくれましたが、私がお母さんに気を使って、「近くで大学の文化祭がしているから見に行こう」って自分から人がたくさん居る場所に行こうとしていました。

それは統合失調症の診断とは何の関係もありません。特に治療開始後であれば、健康な人と同じ状態になっても何の不思議もありません。

(4) 今ではブライダルの撮影をしていますが、100人200人の前に立っても全く怖さがない。

それは統合失調症の診断とは何の関係もありません。すでに何年も治療を受け安定しておられるわけですから、健康な人と同じ状態になっても何の不思議もありません。先の高血圧の例にあてはめれば、「ストレスのかかる場面でも全く血圧が上がらない」のは、治療を受けているからであって、高血圧の診断を否定する根拠になり得ないのと同じです。

とは言え統合失調症では、きちんと薬を飲んで安定しているように見えても、ストレスのかかる場面では症状が再発することが少なからずありますが、この【3779】のケースでは、少々のストレスがかかっても平気なくらい、薬がよく合い、治療がうまくいっているとみることができます。是非いまの治療を続け、これからも健康な生活を送ってください。

(2019.1.5.)

05. 1月 2019 by Hayashi
カテゴリー: 精神科Q&A, 統合失調症 タグ: , |