【3773】土地が狙われているという考えに基づく言動

Q: 私自身は統合失調症と診断されている40代(中学時代と20代の時に入院歴あり)なのですが、私のことではなく、79歳の母(40代の時に数年間の精神科通院歴あり・その時の病名は不明)について質問させていただきます。
母とは現在、離れて住んでおります。

事のはじまりは私が小学生の時までさかのぼり、母方の祖父(農家)が亡くなり、市街化調整区域の畑作用農地0.25反(約78坪)を母が相続した頃から、おかしなことになりました。

当時はバブル景気真っ只中で、相続した農地が市街化されて高騰すると思いこんだ母が、庶民なのにセレブ然として、日本中の女性の中で自分がナンバー2(ナンバー1は美智子現皇后陛下)だとか、日本ではじめて女性で運転免許を取ったのが自分で、免許を持っている女性はみんな自分に憧れて真似しているとか、私の同級生はみんな土地目当てで近づいてきた子だとか、気に食わないことを言う私の担任は土地を狙っているとか、言っておりました。
ママ友や学校関係者とのトラブルが絶えませんでした。

当時まだ子どもだった私は、母の言うことを半分信じて育ち、そこに私自身の被害的な考えも加わり、中学時代に父が学校に呼び出され、母子ともども病院へ行くよう勧められ、精神科病院で母子ともども入院を勧められたのですが、母は父の前でだけは言動が普通で、父が母の入院に納得せず、結果として私だけが入院し、母はしばらく通院し、その後通院をやめてしまいました。

それから25年以上の年月が経過しても、母は変わらずオシャレで身だしなみに気を使い、家事もこなして趣味を楽しむ気力もあり、初対面の人と会話するのも平気で、通院してなくても当時よりもひどくなることはなく。
言動はほぼ当時のままでしたが、私が学校を卒業してからはママ友や学校関係者と会わなくていいし、大きなトラブルもなく。

そして数年前、農地の値段を自ら調べに行き、ほとんど資産価値がないことがわかってからは、それまでの妄想のような考えに基づいた言動も消え、しばらくは常識的な人になっていました。

ところが、その母が相続して所有する農地の界隈が、本当に市街化区域になるかもしれない話が最近あり、また以前のような考えに逆戻りしました。
母の農地とはまったく無関係な話で、ちょっとお節介な人がいると、すぐに土地を狙っている人と認定し、父方の親戚のことに冗談半分で口出ししてきた人も、母の髪型に口出しした人も、母の土地を狙って言ったという具合に。

そこで質問が2つあり、1つ目はこのような母はやはり病気なのでしょうか?
過去のQ&Aを拝見すると、素人ながら妄想性障害っぽい気もするのですが、性格の偏りのような気もしないでもなく(昔から思いこみの激しい面があります)、また認知症の好発年齢でもあるかと思いますが、つい最近、運転免許の高齢者の認知検査で90点台の高得点だったそうです。

2つ目は、もうすぐ80歳という年齢もあるし、今まで30年近く放置しても悪化はしなかったので、このまま放っておこう(たぶん悪くはならないだろう、家族以外に人付き合いもあまりないからトラブルもないだろう)と楽観的に考えているのですが、この考えは適切ですか?
どうぞよろしくお願いいたします。

 

林:
1つ目はこのような母はやはり病気なのでしょうか?
過去のQ&Aを拝見すると、素人ながら妄想性障害っぽい気もするのですが、性格の偏りのような気もしないでもなく(昔から思いこみの激しい面があります)

お母様の症状についての質問者の冷静な洞察は優れていると思います。
お母様のような経過・症状のケースが存在することは精神医学では昔から知られていますが、診断分類についてはまだ統一された見解がありません。「妄想性障害っぽい気もするのですが、性格の偏りのような気もしないでもなく」というのは、まさに正鵠を射た評価です。実際に受診したとしても、精神科医によって、妄想性障害と診断されたり、性格の偏りと診断されたりするでしょう。そもそも妄想性障害の、少なくとも一部は、性格の偏りの延長線上にあるとするのも合理的な見解と言えます。
この【3773】のケースは、実の娘(すなわち質問者)が統合失調症であるという家族歴があることから、脳内に統合失調症に近い何らかの変調が存在し、その変調が生活上の何らかの出来事(すなわち、たとえば 相続して所有する農地の界隈が、本当に市街化区域になるかもしれない話 というような、本人の潜在的な妄想を強化するような出来事)によって顕在化している、とみるのが妥当でしょう。
なお、性格の偏りか妄想性障害か、区別が難しいケースでは、しばしばこの【3773】のケースのように統合失調症の家族歴があるものです。
以上が精神医学的真実であると私が考える答えですが、公式の診断基準によって診断するとすれば、妄想性障害か、または、妄想性パーソナリティ障害ということになるでしょう。

2つ目は、もうすぐ80歳という年齢もあるし、今まで30年近く放置しても悪化はしなかったので、このまま放っておこう(たぶん悪くはならないだろう、家族以外に人付き合いもあまりないからトラブルもないだろう)と楽観的に考えているのですが、

この問いには本来は精神医学がきちんと答えなければいけないのですが、現実には、現代の精神医学では明確な答えをすることは不可能です。このまま放っておいても大丈夫かもしれないし、大丈夫でないかもしれない、というのが正直な答えということになります。

(2019.1.5.)

05. 1月 2019 by Hayashi
カテゴリー: パーソナリティ障害, 妄想性障害, 精神科Q&A, 統合失調症 タグ: |