【3400】1年入院しましたが改善の兆しが見えません(【2187】、【2822】、【2973】【3043】のその後)

Q: 【2187】長年引きこもりの兄について、   【2822】長年引きこもりの兄を受診させたいのですが、母は「あの子は可哀想なんだよ」というだけなのです(【2187】のその後) 【2973】10年以上ひきこもりの兄をようやく入院させました(【2822】のその後)
【3043】長年引きこもりだった兄は、統合失調症ではなく、発達障害と診断されました で兄について回答いただいた30代女性です。

あれから兄は1年以上現在も入院生活が続いています。その後入院してからは薬物療法も開始とはならず長い経過の中で内服治療が半年前ほどから開始されました。はじめは病名も憤怒性?的なものの病名で統合失調症とは診断されませんでした。入院生活のなかでようやく幻聴が聞こえているようだとのことで統合失調症と診断を受けました。今の状態としては目もうつろで表情がないです。本人はやせるために入院になったと認識でした。入院当初は自分が太っていることに衝撃を受けていました。やせることで退院させてとずっと訴えていました。タバコやお酒もやめれたと話し退院したいと話してきます。現在も身の回りのことは促さないとできません。感情・意欲低下は改善していません。ただ怒りっぽいのはなくなり攻撃的なことは減ったように思えます。病院の先生も家での生活は無理であろうとであろうといわれました。しかし、兄の訴えは家に帰りたいとの一点ですが希望通りにはさせれず家族もつらいのと同時に本当にほっとしているのも本音です。穏やかな生活を送れているのも事実です。兄が一度家族へと手紙を書いてきましたがアルバイトをして婿養子先を見つけますと書いてありました。また家の電話をかなり鳴らすのですが母も怖くて出れず電話を切っています。母はあの入院以降兄とは会っていません。私と父だけ面会しております。母のことをどう思っているか聞くと厄介払いができたと思っていると言っていました。母を恨んでるのかはわかりませんがこの先の母との関係もどうしたものかと悩んでいます。本人の意思が通らないため主治医を変えたいとこの人はダメだと転院について希望してきました。転院先もこの先自宅にに帰れないようであれば見つからないのではないかと思います。入院中の面会で他の患者さんの中で一番ひどい表情のように思えました。目もうつろで目ヤニだらけの顔、促すとついてくるがロボットのようでした。病室の中は物であふれています。またこだわりも強くこの色のパーカー、このサンダル、これと同じようなスリッパがほしいと要望してきます。このようなところは以前と同じに思えます。

長い経過無治療であったことが本当に悔やまれます。今この経過を踏まえ家族に同じような方がいたら一日でも早く病院へ連れて行ってほしいと思っております。一般的な統合失調症の内服薬ですが全然改善していないように思えますが良くなるのでしょうか? 主治医の先生のとのの会話でも話がかみ合わないことが多いそうです。先生からみて兄のような患者さんはどのような経過をたどるんでしょうか? 教えていただけたらありがたいです。また先ほども言いましたが母との関係で面会をしないほうがよいのでしょうか?
よろしくお願いします。

 

林: 経過のご報告をいただきありがとうございました。
やっとの思いで入院治療の開始にこぎつけたのにもかかわらず、一年以上たっても改善がないとのこと、落胆をお察し申し上げます。

一般的な統合失調症の内服薬ですが全然改善していないように思えます

このような場合に考えられることは大きく分けて二つです:
(1) 薬物療法が不適切である
(2) 薬物療法は適切だが、難治性である

この【3400】のケースが(1)(2)のどちらであるかはわかりません。しかし一つ気になるのは、

入院してからは薬物療法も開始とはならず長い経過の中で内服治療が半年前ほどから開始されました。

という点です。【2793】10年以上ひきこもりの兄をようやく入院させましたの回答に私は、

「まだ入院したばかりですし、これまでの症状を医師は直接は見ていないので、まずは薬なしで状態を正確に把握したうえで、最適な薬物を開始するという方針であると思われます。
一般的には入院後すぐに薬物療法を始めるのが当然ですが、この【2973】のケースでは、すでにかなり慢性的に経過していますので、一日も早く薬を始めるよりも、状態の把握のほうが重要であるというご判断なのでしょう。」

とお書きしましたが、「薬なしで状態を把握したうえで」というのはあくまで「まずは」という話であって、半年(またはそれ以上でしょうか)も薬物療法を開始しないというのはかなり異例のことです。たとえ幻聴の有無が確認できなくても、これまでの経過と今の状態からみて統合失調症であることは明らかですから(または、非常に慎重な立場を取って、「明らかとまでは言えない」と判断したとしても、最も可能性が高い診断が統合失調症であることは確かです)、入院して半年も様子を見るというのはとても賛同できる方針とは言えません。すると担当医は統合失調症の治療に精通していないではないかという疑いが否めず、すると上記 (1) 薬物療法が不適切である という可能性も強いと考えざるを得ません。このメールには

一般的な統合失調症の内服薬です

と書かれていますが、たとえ処方されている薬の名前が統合失調症の治療薬として一般的であっても、投与量や変更のタイミングなどが適切でなければ、不適切な薬物療法であることは十分にあり得ることです。

もっとも、もう一つの (2) 薬物療法は適切だが、難治性である の可能性も十分に考えられます。「難治性」という意味は、この【3400】のケースでは、 A. そもそも薬が効きにくい、 B. 長年放置され慢性化し、人格荒廃が進んでしまっている の2種類を含んでいます。(「難治性」は、通常はAの意味で用いる言葉です)
B.であれば、今の状態でこれからの生活をどう送るかということを考えるということになるでしょう。 A.であれば、薬としてクロザピンの使用が選択肢になります。

なお、

母との関係で面会をしないほうがよいのでしょうか?

これについてはわかりません。面会はプラスに働くかも知れませんし、マイナスに働くかもしれません。

(2017.4.5.)

05. 4月 2017 by Hayashi
カテゴリー: 精神科Q&A, 統合失調症 タグ: |