【3356】発達障害の男子高校生に告知すべきか
Q: 私は40代の女性です。
親戚の男子高校生について質問します。
彼は16歳の高校1年生です。
彼は小学4年生のころ、担任の先生に勧められて、病院を受診しました。
WISC-IIIを受け、言語性I.Qは約135/動作性I.Qは約100/全検査I.Qは約130でした。
その後、中学卒業まで特別支援学級に通い、高校から普通学級に通って現在に至ります。
小学校高学年の頃まで、他人とろくに会話をせず、気に入らないことがあると物を投げつけたり大声を上げたりして癇癪を起こしていましたが、中学校に入ると少しずつ聞き分けが良くなり、姿勢も落ち着いて、そういった派手な行動は取らなくなりました。
しかし、常識的にそれはご法度だろうと思うような行動をしばしば取ります。
例えば、本人にとっておもしろくないと感じること(些細な小言や退屈な授業などがそれにあたると思いますが明確な基準はないためあくまでも本人の気分次第のように思われます)があると突然その場から抜け出して帰宅したり、信頼関係を築いてきたかと思われる人物(家族や先生や友人など)に対して突然約束をすっぽかしたり大きな責任を放棄したり、種類は様々ですが、周囲があまりの急な展開に拍子抜けしてしまうほど、今ある何かをバサっと切り捨てます。
とはいえ、本人はけろりとしていて、まるで罪悪感がありません。
なぜそれをしてはいけないか、それをされると相手はどのように感じるか、理論立てて説明すると反省することもありますが、その気持ちが次に活かされることはなく、何度でも繰り返します。
また、物の管理や時間の管理、空気を読んでその場に適した行動を取ることも苦手です。
遅刻や忘れ物やなくし物などは日常茶飯事ですし、例えば誰かと2人きりになってこれから会話を始めようという雰囲気になっても、平然と耳にイヤフォンを装着して音楽を聴き始めてしまうなど、本人に悪気はなくても、相手を不快にさせる行動を取ってしまいます。
これらについても上記と同様に話をしますが、反省はしても、なかなか覚えられません。
一方、勉強は極めて得意です。
例えば数学は、授業を受けず、公式を知らなくても、自分なりに考えて「おそらくこのくらいだろう」という暫定の数字を導き出します。どういった思考回路なのか聞いても、私自身の能力では追いつけず、なかなか理解できません。明確な答えを書かなければならない記述式の試験は厳しいこともありますが、選択式の試験であればこの方法で高得点を取ることができます。
また、国語は、読書量や習得語彙が非常に多く、原稿用紙に向かうと個性的で魅力的な文章を短時間で書き上げます。小さなコンクールであれば容易に賞を取ることができます。
記憶力も優れているため、社会系、理科系、英語系など、暗記科目も得意です。聞いたり読んだりすれば、だいたい覚えてしまいます。
また、頭脳ゲームは大体どんなものでも得意で、大きな大会で優勝するくらいの能力を持っています。
これは私の個人的な見解ですが、彼は、自分の不得意なコミュニケーションという分野について、なんとか頭で記憶し、対応しているように思えます。
例えば「人に助けられたらありがとうと言う」「人を悲しませたらごめんなさいと言う」など、ひとつひとつ記憶し、場面にあわせてその都度引き出しを開けるかのように、行動に移しているという印象です。
彼は、人に興味がなさそうにも見えますが、人とコミュニケーションを取ったとき、とても嬉しそうにすることもまた事実です。友人などいらないと言いつつ、友人に声をかけられると明るい笑顔で嬉しさを語ります。それでもコミュニケーションの取り方がよくわからないため、いわゆる普通のやり取りというものを頭で記憶し、乗り越えているのではないかと思うのです。
現在、彼は普通学級の高校に在籍していますが、特別支援学級の中学校時代に比べると、やはり生活はしんどそうです。
まず、学校に行ったり行かなかったりで、試験当日さえ大事だとわかりつつ突然欠席してしまうため、先生から、進級できるかできないかの瀬戸際に立たされていると言われています。
本人は危機感がなく、高校を卒業することに意味を見出せないから興味がないと言っています。周囲の者としては、高校くらい卒業してほしいと思い、話をしますが、水と油のように私たちの気持ちが交差することはありません。
かといって、高校を辞めたら社会人として生きていかなければならず、本人にその覚悟はありません。仮に就職したとしても、すぐ欠勤が続き、辞めてしまう姿は想像に難くありません。
彼はどのように生きていけば良いのか、どうすれば生きやすくなるのか、わかりません。
何かアドバイスがありましたら、ご助言いただけると助かります。
なお、母親(私の姉にあたります)は、本人に発達障害であることを伝えていません。
私としては、本人が自覚を持ち、適切なサポートを受けられるためにも伝えたほうが良いのではないかと思うのですが、母親は隠し通すつもりでいます。
彼のようなタイプの子に対して、伝えることによるデメリットはどんなものがあるのでしょうか?
林: 彼には発達障害であることを伝えたほうがいいと思います。
伝えることによるデメリットはもちろんあります。自尊心を傷つけることがあります(【1712】私がアスペルガーだなんて、一生認めてやりませんなどをご参照ください)。あるいは、治療に非現実的な効果を求め、自己努力がなされにくくなることがあります。
けれどももちろん伝えないことによるデメリットもあります。改善し社会によりよく適応するための方策を知る機会が失われることになります。逆にその機会が得られることが、伝えることのメリットです。そしてこの【3356】の男子高校生は、適切な方策を知れば、それを身につけるだけの能力をお持ちだと思います。そう思える根拠は、
彼は、自分の不得意なコミュニケーションという分野について、なんとか頭で記憶し、対応しているように思えます。
例えば「人に助けられたらありがとうと言う」「人を悲しませたらごめんなさいと言う」など、ひとつひとつ記憶し、場面にあわせてその都度引き出しを開けるかのように、行動に移しているという印象です。
このように、自身の問題を理解し、それを克服するための自己努力をし、それがある程度までは功を奏していることです。いわゆる高機能自閉症の方の中には、この【3356】のケースのように、人間関係において「こういう時はこうするものだ」ということを頭で学習し、学習したとおりいわば演技することによって社会適応している方がかなりいらっしゃいます。
この【3356】のケースが、自分が発達障害であることを教えられたとき、それでも自己努力だけでやっていこうとするか、それとも発達障害についての知識を得ることによって(それもまた自分の力だけで調べる方法もあれば、専門家の支援を受けるという方法もあります)、より効率良く学ぼうとするかはわかりません。けれどもそれを選ぶ機会を本人に与えるべきであって、そのためには発達障害であることを伝えることが第一歩です。
お母様が、本人に発達障害であることを伝えたくないと考えることにはそれなりの理由があり、その理由はそれなりに合理的なものであると推定できます。けれども現代においては、親が伝えなくてもいつかは別の情報源から自分が発達障害であることに気づくと考えなければなりません。その時点でご本人は、親がわかっていたのならもっと早く教えてほしかった、そうすればもっと生きやすくなっていたのに、と思うでしょう。
したがって、
私としては、本人が自覚を持ち、適切なサポートを受けられるためにも伝えたほうが良いのではないかと思うのですが、母親は隠し通すつもりでいます。
質問者が正しく、母親は間違っていると思います。
(2017.1.5.)