【3247】ここ数年様子がおかしい弟は、統合失調症ではないのか

Q: 私は社会人20代の女です。実家暮らしをしているのですが、同居している弟の様子がここ数年おかしいので診断していただきたくメールいたします。
弟は高校までは優秀な成績で、真面目であり、部活にもただの一日も欠席せず通っていました。ですが、高校生活半ばで破綻し、中退しました。段々と学校を休みがちになり、成績と出席が規定に満たなかったためです。
それから数年間、約4年近くもの間、弟は実家でニートのような毎日を送っています。
弟の様子は日に日に悪くなっていき、外のちょっとした騒音や、人の歩く音にも怯えるようになりました。

はじめは、将来への不安等からナーバスになっているのかと思いましたが、次第に「他の人たちは僕の弱さを見抜く目を持っている。いつも僕だけを標的にしようとする。だから、もう社会には出ない」「外で騒いでいるやつらは、どうだすごいだろ、お前にはできないことだろって、友達作りを見せびらかしている」「見えない神様が、僕の思考を先回りしている。だから、願ったことだけは絶対叶わないシステムが僕の人生には構築されている」な
どおかしな言動をするようになりました。

客観的に見て弟は明らかに異常であり、夜中私がトイレに起き出すと、「生活が充実しているから、わざと大きな音を立てて得意げになっているんだろ!」とものすごい剣幕で怒り出し、気分転換に外出に誘っても、身体をこわばらせ、目をぎらつかせながら「いつ襲われても」いいようにと緊張状態が解けません。

日中突然叫びだしたり、外出の際には夏場でも全身が隠れるようマスクとフードを被るようになりました。元々は汚れ等に無頓着だったのですが、自分の部屋以外にあるものに触れるときは、手と、足をアルコールで消毒する「儀式」を行なうようになりました。
唯一の趣味である古本集めでは、他人が手を触れることはもちろん、何の本を読んでいるのかと質問することも禁止で、買った本は「他の客の手垢を落とす」ためとして、カバーがぼろぼろになるまで紙やすりで磨いてから本棚に飾っています。彼の部屋には数千冊近くの本が読みもせず、部屋全体を囲うように置いてあります。

とくに酷いのが、感情の浮き沈みです。町で子供にぶつかられただけでカッとなり、そのまま全速力で追い掛け回そうとしたことがありました(同伴していた私と父が、何とか止めました)。突然ナンパをすると言い出して外出し、あろうことか中学生に声をかけて警察沙汰になりかけたこともあります。物に当り散らし、部屋の壁もぼろぼろです。
一方で、落ち込んだときには自殺をほのめかし、実際に部屋から輪を作ったロープや七輪が見つかり、取り上げたこともあります。
もちろん、精神科にも何度も連れて行ったのですが、本人にその気がないため連れて行くのも一苦労であり、行ってもかたくなに無言、無反応を貫くために正確な診断はできないままです。ただ、症状だけを私が医師に伝えたところ、統合失調症の可能性があり、入院治療も検討するべきだという意見は何度かいただきました。
このメールでのご意見次第では、今度こそ強制入院でも何でもしてもらい、治療させるつもりです。どうか診断をよろしくお願いいたします。

 

林: 統合失調症にまず間違いないと思います。

弟は高校までは優秀な成績で、真面目であり、部活にもただの一日も欠席せず通っていました。ですが、高校生活半ばで破綻し、中退しました。段々と学校を休みがちになり、成績と出席が規定に満たなかったためです。
それから数年間、約4年近くもの間、弟は実家でニートのような毎日を送っています。

このような経過で発症するのは、統合失調症の典型的な一つの形です。
もちろん、「高校生活半ばで破綻し、中退しました。段々と学校を休みがちになり」という経過は、単なる(ここで「単なる」というのは、統合失調症のような精神病ではない という意味です)引きこもりの可能性も十分に考えられます。
けれども、

弟の様子は日に日に悪くなっていき、外のちょっとした騒音や、人の歩く音にも怯えるようになりました。

この状態は、何らかの被害妄想の存在を窺わせるもので、引きこもりとあわせて、統合失調症を発症している可能性がこの時点でかなり大きいと考えるべきところです。

はじめは、将来への不安等からナーバスになっているのかと思いましたが、

というふうにご家族がお考えになるのはよくあることですが、

次第に「他の人たちは僕の弱さを見抜く目を持っている。いつも僕だけを標的にしようとする。だから、もう社会には出ない」「外で騒いでいるやつらは、どうだすごいだろ、お前にはできないことだろって、友達作りを見せびらかしている」「見えない神様が、僕の思考を先回りしている。だから、願ったことだけは絶対叶わないシステムが僕の人生には構築されている」などおかしな言動をするようになりました。

ここまで来ると統合失調症であることはほぼ間違いありません。被害妄想の色彩があることに加え、「僕の思考を先回りしている」という体験は、統合失調症にかなり特異的な自我障害を反映しているとみることができます。

ここから後の奇異な言動は、統合失調症の症状に非常によく一致しており、高校中退のころからの経過とあわせ、統合失調症の診断は間違いないと言えます。

症状だけを私が医師に伝えたところ、統合失調症の可能性があり、入院治療も検討するべきだという意見は何度かいただきました。

その通りです。

このメールでのご意見次第では、今度こそ強制入院でも何でもしてもらい、治療させるつもりです。

是非そうしてください。
ご家族の中には、本人が嫌がっているのに治療するのはかわいそうだというご意見の方もいらっしゃるかもしれませんが、病気なのに治療を受けさせず悪化させてしまうほうがはるかにかわいそうです。

なお、ひきこもりから始まり、ご家族は病気とは思わず様子をみているうちに統合失調症がどんどん悪化していくというケースは非常にはしばしば見られます。治療法があるのにそれを受けさせず放置するのはご本人にとって実に気の毒なことです。統合失調症という病気があり、この病気はひきこもりから始まることがしばしばあることがもっと広く知っていただくことで、そのような悲惨な経過を減らしたいという思いから、私は最近このことを医療プレミア  の Dr林のこころと脳と病と健康  に書きましたので、ご参照ください。

(2016.7.5.)

05. 7月 2016 by Hayashi
カテゴリー: 精神科Q&A, 統合失調症 タグ: , |