【3091】統合失調症の職員への対応について

Q: 私は40代女性で、介護施設の管理者をしております。その施設に1年ほど前から統合失調症の30代の女性が勤務しています。実習、面接の後、まず午前中だけの勤務から始め、今では日に8時間、月に15日間程働いてもらっ ています。病気の事は面接の時に話してくれました。素直で優しい彼女は利用者からも他のスタッフからもかわいがられています。頼まれた事は断ることなく、なんでも笑顔で受ける彼女に不安を感じて精神科の医師による統合失調症の勉強会に参加したり本を読んだりし、無理のないよう勤務を見直しつつ、それなりに上手くいっているんではないかと思っていました。服薬もきちんと出来ている、との事でした。先日、休憩中の何気ない会話の中で、「買い物に行ったら前方を歩いている人達がみんな私の悪口を言っていて・・・」と彼女が言っていたのを聞きました。もしかしたら、悪い状態なのではないか、再発したのではないか、とても心配になりました。なんとか良い状態を保ち、幸せに過ごして欲しいと強く思います。上司として気を付けること、注意しなければいけない事等あれば是非教えて下さい。

 
林:  職場管理者である質問者のご配慮と、本人の適切な治療の結果、この統合失調症の30代女性は、非常に良い形で社会生活を送っておられることが読み取れます。そんな中で、

先日、休憩中の何気ない会話の中で、「買い物に行ったら前方を歩いている人達がみんな私の悪口を言っていて・・・」と彼女が言っていたのを聞きました。

この言葉に着目されたこともまた、職場の管理者として適切なことだと思います。
安定している統合失調症の方からこのような言葉が聞かれた場合、

(1) 確かに安定しているが、実は軽い症状(たとえば被害妄想や幻聴など)は常に存在していた。それが今回、たまたま口にされた。

(2) 症状(たとえば被害妄想や幻聴など)は、ほぼ完全に消えていたが、何かの原因で再発しかかっている。

という二つの可能性が考えられます。(細かく言えば、この二つの中間的なものも考えられますが、説明をシンプルにするためこの二つにしぼることにします)

(1)であれば、特にいま心配することはありません。(1)のようなケースは膨大に存在します。精神科での診察時には、軽い被害妄想や幻聴があることを述べられても、実社会ではほとんど口にすることがなく、したがって周囲の人はその人に症状があることに気づかない、時には統合失調症であることさえ気づかないことさえあります。
ですからこの【3091】のケースも、上記の(1)であれば、これまで通り仕事をしていただいて全く問題はありません。

(2)の場合は、何らかの対応が必要です。(2)に記した「何かの原因」は、ストレスということもありますが、最も多い原因は薬の飲み方が不規則なっていたり、薬をやめていたりした場合です。いずれにしても、精神科の医師による対応が必要です。再発しかかっている場合、職場での対応によって食い止めるのは困難です。

問題は、(1)か(2)かが、周囲の方には容易に判定できないことです。今回のような言動が、単に一回聞かれただけでなく、しばしばあれば、(2)の可能性が高まります。また、今回のような言動は聞かれなくても、仕事のやり方に変化が見られれば、それも再発の徴候と見ていいでしょう。したがって、職場の管理者としては、この方の様子にこれまで以上に気を配ることが望まれます。

(1)だとしても(2)だとしても、精神科に定期的に通院し、きちんと薬を飲むことは、ベースとして必須です。服薬までは職場の管理者が確認することは通常困難ですが、通院に関しては、さりげなく確認し、万一不規則になっているようであれば、元のとおりの定期的な通院を促すことで、再発防止につながることが期待できます。

(2015.11.5.)

05. 11月 2015 by Hayashi
カテゴリー: 精神科Q&A, 統合失調症