【2967】暴力と罵倒を続ける母

Q: 40代女性です。父・母・弟の三人が同居で、私は家を出ております。
ご相談したいのは母(70歳代)についてです。
母は、私のごく小さな頃から家族に対して暴力を振るう、暴言を吐く、叫ぶということが頻繁にありました。私自身は幼少期より躾のため母から罵倒を伴った殴る蹴るを少なくとも週に1~2回は受けるということが10数年続いておりました。大学進学をきっかけに実家を離れた後は、母から電話を度々受けるようになり、父やご近所についての母なりの悩みが思うように娘に伝わらない焦りからか、母は私に激しい罵倒を10分から数10分おきの数回にわたる電話で浴びせるようになりました。これらの混乱に繰り返し応対するにつれて私は精神的に少し応えてきまして、勉強や仕事で忙しかったこともあり、母とは距離を置くようにしてきました。

母は、自分を正義の人・まじめで優秀な人だと思っております。冷静な時は正論を述べることには長けているため、一面そのようにも見えます。
しかし、他人とのちょっとした意見の相違や記憶の食い違いについて、相手が「自分に誤りがあった」という態度を示すまで、激怒し、許しません。相手が家族の場合は、休日は昼夜を問わずクレームを発信し続け、暴言・暴力も頻繁にあります。父が会社員だった時は、父へクレームを言うために勤務先へ電話をすることもしばしばありました。生活の中の些細なことでも、母の思ったようにならないと、日常生活の維持が困難となるレベルでトラブルとなります。
親戚や近隣住民などとのトラブルも多いです。親戚については母自身の兄弟、および父の兄弟との交流を絶っています。父方の祖父母(父の父母)の存命中は彼らとの交流も絶っていました。ただしこれは、ときにより許してもらえることもあり、父方の祖父母の葬儀の折には、父は母と揉めた後ようやく父の両親の葬儀に出ることを許されました。また、母は近所の人達の一部に対しては「自分の行動を監視している」という認識により真剣に悩んで怒ったり、その認識に基づく作為や、その他父を連れて近隣のお宅にクレームを言いに行くことが何度もありました。その際には父は母とは異なる考えを持っていても、嫌々ながらついて行っていました。また、母は父や私たち兄弟に対してもトラブルとなった親戚や近隣との(挨拶を含めた)交流を禁じています。

次に、先ほどの暴言・暴力についてですが、例を挙げると以下のようなものです。
・弟は社会人になってからも経済的な負担や体調不良の際両親の世話になっていたことがあります。このことを取り上げ、たとえば母と意見が合わないと「お前は通常以上の世話を受けていながら親に対して反論する立場にない」といった暴言により、弟を支配しようとします。父に対しても暴言や次に挙げる暴力により支配的な態度をとるのは同様で、父は母に対し、「奴隷になります」と繰り返していたほどでした。
こうした暴言はたとえば「お前の人生をめちゃくちゃにしてやる」、「消えてしまえ」、「死んでしまえ」など極端なものも多く、何かのきっかけがあると母自身の気がすむまで長時間・長期間にわたり続きます。
・暴力については、殴る・蹴るなど一日で数十発に及ぶこともあります。私も弟も、物心ついた時から現在まで母に対しては恐怖感を常に持っています。父は集中的に頭部を殴打されることがたびたびあり、それがもとで手術を受けた片目は視力をほぼ失っています。
・高齢になってから父が自宅のトイレで尿をこぼしたことがあったことから、母は父に自宅でのトイレ使用を禁止し、父は自宅近くの公衆トイレで用を足していた時期がありました。また冬場の暖房器具を取り上げられていたのも同じ時期です。

最近は、母の他者に対する猜疑心、警戒心とそれにともなう実際の行動(窓に覆いをかける、隣人の些細な行為を「わが家を監視している」という解釈に結び付けて興奮するなど)、母と家族や周囲の人々との間の認知の不一致の程度など、全てが悪化しているという見方は、姉弟の間で一致しております。行動が自由にできない弟と父は軟禁状態のようになっており、歩み寄りや生活上の調整のための言葉などは一切母に届かず、それらを試みた時には必ず暴力や暴言となって返ってくるだけで、さらには一度謝罪した後も繰り返し話を蒸し返され、謝罪はむしろ暴言や罵倒が質量ともに増幅される原因にさえなってしまうことも度々で、手の施しようがありません。そうした家庭内の困難に対しては、別居の私がもっとしっかり対処するべきであったと悔やまれ、また、私が父の看病を一切手伝っていないことについても言い訳の余地はありませんが、私たち家族への暴力、またご近所や勤務先への母の奇行による私たち姉弟の勤務等への悪影響(退職、解雇など)に対する恐怖心が和らぐことはなく、親戚をも含む外界への連絡がほぼ完全に断ち切られてきて、今もそれが続いている中、家庭内の困難に対して手を打つことが全く出来ておりません。

以上、ごく一部をお伝えしたことについては、母なりの言い分(「原因は相手にある」ということなど)はもちろんあると思います。それにしてもあまりに逸脱したレベルではないかと私は思っています。しかし口論になっても母は「お前の主張は聞く必要がない。なぜならお前の思考はいつも誤っているからだ。」という態度で一方的にまくし立てるため、こちらの主張を聞き入れてもらえませんし、そもそも記憶違いや意見の違いを突き合わせて話し合い、歩み寄るための、その説明をする余地もありません(常に相手が誤りであるという前提で考えているのです)。また、同居の家族の通帳等は母が管理しており、経済的な部分で父ばかりでなく勤務がある私までも母に完全に支配されているため、強く主張できない状況でもあります。さらに、父とも私たち兄弟とも対立してきた母は、父や弟が私と連絡を取ることを許さず、父と弟が親しく言葉を交わすことについても不快な様子ですし、外出する際も母の合意を得る必要があるなど、母の言いなりの日常生活になっています。

このような日常から、将来的に見て不安な点が非常に多いのです。例えば、父は一度倒れて入院してからは母と対立する気力・体力がなく、父の介護の役割を母が果たしているためか、以前のような母から父への暴力は収まっていますが、現在でも時折、母は激怒すると父を小突くことがありますし、老衰のため抵抗できない父に対して、今後母の暴力が再開する可能性が高く、非常に心配しております。また、母は私達姉弟に対しても強い不満を抱いており、私達それぞれの勤務先に連絡して家族への不満を勤務先に訴えたいなどという発言を繰り返しておりますが、各々の勤務先で人に迷惑をかけたり、私達の職場での人間関係を悪化させたり、最終的には退職や解雇に追い込まれたりすることにならないかと恐れております。その他ここに挙げていない母の様々な言動についても深刻な悩みになっています。

すでにいくつかの機関に相談し、事態の打開を模索しようとしましたが、相談機関の方々も回答に困る事例であるようで、そのようなわけで今回、林先生にお便りでお尋ねしてみようと考えました。私がお尋ねしたいのは以下の点です。
第一に、上のような母の暴力的な言動と、母本人が訴える長年の体調不良(だるさ等)などから、病気であるのか、病気である場合にはいかなる病気であるのか、ご教示いただくことはできますでしょうか。母は暴言と暴力の程度が激しく、生活における会話では論理的な話し方が出来るときと論理が破たんするときの両方があることから、はたして精神科を受診した方がいいのかどうか、今まで長い間判断しかねてきました。ご近所に対して母が考えていること、また、記憶違いによる言い争い(記憶違いは母側だけに原因があるとは限りませんが)がやや目立つことからすると、このサイトで言及される症状と似ている気もしますが、それもよく分かりません。
第二に、病気の可能性がある場合、病院で診察を受ける運びとなりますが、その際、本人は到底受診を承諾しないと思われ、暴力の問題がこれまでの例よりも深刻になることが考えられます。そうした事態を未然に防ぐ手立て(法律や支援してもらえる公的機関など)をあらかじめ探しておこうと複数の人や機関に問い合わせましたが、これまで聞いたところではそのような手立ては「ない」という結論となるようでした。林先生のご専門の範囲でこの結論とは異なるご見解がありましたら、お教えいただくことはできますでしょうか。また、精神科の受診以外にも解決方法がございましたら、ご教示頂きたいと思います。

なお、この文章には、私の弟の加筆修正部分が含まれています。

林: お母様が異常であり、周囲がこれだけ被害に遭っている以上、何らかの介入を必要とすることは確かです。
全体としては、非常に独善的で執拗、そして暴力的という人物像で、パーソナリティ障害を思わせますが、

母は近所の人達の一部に対しては「自分の行動を監視している」という認識により真剣に悩んで怒ったり、その認識に基づく作為や、その他父を連れて近隣のお宅にクレームを言いに行くことが何度もありました。

最近は、母の他者に対する猜疑心、警戒心とそれにともなう実際の行動(窓に覆いをかける、隣人の些細な行為を「わが家を監視している」という解釈に結び付けて興奮するなど)、母と家族や周囲の人々との間の認知の不一致の程度

これは統合失調症や妄想性障害の被害妄想として比較的典型的なものです。お母様が質問者が幼少の頃から異常性が見られたことをあわせると、そのころ(つまりお母様が20代の頃)発症し、治療を受けないまま人格変化が進んでしまったということが考えられます。しかしこれだけでは何とも言えません。妄想性パーソナリティ障害かもしれません。

また、

記憶違いによる言い争い(記憶違いは母側だけに原因があるとは限りませんが)がやや目立つ

母と家族や周囲の人々との間の認知の不一致の程度

この「記憶違い」「認知の不一致」とは具体的にどのようなものか、それによっても考えられる診断は違ってきます。

第一に、上のような母の暴力的な言動と、母本人が訴える長年の体調不良(だるさ等)などから、病気であるのか、病気である場合にはいかなる病気であるのか、ご教示いただくことはできますでしょうか。

上記の通り、統合失調症や妄想性障害の可能性はあります。そうであれば、精神科での治療により改善が期待できます。しかし、おそらくは人格変化が進んだ状態であり、著明な改善は難しそうです。一方、パーソナリティ障害だった場合、このメールの内容からすると、ほとんど改善は期待できないでしょう。

第二に、病気の可能性がある場合、病院で診察を受ける運びとなりますが、その際、本人は到底受診を承諾しないと思われ、暴力の問題がこれまでの例よりも深刻になることが考えられます。そうした事態を未然に防ぐ手立て(法律や支援してもらえる公的機関など)をあらかじめ探しておこうと複数の人や機関に問い合わせましたが、これまで聞いたところではそのような手立ては「ない」という結論となるようでした。

その結論が正しいと思います。

被害を受けないためには本人を隔離するか、周囲が避難するしかないでしょう。

精神科の受診以外にも解決方法がございましたら、ご教示頂きたいと思います。

法的手段しかないでしょう。お母様の所業は、すでに傷害罪に相当するものです。

(2015.5.5.)

05. 5月 2015 by Hayashi
カテゴリー: パーソナリティ障害, 妄想性障害, 精神科Q&A, 統合失調症