【2949】うつ病回復後の睡眠障害が改善しません

Q: 私は、40代後半の男性です。職業は、某メーカのエンジニアです。X年10月に、何もやる気が起こらない、 倦怠感、悲壮感等が生じたため、心療内科に受診し、うつ病と診断されました。その後、7ヶ月間会社を休職し、 この期間、1週間毎の通院と服薬にて治療を行ってきて、X+1年5月に復職しました。復職に対して、所属部署 も変えてもらいました。復職後も、現在に至るまで2週間毎に通院と服薬にて治療を実施中です。

そもそも、うつ病になった原因は、私は感音性難聴で補聴器は使用しているものの、会社での会話や会議での 聞き取りが50%くらいしかできなく、非常にストレスであったこと、並びにX年度には管理職に昇進し、聞くことについていっそう重要性が増し、これもまたストレスを増強させたものと思っています。現在では、補聴器は音の周波数 帯域によって聞こえのレベルを調整できる高級なものにしており、1対1の会話など近い会話では聞こえの不自由は 改善されましたが、比較的大きな会議等で話が遠くなると、聞き取りが50%〜70%くらいになり、現在もまだストレス となっております。

話は戻りますが、うつ病と診断されてから最初の約2ヶ月間は、ほとんど寝たきりで食欲も無く何もやる気は起こりませんでした。3ヶ月目くらいから昼間起きておけるようになり、軽い散歩等を行ったりし、うつ症状も徐々に軽くなっていき、復職に至ったわけです。この期間に処方された薬は、いろいろと変わりましたが、復職時には、
・レキソタン錠2・・・毎食後1錠
・ウルソ100・・・毎食後1錠(血液検査で肝機能に若干の障害があるということで処方された)
・アモキサンカプセル25mg・・・朝食後1カプセル
・エバミール錠1.0・・・就寝前1錠
・ハルシオン0.25mg錠・・・就寝前1錠
・ヒルナミン錠(5mg)・・・就寝前1錠
・デンシル錠25・・・夕食後1錠
・ルボックス錠25・・・昼夕食後3錠

です。復職後には日中の仕事中の強い眠気に悩まされました。また、睡眠・覚醒のリズムが異常となり、夜眠れなく、 日中強い眠気で眠ってしまい、X+1年9月に3週間ほど休職しました。そこで、処方された薬は、

・レキソタン錠2・・・毎食後1錠
・ウルソ100・・・毎食後1錠
・アモキサンカプセル25mg・・・昼夕食後2カプセル
・エバミール錠1.0・・・就寝前1錠
・ハルシオン0.25mg錠・・・就寝前1錠
・ヒルナミン錠(5mg)・・・就寝前1錠(X+1年11月より止め)
・ルボックス錠25・・・昼夕食後3錠
・リタリン錠・・・朝食後1錠(X+2年12月より朝食後2錠に追加)

です。その後も、X+2年3月と現在の2回、前述の睡眠・覚醒のリズムが異常となることにより、それぞれ3〜4週間ほど
休職(X+3年6月現在休職中)しています。うつ病が大分回復しての復職後、最初の休職(X+1年9月)以降、睡眠・覚醒 のリズムが、夜は9時〜10時に寝て、12時ごろ一旦目が覚めますが、再度眠り3時前後には目が覚めてしまうというリズム (睡眠時間:4〜5時間)が続いています。このため、会社には5時前後に出社し、19時前後に退社するという毎日で、仕事中 は眠くなることが多く、リタリンを服用して眠らないようにしている状況です。

主治医からは、うつ症状は大部分回復しているが、睡眠障害があるということで、朝3時前後に目が覚めても再度眠って 5〜6時ごろまで睡眠を延ばすように指示を受けていますが、なかなか眠れなくて起きてしまっています。2回目と3回目 (現在)の休職は、この睡眠障害のしわ寄せが原因で睡眠・覚醒のリズムが異常(夜眠れなくなり日中眠る)となっているのだろうとの診断です。この睡眠・覚醒のリズムを元に戻すことを治療方針として、現在処方されている薬は、

・レキソタン錠2・・・毎食後1錠
・ウルソ100・・・毎食後1錠
・アモキサンカプセル25mg・・・昼夕食後2カプセル
・ハルシオン0.25mg錠・・・就寝前1錠
・デプロメール錠50・・・夕食後3錠
・リタリン錠・・・朝食後2錠
・サイレース錠2mg・・・就寝前1錠
・ジプレキサ錠2.5mg・・・就寝前1錠

です。現在、夜は眠れるようになりましたが、以前と同じように必ず2〜3時間で目が覚めて、再度眠って(2〜3時間)、起きるというような状況で、例えば7時間ぐっすりと眠ることができません。また、日中は眠くなったらリタリンを服用するようにしています。

このように、睡眠障害が続くと(時には会社を休職しなければならない状況までなる)、憂鬱感、イライラ感、悲壮感が出て、 このまま会社勤務を続けることができるのだろうかと考えたりし、死んでしまいたい気持ちになったことさえあります。
うつ病と睡眠とは、相互関係があるものと、主治医から説明を受けたり、書物やインターネットから知識を得たりしてはい ますが、このように睡眠障害が出ている状態で、私のうつ病は回復しているのでしょうか。また、睡眠障害はこのまま続くの でしょうか(服薬によって直るのでしょうか)。

林先生のご意見をお伺いしたく、よろしくお願い致します。

 

林: うつ病の症状のうち、比較的回復が遅れがちなものの代表として、意欲低下を挙げることができます。【0986】意欲だけ回復しない私は擬態うつ病ではないでしょうか
 【1287】症状に波はありますが、うつ病は改善に向かっているようです(【1083】のその後)
【2414】うつ病で思考が退化してしまうことはありますか
【0679】うつ病がよくなり復職したのですが、まだまだ不安があります
などはその実例です。
睡眠障害も、実際には回復は意外に遅いものであると私は思っています。しかし意欲低下と異なり、睡眠障害は睡眠薬によってかなりすぐに改善できますので、回復の遅れが問題となることは現実には少ないものです。
このとき、睡眠薬による改善は一時的なものにすぎず、根本的な改善ではないという批判があればそれはもっともではありますが、睡眠を整えることがうつ病のさらなる回復・安定を支えますので、やはり睡眠薬によって睡眠を改善することは、うつ病の治療において必要なことと言えます。

この【2949】に目を向けますと、睡眠障害が問題であるのにもかかわらず、睡眠薬の処方が適切でないと言えます。この方の睡眠障害のパターンは

夜は眠れるようになりましたが、以前と同じように必ず2〜3時間で目が覚めて、再度眠って(2〜3時間)、起きるというような状況で、例えば7時間ぐっすりと眠ることができません。

とのこと、これは持続睡眠の障害に分類される睡眠障害であり、このような場合は作用時間の長い睡眠薬を処方するのが定法です。

実際にこの【2949】に処方されている睡眠薬は

・ハルシオン0.25mg錠・・・就寝前1錠
・サイレース錠2mg・・・就寝前1錠

の2種類で、このうち、サイレースは作用時間が長い薬ですが、ハルシオンは超短時間作用型で、したがって眠りに入りやすくする作用はありますが(このため睡眠導入剤と呼ばれることもあります)、持続的な効果は期待できません。この【2949】のケースが持続睡眠の障害に悩んでおられる以上、作用時間の長い薬の追加を試みるべきであるといえます。

また、毎食後に服用しているレキソタンが昼間の眠気を助長している可能性もあり、できればレキソタンの中止も試みたいところです。

また、

日中は眠くなったらリタリンを服用するようにしています。

このようなリタリンの使い方は極力避けるべきです。リタリンをこのように使うよりは、寝る前の睡眠薬を強くするほうがはるかに安全です。

(2015.4.5.)

05. 4月 2015 by Hayashi
カテゴリー: うつ病, 精神科Q&A