【2738】元気で狡猾な精神科入院患者たち

Q: 30代女性です。私は、今思えば幼少期から統合失調的なものを患っていました。10数年精神科を受診しております。当初は、罹患時期が長過ぎて完治の望みは薄い鬱、かつ、統合失調症も疑われる、と言われておりました。統合失調症と判明したのは5年ほど前の事です。幸い、信頼出来る医師と友人に恵まれ、少しずつでも楽になるから治療を続けて行こう、と言われております。

先生のサイトは自らの病の研究にいつも役立たせて頂いております。
ただ、このようなケースはどうお考えか、お伺いしたく送信させて頂きます。私自身の精神科体験です。

私は方々にご迷惑とご協力を頂きながら、四年生大学を卒業し、就職も致しました。ただ、就職=本格的に社会人になる、となると、メンタルが追いついていかず、度々錯乱し、転々としていました。現在は無職です。
無職になる前に、激しいパニックに陥り、主治医も必要と思ったため、また、私自身の、いい加減病から解放されたい、という強い意思もあり、普通病棟ですがひと月程入院致しました。ちなみに、主治医のクリニックは入院設備がないため、いつものクリニックとは違う病院です。

入院して、とにかく驚いたのが、他の入院患者のワガママさ、元気さ、でした。入院することを、お友達作りと混同している人が多かったのです。彼らはグループを作り、誰かを槍玉に挙げて陰口を叩き、新しく入った私へも、積極的に話しかけてきました。私は交通事故で2度入院したことがあるのですが、その時は無論、全患者が治療のために必死だったので、大部屋でもご挨拶はする程度、特に友達付き合いをしようとはお互いにしていませんでした。
話を聞くと、精神科入院患者の殆どが生活保護受給者でした。お金が底をつき、家を退去しなければならなくなると、入院するようです。生活保護なので、入院費もかかりません。食、住が保証される訳です。そして、入院期間中に家探しをして、しかも、不動産会社と結託して、生活保護範囲を大幅に超える家賃の家を借り、広い家を借りれたから恋人と同棲できる、と嬉しそうに語り退院していく人もいました。

また、生活保護ではなくても、お友達行動は強かったです。以前入院した時は友達が出来たけど、今回は出来ないから、という理由で退院していく人もいました。
そして、彼らのマナーの悪さです。「ここでは座り込んだり長居してはいけません」と書いてあるところでも、ダラダラとたむろし、雑誌を開き、長時間のおしゃべりを楽しんでいました。私は入院=本格的な治療=病院のルールは患者を治すためのものなので守らなければ、と思い、周りに悪影響を受けないよう、基本的に守っていたのですが、すぐ立ち去る私を、協調性がないね、と言われたこともありました。

同じ心の病を抱えている者として、本当に言ってはいけないのですが、彼らを見ていると、何故そんなに元気なのに入院するんだろう??と思ってしまいました。好きなアーティストのライブに行くために外泊許可を取り付けたり、毎日毎日恋人が来て、個人部屋だからSEXに至った、と聞かされたり。私は、入院はお金もかかりますし、治療の最終段階だ、と思っていたからです。ルールを守らないこともしかりです。治療のために決められている物なのに、何故破るのか。
また、彼らに私の病の原因を問われ答えると、えー!そんなに大変なのー!?かわいそう!!と不躾に言われたことも苦しみました。個々人の悩みも大変なのでしょうが、入院するレベルの人なら分かってくれるだろう、と甘く考えていた私が間違いだったようです。同じような病なら不躾に傷つけることはないだろう、と考え、他患者が、ハッキリ言ってちっぽけな悩みだなぁ、と思いつつ聞いていても、苦しみには個人差があると考えている私は、理解しようと努めていたのですが。

勿論、こういった患者が一部なのは理解しておりますし、周りに病をおして、こちらが心配でならないレベルの仕事をしている人もいます。しかし、そういう人を応援、心配するとともに、彼らはなんだったのだろう、と思うのです。私には、医療制度を悪用して狡賢く生きているようにしか思えません。こういった患者のせいで、精神医療の偏見、進歩への悪影響があるのではと思えてなりません。

私は、現在、就労不可となり、年金を受給して生活しております。そのこと自体が、周りの人が納めてくれた税金で生活していて申し訳ない、と情けなくてなりません。しかし、医師が励ましてくれていたりすると、そのための制度なのだから当然、と思う気も出てきます。
そこで、彼らの存在が思い起こされるのです。病のせいで働けない、そのための支援法があるのは人権上当然です。しかし、しかし、、、と思えてなりません。

こういった面について先生がどうお考えかお聞かせいただければ幸いです。

 
林: 生活保護であれ、その他のいかなる福祉制度であれ、本来は受ける必要がないのに、金銭が得られて得だからといって受給する人は、いつの時代にもどの社会にも一定の割合で存在します。これをゼロにすることは現実には不可能です。基準や認定を厳しくすればゼロにすることは出来ても、今度は本来受ける必要がある人までもが受けられなくなるからです。
けれども、この【2738】のように、病院全体がそのような人(本来受ける必要のない福祉制度の恩恵を享受している人)で溢れているというのは、当然ながら看過できない状況です。

こういった患者のせいで、精神医療の偏見、進歩への悪影響があるのではと思えてなりません。

その通りです。
但し、問題は患者側だけにあるのではありません。この【2738】のような状況は、病院側がそれを容認してはじめて発生するものです。
精神医療では、真に治療が必要な重症な人を対象にすれば、【1811】統合失調症で措置入院になった弟との今後の関わりについて‏

【0160】拘束して今度は電気ショックなんて、乱暴な気がするのですが 、統合失調症という事実のCase2-5
のような治療状況は当然に発生するのであって、そしてそれらは表面的な様子だけを見れば、批判を受けやすい外観を持つ医療になります。
他方、あまり治療の必要のない軽症な人だけを対象にすれば、表面的にはクリーンで、「ここでは患者さんはみんな生き生きと生活しています」というような、賞賛を受けやすい外観を持つ医療になります。 (林の奥 の、ノルウェイの森 もご参照ください)
そして、「あまり治療の必要のない軽症な人だけを対象」にした医療は、この【2738】のようになる危険性を孕んでいるものです。生活保護の患者は、病院にとっては治療費が確実に支払われるので、医療をビジネスとみなせば上客ということになります。そのような姿勢に傾きすぎている医療者と、「医療制度を悪用して狡賢く生きている」患者の利害が一致したとき、この【2738】のような状況が立ち現われます。

(2014.7.5.)

05. 7月 2014 by Hayashi
カテゴリー: サイコバブル社会, 精神科Q&A, 統合失調症