【2692】私の双極性障害は母からの遺伝でしょうか

Q: 私は40代女性です。双極性障害と診断され、5年になります。
そういえば…と思い当たるのは、20数年前です。
無駄とはいえ、つい犯人捜しをしたくなります。
原因は死んだ母が怪しいと思っています。私の双極性障害は母からの遺伝なのでは、と思っています。
母は、30年程前、泡を吹いて痙攣し白目を剥いて倒れ、起き上がった時は、前後の状況を全く覚えていませんでした。
また、体中に虫が這っている、掻いてくれ!と言いました。
また、父方の祖父が火がついたように怒り出す、亡母の姉が異常にハイな性格…考え出すと、きりがありません。
私は幸い、医療、投薬、カウンセリングを受けて基本的に安定しています。
…が、なぜこのような病気になったと自己憐憫に陥ることたびたびです。成育歴もあるかと思ってしまいますが…(いじめ、否定的な育てられ方)
これらの貧しい材料から、遺伝と決めつけるのは早計ですか?

林: どんな病気も、その原因には、遺伝因子と環境因子があります。つまり、遺伝と環境の両方が複合して、病気が発症するということです。そして病気によって、遺伝因子が強いものもあれば、環境因子が強いものもあります。
双極性障害は、相対的には、遺伝因子が強い病気です。
ただし、この【2692】のケースからもある程度読み取れるように、親が精神疾患であった場合、「精神疾患の親に育てられた」という環境因子が必然的に伴うことが大部分で、このことが遺伝因子と環境因子の関係を複雑化しています。
つまり、仮に、
「親がある精神疾患だった場合、子どもが同じ精神疾患にかかる率が統計的に高い」というデータが得られたとして、子どもがその精神疾患になったのは、「親の遺伝子をうけついだから(遺伝)」か、それとも、「その精神疾患の親に育てられたから(環境)」かは、このデータだけからはわからないということになります。
この【2692】の質問者が、

私の双極性障害は母からの遺伝なのでは、と思っています。

と考える一方で、

成育歴もあるかと思ってしまいますが…(いじめ、否定的な育てられ方)

とも考えておられることは、ですから、正鵠を射ているといえます。

では、ある精神疾患について、遺伝因子と環境因子の関与や大きさはどのようにして判定するのか — これはかなり専門的な研究の説明になりますので、今回は省略します。「遺伝か環境か」という問いは、そう簡単に答えられるものではない(そして大部分のケースは、「遺伝も環境も」である)、ということの指摘にとどめることにします。

そこでこの【2692】ですが、ここまで解説してきたとおり、病気の原因としての遺伝因子と環境因子の複雑さからいって、このメールだけの情報から答えられる性質の質問ではないことは明らかです。

これらの貧しい材料から、遺伝と決めつけるのは早計ですか?

その通りです。
それでもあえて、決めつけではなく相対的な可能性というレベルでお答えするとすれば、双極性障害は遺伝因子が相対的に強いという一般論をもとに、「遺伝によるものが大きいでしょう」という回答になります。(但し、【2692】の質問者が双極性障害であるか否かは不明です。本人からの申告だけではいかにも不十分な情報です)

そして遺伝因子が強い病気である場合、

つい犯人捜しをしたくなります。

という姿勢からは、本人にとっても周囲にとっても何も得られるものはありません。
遺伝因子が強ければ、診断の確実性が増すわけですから、むしろその病気についての理解を深め、再発の防止やさらなる回復を目指すことが、最も有益なことです。

(2014.6.5.)

05. 6月 2014 by Hayashi
カテゴリー: 精神科Q&A, 躁うつ病