【2916】妄想が人生の一部になってしまった母

Q: 10年ほど前に妄想性障害を発症した58歳の母につきまして、ご質問させて頂きたく存じます。
母はどちらかといえばおとなしい性格の専業主婦で、子供の頃からの唯一打ちこんでいた趣味がダンスだったのですが、20年あまり前、38歳くらいの頃に、踊りを習いに行った先の先生に恋をしてしまったようです。
その先生というのが、テレビに出るような一種の芸能人で、美人だった母にしばらくちょっかいを出したようです(でも、実際に手を出すことはしなかったようです)。
父以外の男性とおつきあいをしたことがなかった母は、師匠への尊敬心もあってか、それ以来その男性に執着心を抱いてしまい、それと舞踊を結びつけて、自分とその男性はダンスを通じてつながり合っているんだと思い込んでしまいました。
また母は、その男性は世界でも一流と認められるべき人物で、母自身がそれを助けていると信じて、恋愛妄想と誇大妄想の中間のようなことになってしまったようです。
そして、ダンス教室がとっくに終わった後も、毎月のようにその人の舞台に通っていました。

あまり細かい詳細は省きますが、結果としてどのような行動に出たかと申しますと、自宅にいたずら電話がかかってくれば、その男性が自分の舞台を見に来てほしいというメッセージだと理解し、こっそり出かけて行ったり、そのコミュニケーションがうまくとれなくなると、非難や疑問の手紙を出すといった次第です。
(ちなみに、最初の頃は本当にその男性は母にいたずら電話をしていたようです。)

それが最初に発覚したのが10年ほど前、母がちょうど更年期にさしかかる頃で、その時はひどい妄想障害が出たため(その男性が大勢の人間を操っていると思ったり、空を飛ぶヘリコプターがその男性のスパイだと言ったりという具合です)、病院に連れて行って妄想を抑える薬をもらったところ、かなりおさまったものの(それでも、男性とのつながりは信じていました)、その後たいへんな鬱状態になって、長いこと薬を飲んでいました。

それからその男性の舞台を見に行くことは父と私で禁止していたのですが、最近になって、なんとその男性のマネージャーから父の職場に連絡があり、母が過去半年の間にその人に送ったという何通もの手紙のコピーが送られてきました。
それから判断するに、男性との関係に関する妄想の内容は以前と変わっていないようでしたが、前回のような強度の被害妄想は出ていないようでした。
そして、これで発覚したのですが、母はもう2年ほど前から、妄想の薬を飲んでいませんでした。
これまでの数年間、私と父に嘘をついていたとは言っても、あとは軽い鬱状態にある程度にしか私たちには見えず、異常な言動も見られなかったので、それほど妄想はひどくないと思っていたのですが、この数ヶ月でまた悪化したのかもしれないと思います。

長々と書いてすみません、お伺いしたいのは、これからの長期的な、家族としての母への接し方についてです。

まずは母にもう一度妄想の薬を飲んでもらうことで、病院に行けば何らかの投薬をしてくれるだろうということは理解しております。
私はときどき悲観的な気持ちになって、母はもう治らないかもと思うあまり、病気はもう母の一部だから、もう母の妄想を受け入れて暮らしていくしかないと決めつけてしまいましたが、まだきっと治療の余地はありますよね?
治療の余地があるのであれば、母をまず病院に連れて行って、今度こそ続けて薬をちゃんと飲ませて、様子を見て行こうと思います。

ですが、母の妄想は、もう母の人格および人生の一部になってしまっているので、当分、または一生治らないと考えるべきなのでしょうか。
その場合、母には、その男性の舞台を見に行ったりすることを、許した方がよいのでしょうか。
他に趣味もなく、昼間は父のいない家で一人でいることがほとんどの母にとって、それが唯一の楽しみでもあるのだから、どうせ妄想が治らないのなら、行かせてあげた方がいいのでしょうか。 (男性の方は、不思議なことに、母にもう舞台を見に来ないでくれとか、強いことは何も言わなかったのです。)
それともやはり、それは母の妄想を悪化させるだけの、危険なことなのでしょうか。
いちばん怖いのは、母の妄想がエスカレートして、当の男性にまた働きかけようとするかもしれないこと、または、それをひどく拒絶されて、自殺を考えたりしないかということです。
(母自身は、自殺について考えたことはあったらしくても、実行しようとしたことはないのですが、母の母は軽い自殺未遂を二度ほど起こしたそうです。)

それから、母には心理カウンセリングをすすめるべきでしょうか。
母の妄想には、父との関係や、母の両親との関係など、母の人生がぜんぶ詰まっているように思えます。
母はカウンセリングにうんと言うようなタイプではないのですが、もしもカウンセリングはとても効果的になりうるということなら、説得を試みようかと思っています。
その場合、どのようなカウンセリングが適しているか、お教え頂ければ幸いです。

 
林: お母様は妄想性障害か、統合失調症です。診断が何であるにせよ、いったんは薬によって妄想がよくなっていたわけですから、薬を再開するのが最善です。というより、他の方法では改善は望めないと考えるべきです。

治療の余地があるのであれば、母をまず病院に連れて行って、今度こそ続けて薬をちゃんと飲ませて、様子を見て行こうと思います。

是非そうしてください。

ですが、母の妄想は、もう母の人格および人生の一部になってしまっているので、当分、または一生治らないと考えるべきなのでしょうか。

そんなことはありません。そのように見えるだけです。

その場合、母には、その男性の舞台を見に行ったりすることを、許した方がよいのでしょうか。

やめたほうがいいでしょう。

それから、母には心理カウンセリングをすすめるべきでしょうか。
母の妄想には、父との関係や、母の両親との関係など、母の人生がぜんぶ詰まっているように思えます。

そのように思えるかもしれませんが、妄想は妄想です。カウンセリングでは治りません。もう一度薬の治療を再開させてあげてください。それがお母様にとって最も幸せなことです。

(2015.3.5.)

05. 3月 2015 by Hayashi
カテゴリー: 妄想性障害, 精神科Q&A, 統合失調症