【2511】人の顔を覚えることが難しい、人の心境がわからない

Q: 20代女性です。今はもう大学生ですが、高校の頃あたりに自分がクラスの人を覚えるのにはとても時間がかかることに気づきました。どのぐらい時間がかかるかと言うと2年間同じクラスだった40人以上の人数の内の半分以上の顔を覚えることができずに卒業してしまったほどです。部活が同じだったり、一緒に遊びに行ったりする友達や、顔のパーツに特徴のある人は覚えることができたのですが、そんな友達でもマスクなどで顔のパーツを隠したり髪型を変えたりすると誰だかわかりません。「この間〇〇さんを町中で見たんだよね!」みたいな経験も全くなく、友達と一緒に歩いていて「あ、今の〇〇さんだったよねー」と言われて「えっ、嘘だ」という会話がよくある感じです。丸一日何かのイベントで一緒に過ごしてたくさんお話をした人でも、1日ではその人を覚えることができません。なので、「この間一緒にイベントの手伝いしたのに、覚えてないの?」と言われてしまうと「またやってしまった・・・」と悲しい気持ちになります。一緒にイベントをやって過ごしたことは覚えているんです。向こうから「久しぶり!一緒にイベントやった〇〇だよ!」と言ってもらえなければ気づくことができないのです。TVでも特徴のある芸人は覚えられるのですが、ジャニーズ系などの整った顔を覚えるのは得意ではないので、会話をするにも「名前は聞いたことある…かな」で誤魔化して会話を続けています。視覚的に問題がある訳でもなく、大学も芸術大学に通っており、精密的なデッサンは得意です。物や動物の見極めはできる方かなと自分で思っています。一時期、人の顔を無理矢理覚えようとして似顔絵を何回も描いたりしていましたが、頭がパンパンになりの最初に描いた人を忘れてしまいます。覚え方を友人に相談しても「パっと見たら誰かわかる、覚える努力とかは無い」とか「人に興味がないからではないか」と言われ、自分はもしかしたら思った以上に普通ではないのではないかと不安になってきました。そう考えているうちに、中学・高校の頃に周りの空気がよめなかったことや、クラスの誰かの友人関係について周りの人は気づいていても自分だけ気づけていなかったり、「裏の心境・暗黙の了解」のような流れを読み取って自分で理解することがとても難しかったことも自分が普通じゃななかっただけで、周りのみんなが場の雰囲気を読み取るのが得意だったわけではなかったのだろうか・・・とか、いくら気をつけようと思っても注意力がないことや、周りの注意を引きたくて川に飛び込んでしまうようなことも、何事に対してもウズウズを押さえきれなくなって唐突に行動してしまうことも、どこかおかしいからなのかと思うようになってしまいました。幸いにも周りの友達や知り合いは優しい人ばかりですが、友達の心境に気づいてあげられなかったり、自分の行動で心の中では困っているのではないかと心配になっています。空気を読むこと自体は友達に注意されてから克服できましたが、人の心境は努力してもなかなか理解できず、相変わらず後から言われて気づいて落ち込むことが多いです。自分はもうこういう人間として生きていくしかないのでしょうか。もし克服できるならば、顔を覚えることも心境に気づくこともできるコツなんてあるのでしょうか。長い文章になってしまいましたが、先生のお考えを聞かせていただきたいです。どうぞよろしくお願い致します。

 
林: 発達性相貌失認 (先天性相貌失認)にほぼ間違いないでしょう。相貌失認についてのQ&A にあるいくつものケースと同様です。

高校の頃あたりに自分がクラスの人を覚えるのにはとても時間がかかることに気づきました。

このように、十代以後になってから症状に気づくのが、発達性相貌失認ではごく普通です。実際はもっと前から症状があったと思われますが、ある程度の社会生活が始まるまでは気づきにくいのです。

一緒に遊びに行ったりする友達や、顔のパーツに特徴のある人は覚えることができたのですが、そんな友達でもマスクなどで顔のパーツを隠したり髪型を変えたりすると誰だかわかりません。

このことは、人の顔を判別する際、意識的・無意識的に、顔のつくり以外の情報を活用していることを示しています。相貌失認の方によく見られることです。

相貌失認の病態は一種類ではなく、「顔が覚えにくい」という中心症状以外の症状は様々です。この【2511】の方は、

視覚的に問題がある訳でもなく、大学も芸術大学に通っており、精密的なデッサンは得意です。

とのことですが、顔の区別以外の視覚に問題があるケースもあります。それは視覚全体の場合もあれば、 【2510】人の顔が覚えられません。車の区別もつきません。‏ の方のように、「全体像を基に、似たものを区別する」という機能に問題があると思われる場合もあります。この【2511】の方は

物や動物の見極めはできる方かなと自分で思っています。

とのこと、ここに書かれている「動物の見極め」が、たとえば似た犬同士の区別のようなことを指しているとすれば、「全体像を基に、似たものを区別する」という機能には問題のないケースであると思われます。

また、

中学・高校の頃に周りの空気がよめなかったことや、クラスの誰かの友人関係について周りの人は気づいていても自分だけ気づけていなかったり、「裏の心境・暗黙の了解」のような流れを読み取って自分で理解することがとても難しかったことも自分が普通じゃななかっただけで、周りのみんなが場の雰囲気を読み取るのが得意だったわけではなかったのだろうか・・・

これは広汎性発達障害の特性を思わせるものです。発達性相貌失認の方の中には、広汎性発達性障害の特性を併せ持つケースと、そうでないケースがあります。 【1509】アスペルガーと診断されていますが、人の顔が覚えられません などをご参照ください。

(2014.1.5.)

05. 1月 2014 by Hayashi
カテゴリー: 発達障害, 相貌失認, 精神科Q&A