【4454】母が Q アノン等のデマ情報に洗脳されました

Q: 74歳の母の話です。 私は30代男性です。
母は、山の中で、父と犬2匹と暮らしています。

はじまりはアメリカ大統領選だったと思われます。すでに投票・集計は終わっていて、バイデンが勝利と言われていたころ、母は「それは不正投票だから、最高裁ですべて明らかになって、トランプが勝つ」というようなことを言っていたと思います。
自分と父は「そんなわけがないでしょう」と一笑に付していたと思います。

時が経って、今から2ヶ月ほど前のことです。「世界緊急放送が流れる!それで全てが明らかになる」というようなことを真剣に電話してきました。そしてそのあと、2つほど、個人で発信しているYOUTUBEチャンネルを私に送ってきて、「これをみて!」といった感じでした。(それぞれ視聴数1000かそれ以下の弱小YouTubeで、見るからに頭のおかしいチャンネルでした。)
テレビを探しても当然そんなニュースは一切流れておらず、BBCやCNNのネットニュースもチェックしましたが何もありませんでした。それから真剣に論理的にラインで説得を試みました。私はしゃべるのがうまくないので、ラインの方が冷静に伝えられると思いました。ラインで何百行か、送ったと思います。少しはわかってくれただろうかと期待して、私はまた日常生活に戻りました。

それから数日経ち、母は今度は宗教系の動画を送ってきました。内容は、宇宙のような背景に、人のような形のシルエットが中央にあり、「私は創造主です」といった自動音声がツラツラツラツラと流れているものでした。見るに耐えず、一瞬で見るのを止めて、母に「2度とこういう類のものを送ってこないでくれ」と電話し、約束させました。

それからまた2~3週間後、今度はまたQアノン系の思想に染まった人のブログを送ってきました。ディープステート等について記述されていたと思います。そのときは、二言三言、記事を全力で否定したあと、「いまの母さんにはわからないかもしれないけど、こういったものを送ってこられると普通の人はものすごくストレスを受ける。だから、二度と送ってこないでくれと前も言いました」とラインしました。
そのとき母は「わかりました」と返事をしました。

その後、私が実家に帰省したとき、母は「ファイザー製コロナワクチンは、打ったら5年後に内臓が腐ってしぬ」や「日本のニュースはウソばかりで最悪」、「将来自分たちにはトランプから6億円が支払われる」、「ビルゲイツは極悪人で、すでに自殺している」(その日のTVニュースで、ビルゲイツは離婚したと報道されてました)などと言ってました。

父と一緒にどれだけ論理的に説得しても、まったく聞く耳をもたず、「あとでわかる」とばかり繰り返し、時間があるとイヤホンを使って、スマホから何か音声を聞いています。

この先、その、母の情報源が、なにか危険なことを指示しようものなら、いよいよ取り返しがつかなくなってしまうと心配になってきました。
(すでにワクチンを打たないと言っているので、実生活に支障が出ているわけですが)

一体どうしたらいいのでしょうか。四六時中一緒にいる父は辛抱強く付き合っていますが、このままでいいのでしょうか。なにかよい手立てはないのでしょうか。

 

林:
74歳の母の話です。

メールはこの一文から始まっていますが、このようなケースでは、74歳に至るまでのこの方がどのような方であったかが一つの重要なポイントになります。それは実際は非常に複雑な話になりますが、あえて単純化すれば、「それまで普通の人だったのか、それともとても変わった人だったのか(今回のご質問のテーマに関連していえば、不合理なことでも信じ込みやすい人だったかどうか)ということです。それによって精神医学的な判断は大きく変わってきます。
しかしその重要な情報がこのメールからは不明ですので、まず、仮に、「それまで全く普通の人だった。決して不合理なことを信じ込むような人ではなかった」と仮定します。その仮定の下では、お母さまの現在の状態は、認知症性疾患の始まりである可能性が高いということになります。
妄想性障害の可能性も考えられますが、この【4454】のような形は妄想性障害としては非典型的です。

逆に、「もともと不合理なことを信じ込みやすい人だった」という場合は、その「信じ込みやすい」の程度によることになります。信じ込みやすいといっても、現在と比べればはるかに軽かったとすれば、やはり認知症性疾患の始まりの可能性を考えることになります。

ここまでの範疇ですと、精神科での治療の対象ということになります。

もともとの傾向と現在の状態にかなりの近縁性・連続性がある場合は最も難しいです(そもそも、「かなりの近縁性・連続性」とは、どの程度をいうのかという問題もありますが、とりあえずその問題はスルーすることにします)。「妄想あり」(そこには認知症の可能性も妄想性障害の可能性も含まれます)と言えるかもしれませんし、「思い込みが強い性格」としか言えないかもしれません。
仮に「思い込みが強い性格」という判断になった場合、それでも理論的には精神科での認知行動療法の対象であるということはできますが、現実的には精神科での治療に期待するのは難しいと思います。
したがってこの場合は、

一体どうしたらいいのでしょうか。四六時中一緒にいる父は辛抱強く付き合っていますが、このままでいいのでしょうか。なにかよい手立てはないのでしょうか。

このご質問に対する有効な回答は現実としてはありません。

(2022.2.5.)

05. 2月 2022 by Hayashi
カテゴリー: 妄想性障害, 精神科Q&A, 認知症