【4230】統合失調症のふりを直したい

Q: 中学2年生の男子です。
僕はここ2か月くらい、統合失調症のふりをしてしまいます。
具体的には、学校や外などでみんなに見られていると思い込んで下を向いたり、笑って話している人がいると、僕の悪口を言ってるに違いないなんて思ったりします。この時は自己暗示というか、自分で自分の考えを促進させる?ような、なんていえばいいかわからないのですが、でも、矛盾するのですが、本当に見られていると思ったり、本当に悪口を言われているようにも感じます。
もちろん、このことを誰かに話したりはしないので、完全なる自己満足になっているのですが、どうすればこの癖を直すことができるでしょうか?これのせいで勉強ももともとできたのですが、手がつかなくなってきて大変困っています。
あと、家にいるときは前までは統合失調症のふりは出てこなかったのですが、最近はやけに耳鳴りや物音に敏感になってしまいます。また、一人の時は暴言を結構な大声で言ってしまいます。本当に障害で困っている人がいるのに不謹慎な自分への自己嫌悪だと思うのです。

一応正直に書いたつもりですが、もしかしたらどこかに誇張したことがあるのではないかと不安になります。

文章が滅茶苦茶になってしまいました。これも自分では統合失調症のふりの一つだと思います。
先程も言いましたが、どうすればこの癖を直すことができるでしょうか?
ちなみに親戚や家族に統合失調症のひとはいないと思います。

 

林: 質問者は統合失調症を発症している可能性が高いと思います。
この回答は、「統合失調症のふりをしている」と言っている人に、「あなたは実際に統合失調症の可能性が高い」と言っているのですから、矛盾した回答であると感じられると思います。
いったん統合失調症から離れ一般論として考えたとき、「私はXのふりをしている」と言っている人に、「あなたは実際にXである」と言ったら、誰が聞いても矛盾した回答だと感じられるでしょう。演技をしていると自覚している人に、それは演技ではない、と回答しているのですから、わけがわからないと言われても仕方ないでしょう。

けれども統合失調症では、そういう一般論は通用しない、特殊な事情があります。それは自我障害という症状です。統合失調症の症状というと、幻聴、被害妄想など、いくつものものが挙げられますが、そうした多彩な症状の根底にあると考えられるのが自我障害です。
自我障害という概念は難解で、とてもひとことで説明できるものではありませんが、あえて単純化すれば、「自分が自分であること」「自分の思考や動作(など、自分から発生するもののすべて)は自分の意志によるということ」、そういう、全くあたりまえで、普通は意識さえしないこと、それが障害されるということです。
たとえば統合失調症の代表的な症状である幻聴は、典型的には「他人の声が聞こえる」という症状ですが、その聞こえる「声」の内容は、自分の中に発生したものにほかなりません。ところがそれが他人のものと感じられる。これは自我障害の一つの現れとして説明できます。

この【4230】の質問者は、自分が統合失調症のふりをしている、とおっしゃっています。その内容を少しだけ細かく分析すると、
1. 自分がしていること(そこには思考、動作など、自分から発生するものすべてが含まれ得ます)は、統合失調症の症状に一致している。
2. しかしそれは真の自分ではない。
3. だから自分がしていること(=統合失調症の症状)は、演技である。
という論理構造になっています。
ここで、2.の「真の自分ではない」という表現はややわかりにくいかと思いますが、「自分がしていることは統合失調症の症状に一致していることを自分ではわかっているが、本当はそんなことをするつもりはないのにしてしまっている」というような意味です。このような自分に質問者は違和感を持ち、「自分は統合失調症のふりをする癖がついてしまった。どうしたらいいのだろうか」という質問が生まれていると考えられます。言い換えればこれは自我障害の萌芽で、統合失調症の前駆期または初期であるとみることができます。
さらに質問者は、

でも、矛盾するのですが、本当に見られていると思ったり、本当に悪口を言われているようにも感じます。

とも言っておられます。この「感じ」はまさに統合失調症の前駆期または初期の症状です。
おそらく質問者としては、「”ふり”をしているうちに、それが昂じて、”ふり”ではなく本当であるように錯覚するようになってしまった」と解釈しておられるのだと思いますが、その解釈は誤りで、当初は症状(「見られている、悪口を言われている」などの症状)が軽度であったものが、徐々に強まってきたとみる方が妥当です。

どうすればこの癖を直すことができるでしょうか?

上の説明の通りで、これは癖ではありません。統合失調症の前駆期または初期の症状です。少なくともその可能性が濃厚です。精神科を受診してください。

なお、統合失調症の人が、ある程度回復した時点で「自分は統合失調症のふりをしていた」と述べることは少なからずあることは精神科では昔からよく知られています。【3781】私は統合失調症のふりをしていたんです【3946】前は統合失調症のふりをしていました。今は統合失調症でしょうか。などもご参照ください。

(2021.2.5.)

05. 2月 2021 by Hayashi
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